第7話 黒尾家と佐藤と、動物園は後日談で…
朝5時に聖和から電話があった。モーニングコールのつもりだったらしい。ほかに用件はなかった。
「なあ、聖和。今度お姫様抱っこをさせてくれないか」
「…………」
「違うぞ。確認したことがあるだけ━━」
「すまん」
電話を切られた。その直後に飛んできたメールに『偏見は持っていない。でも悪い。応えられない』とあった。
とんでもない勘違いをされているらしいが、聖和だし、どうでもいいことではある。スマホをカウンターに置いて、朝食作りと並行して弁当作りに入った。
「黒尾くん、おはよう」
佐藤が制服姿でリビングに入ってきた。寝ぐせはない。
「おはよう。まだ寝ててよかったのに。疲れてたんだろ?」
「う、うん……」
佐藤は目を逸らして、そろそろとカウンターに近づいてきた。
「あのね、昨日はごめんなさい」
「何がだ?」
卵をかき混ぜながら訊いた。
「わたし、昨日あそこで寝ちゃったでしょ」
「ああ、そんなことか。今度からはちゃんとベッドで寝てくれよ? 夏場でもあそこは冷えるんだよ。風邪ひいたら大変だからな」
「……うん。あ、手伝うね」
「いや、いいって」
といってる間に佐藤が台所に入ってきた。
「奥の棚にエプロンが畳んで置いてある。油が跳ねたら染み抜きが面倒だからエプロンをつけてくれ」
「うん」
佐藤が後ろを通った。ほんのりと女性の香りがした。
黄色いエプロンをつけながら佐藤が振り返った。
「本当に発想が主婦だよねえ、黒尾くんって」
「あたりまえだろ?」
「……そっか。主婦は褒め言葉になるんだね」
「褒め言葉だろ、普通に」
何いってんだと思い佐藤を見たら、彼女は口に手をあてておかしそうに声を漏らして笑った。
「そっかそっか。うん。覚えておくよ」
「朝から何いってんだよ」
「ううん。じゃあ何しよっか」
佐藤が横に来て手を洗いながら訊いてきた。
「なら、悪いけど朝食のほうお願いしていいかな。味噌汁用の
「おかずは?」
佐藤は出汁をとってある鍋やボールに入っている食材を確認しつつ尋ねてきた。
「本当いうと弁当を作るついでに適当に見繕うつもりだったんだが、せっかく佐藤さんが手伝ってくれるんだから弁当に入れないのを食べさせたいかな。食材は何使ってくれてもいいからさ、悪いけどそっちは任せてもいいかな」
佐藤が俺の手元や並べてある小ボールを見回して、うんと頷いた。俺が弁当で作ろうとしているものをだいたい把握したのだろう。できる女の子だ。
「じゃあ任せてもらうね。でも文句はいったらダメだからね」
「いわねえよ。っていうか、結構ズバズバいうよな、佐藤さんって」
「それは黒尾くんだから、かな?」
「はい? どういう意味だ?」
「主婦だもんね、黒尾くんは」
「まあ、たしかに希望をいってくれたほうが作るのも楽だよな」
「うーん。うん、そうだよね。黒尾くんだもん」
佐藤が微笑んだ。大人びた顔をしていた。ドキリとして手が止まってしまった。実は佐藤さんてば年齢を偽っているのではなかろうか、とそんなことを考えてしまった。
「じゃあ作っちゃおうかな」
鼻歌交じりで冷蔵庫を開けて、少しだけ考えた様子を見せたが、決めたのかささっと食材を取り出した。まな板と包丁を共有しつつ、狭い通路を譲り合って作業に勤しんだ。
佐藤は、味噌汁と『しらす干しと梅紫蘇入り大根おろし付きサラダ』という渋い朝食を作った。
「ちょっとすまん」
盛り付けをしているところに横から箸を伸ばした。
「もう、黒尾くん。行儀悪いよ」
「ちょっとだけだって」
ひと口サイズにカットされた青菜を中心としたサラダに、ほんのりと赤みを帯びた大根おろしを乗せて、
なんだかんだといいつつ、佐藤も気になっていたようだ。どうかなあ、と心細そうに訊いてきた。
