02
翌朝。
この日は先日行われた定期テストの結果発表の日だ。
結果を見た香は愕然とした。
『一学期中間テスト 一学年
一位 八千草麗
二位 日野香
三位 中西優子
……』
「うそ……」
だってまさか、そんな。自分が二位だなんて。
だがそう思ったのは香だけでは無かったようだ。
「ちょっと、何よこの上位二人! 今までのガッコじゃこんな順位ありえなかったのに!」
「優子……」
どうやら三位の生徒のようだ。彼女もこれまで一位を保ってきていたのだろう。
決して地味な様相では無い彼女だが、勉強に関しては努力を続けてきたと思える言葉だ。
彼女の言葉を聞いていたらしい男子生徒が一人、笑ったのが聞こえた。
「
「ウソ! ヤッチーってそんなすごいの?」
とても驚いた様子の彼女と同じように、香にとっても本日二度目の驚き。
満点以外取らない? そんな天才がこの学校に居るというのか。
いや、それより彼女は今、「ヤッチー」と言ったか。それは、有名かつ今有数の人気を誇るシンガーソングライターの呼び名だ。掲示板の名前を見た時、たしかに同じだとは思ったが、まさか本人なのか。
芸能活動をしながら学校に通っている状況で、もし「今回も」満点だったというなら、よほどの天才か、睡眠などを削って相当の努力をしているということではないか。
だけど、それなら自分だって。
これまで努力を続けてきた。今だって毎日机に向かって勉強してる。
届かないというのか。二足のわらじを履く者にも。
その日の昼休み。
いつものように香が教室を出る前に、一人の青年がやって来た。胸元に締められたネクタイの色は青。三年生のようだ。
突然現れた青年の姿に、教室内がざわめいた。
「うそ、生徒会長!?」
彼には香も見覚えがある。入学式の日、生徒代表で挨拶をした
「生徒会長って、確か模試で四位だったよな」
「軽音部の部長もしてるんだって!」
「天才かよ」
「イケメンだし!」
「メガネが知的でステキ~」
彼らの言う模試とは、全国高校模擬試験のことだ。一~三年の高校生が集い同じ問題を解く。それが彼はこの日本全国で四位だったということだ。
髪は金に染めていて、知的と言うには少し遠いかも知れないが、まあ恐らく突っ込まない方が良いのだろう。
生徒たちが口々に言う言葉には耳も貸さない様子で、仁は教室内をぐるりと見渡す。
が、目的の「何か」は見付からなかったらしく、すっと息を吸った。
「この中で昨日の放課後、屋上に居た奴は居るか?」
教室内に響いた声に、言葉に、香はピクリと肩を震わせる。
これは恐らく自分のことだ。昨日の放課後、屋上には他に誰も居なかった。
当然、他のクラスメイトは部活に行ったり各々の事情で帰ったりしていて、屋上になど行かない。
その旨を彼らが口々に言う中、香は一応手を挙げてみる。仁の視界には入らないだろうと、覚悟の上で。
やはり気付かれる気配は無く、別のクラスだろうかと首を捻った仁はその教室を出た。
ふぅ、と小さく息をついて、香は手を降ろす。提げていたままだった弁当の袋を握り直し、また屋上へと急いだ。
早くしないと、弁当を食べる時間も、勉強をする時間もなくなっていってしまう。
机の脇に吊るされた鞄から顔を覗かせている模試の結果は、全国三位。
誰にも気付かれなくたって良い。友達も出来なくて良い。母さえ居れば。
ただ日常の中に流れていく。心の中で香はそうはっきりと決めていた。
全てはただ、『母の為に』。
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