04

『はじめまして、こんにちは。早速本題に入らせていただきます。先程更新された楽譜ですが、「インフェルノ」の楽譜ですよね? 知っている旋律だと思い、今聴いています。そこで気付いたのですが、28小節目の音はドではなくシなのではないでしょうか? 間違っていたらすみません』

「……ウソだろ」

 思わず呟き、再度送信時間を見る。

 更新からほんの五分程度しか経っていない。

「一回聴いただけで判断したって感じじゃねぇか」

 音楽の才のある者、ということか。

 幼い頃から音楽に触れていたか、麗のように絶対音感を持っているか。

 後者ならば前者も並行しているのが世の常だろうが。

「どこからのメールか割り出してもらえば?」

「……だな」

 横から画面を覗きながら言う麗の言葉に、ひとつ頷く。彼の考えを先読みしたような言葉だ。

 仁が部長をしている軽音部だが、現在部員は仁と麗の二人しか居ない。

 以前は他にも何人か部員が居たのだが、全員卒業やそれぞれの事情による退部などで居なくなってしまった。

「部員が欲しいとこなんだよなぁ」

 うーん、と首を捻る。

 そもそも学生だろうか。この学校の生徒だろうか。分からないことには勧誘も出来ない。そうでなくても会ってみたい。

 とにかく返信をして様子を見よう。

 メールが続けば、せめて学生かどうか分かれば。

「機械得意な人に頼んどくから、練習してたら? すぐに返信が来るとは限らないんだし」

「んー……」

(『あいつ』に頼んだら一瞬だろうけど、時期が悪いもんなー……。しかも内容が内容だから不機嫌になりそう)

 息を吐き出してまたひとつ頷き、仁はノートパソコンを閉じた。




―――――




 いつものように放課後に校舎裏に行ったリンは、違和感を覚えた。

 というより、いつもの歌声が聴こえない。

「……?」

 屋上の方を見上げるも、その先が見える筈も無く。

 もし見えたとしても、いつも誰が歌っているかまでは見ていないのだから確認しようがない。

 何かあったのだろうか。毎日あったものが無いと気になる。

 今日はたまたま用事があって帰っただとか、そういう理由があるのかも知れないが。

 日本のそれに限らず、歌は好きだ。母国でもやはり歌を口ずさむことがあった。

「〔今日は帰ろうか……いや、〕」

 どうせ時間があるのなら、本校舎の中を見に行くのもたまには良いかも知れない。今は部活をしている時間だろう。

 年若い生徒たちがどんなことをしているのかというのも気になる。

 思い立ったが吉日、といった様子で、リンは意気揚々と校舎の方へ入っていった。

 音楽室では吹奏楽部、視聴覚室では演劇部、他にも茶道部や放送部、各種同好会などが放課後の校内でも賑わっている。

 もうほとんどの一年生も部活を決め入部を終えている頃だ。勧誘するような姿は見られず、時折ポスターが貼られている程度。

 そうしているとふと、何かの音が聴こえてくるのに気付いた。空き教室の並ぶ、他からは少し離れた校舎の方だ。入学の時、イベント等以外ではほとんど使われることが無いと聞いていた。

 近付くごとに音は大きく、鮮明になってくる。

「〔楽器の音……?〕」

 先に吹奏楽部は見てきた。他に楽器を使う部活など、何があるのか。

 興味本位から、リンはまっすぐそちらに足を向けた。

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