「これはいける。うまい。雫たちには酸っぱいかなと思ったけど、そんなことないな」
よかったあ、と佐藤が本音らしきものをこぼした。
「うちの妹たちも好きなんだよ?」
「すでに実証済みだったのか。おみそれしました」
深々と辞儀をした。
「いえいえ。じゃあ代わりといったらなんだけど、黒尾くんのお弁当も味見させてもらうけど、いいかな?」
「おう。どんと食え」
「自信たっぷりだね」
「当然だろ。俺の師匠たちはその道のプロばかりだからな。ちなみに師匠たちは佐藤さんと会ったあの商店街のおじさんやおばさんたちだ」
「ええー、それをいっちゃうの?」
佐藤が抗議の声を上げた。
「なんでだ?」
「だってそれだと、もし黒尾くんが味付けに失敗しててだよ? もしそれでわたしがおいしくないといったら、商店街のおじさんたちを否定したことになるよね」
わかってるのかなあ、と責めるように佐藤はいった。
「お、そこに気づいたか」
「もしかして確信犯だった?」
笑ってごまかしておいた。ずばりそのとおりだからだ。これこそが俺の自信の源だ。
「ひどいよ、黒尾くん」
「まあまあ。文句は食べてからいってくれ」
さあ、といって大きめの弁当箱に詰めていたおかずを引き寄せた。今日のはいつもの残り物を詰めただけの黒い弁当ではない。カラフルな弁当だ。彩りも栄養バランスもちゃんと考えてある。
佐藤が俺の持っていた箸を奪い、上目遣いでむっと睨んできた。
「遠慮はしないからね」
「望むところだ。さあ、食ってみろ」
胸を張り、挑戦的な目を向けてやった。すると佐藤が真剣な目を弁当箱に落として、受けて立つように箸を構えた。
なんか緊張してきた。佐藤の箸が伸びる。
「それは雫の好物のグラタンコロッケだ。数が少ない」
佐藤の箸が止まった。そして方向を変えた。
「それは邦志の好物のお芋餃子だ。減ると邦志が悲しむ」
再び佐藤の箸が止まった。向きを変える。
「それは雫と邦志が好きなチーズ入りふわふわ卵焼きだ」
「黒尾くん?」
佐藤が箸を構えたまま首を回して下から睨んできた。
「本当は食べてもらいたくないんだよね」
「そんなことねえよ」
「じゃあどれなら食べてもいいの?」
えっと、と弁当の上に素早く目を奔らせた。
「これとか?」
指さした。佐藤がそれを見て、密着するほど身体を寄せてきた。今にも殴られそうという意味でドキドキしている。
「これは何かな?」
箸でそれを摘まんで、佐藤が問うような笑みを向けてきた。ただし、目は笑っていない。ちょっと怖い。
「バランです」
謎の威圧感に気圧されて、正直に答えた。
「これは食べられるのかな?」
「プラスチックだから無理かも……」
「かもじゃなくて無理だよね?」
ごもっともです。
バランとはよく弁当に入っている緑色のプラスチックの飾りだ。幼稚園の演劇なんかで使われそうなギザギザの草を思い浮かべてもいいかもしれない。
佐藤が、もう、といいながら離れてくれた。こっそりと安堵の息を漏らした。
「ねえ、黒尾くん? 念のために訊くけど、雫ちゃんたちの好物しかいれていない、なんてことはないよね?」
「何いってんだよ。そんなのあたりまえだろ?」
「どうあたりまえなのかなあ」
「だから、あいつらの好物ばかりだよ。でもちゃんと野菜も入れてるんだぞ。いつも気づかれないようにするのが大変でさ、まあだからこそ腕が鳴るってもんなんだけど」
グッと拳を握って、にやりと笑ってみた。
ふいに、佐藤が箸をテーブルに揃えて置いた。真剣な表情で見つめられて、思わず固めた拳を解いてしまった。
「黒尾くんの好きなものは?」
「雫と邦志」
佐藤が、ああもう、といいながら、困った子を見るような目をした。真剣な顔で見られるのも嫌だが、こんな顔で見られるのも不満だ。
「そうじゃなくて食べ物の話だよ」
佐藤がため息交じりにいった。
「ねえ、黒尾くんは自分のことはどう思っているの?」
「さあな。考えたことない」
「どうして?」
「考える暇がなかったから」
「どういうこと?」
「そのままの意味。はい。この話は終わり」
弁当箱を移動させて、台所の壁に取り付けている卓上扇風機のスイッチを入れて、料理の熱処理にかかった。
「わかりました」
佐藤が諦めたようにいった。だが諦めたわけではなかった。
「じゃあもう何も聞かないから黒尾くんの好きなものだけ教えてください。私が作って追加するから。ね? それならいいでしょ?」
「そんなの別にいいって」
「よくないよ」
「いいんだって」
「よくないよ。子供はそういうの、わかっちゃうんだから」
「何がだ?」
「黒尾くんが雫ちゃんと邦志くんのことを大事に思っていることはわかってるの。本人たちもわかってると思う。でもね、2人と同じくらい黒尾くんが楽しまなくちゃ、気づいちゃうの。重く感じちゃう。子供ってね、大人以上にそういうことに敏感なんだよ? 特に雫ちゃんは女の子だから気をつけないと気を遣わせちゃうよ?」
佐藤は笑いながらいった。でも瞳には真剣な色をある。
「佐藤さん? 何かあったのか」
「内緒。これでお相子だよね?」
そういって佐藤は無色透明でそのまま大気に溶けてしまいそうなほどに自然な笑みを見せた。これが本当の佐藤なのかもしれない、と思った。
「実は腹黒だろ、佐藤さんって」
「うーん、どうなんだろうね」
突いてもまるで響かない。もう何を聞いても答えないだろうと感じた。
両手を挙げて降参のポーズを取った。
「俺の好物は『きんぴらごぼう』だよ」
「ほんとかなあ」
「この期に及んで嘘はいわねえよ。疑うなら聖和に訊いてみろ。あいつは金持ちのくせに、昔俺の誕生日に、ケーキでもチキンでもなく『きんぴらごぼう』を持ってきた男だ。俺のことを、安上がりなやつで助かるなんていってな。まあ作ったのはあいつの母親だけどさ」
「そこまでいうなら信用しておくね」
佐藤はむんとやる気をにじませた。
「じゃあ作っちゃうから、黒尾くんは雫ちゃんたちを起こして来ていいよ? そろそろ起こす時間でしょ?」
「いや、手伝うって」
「ほら、さっさと起こしに行かないと。動物園に行くんだよね」
「行くけどさ━━わかったから尻で押すなって。それは女の子としてどうなんだよ」
「お尻じゃないよ。背中で押してるの」
「一緒だろうが」
「意味が全然違います」
もういいから、といってそのまま台所から追い出された。
強情なやっちゃ。しばし睨み合ったが根負けした。
「わかったよ」
頭を掻いてリビングに回った。佐藤はすでに動作で冷蔵庫から新聞に包んだごぼうを選び出していた。それがごぼうだと確信していたようだ。
「なあ、よければ一緒に行かないか」
考える前に口を衝いていた。佐藤は顔を上げて、えっ、という顔をした。目を大きく開いて、パチパチと瞬きした。
「動物園、のことだよね?」
「あ、いや……」
俺、何いってんだろ。昨日会ったばかりだぞ。実際には高校に入ってから会っていたはずだから1か月は経つんだけど、俺にとっては昨日の今日なわけで……。
ほんと、何いってんだろ、俺。
「ごめん。佐藤さんも疲れてるんだよな。これであいつらを連れて動物園なんて行った日には月曜はふらふらになっちまうし……ごめん。忘れてくれ」
ううん、といって佐藤は頬を緩めた。
「せっかくのお誘いだもん。行こうかなあ」
「えっと、いいのか。いや、俺としては助かるし、雫たちも喜ぶのは間違いないんだけどさ、ほんと大変だぞ。あいつら遠慮なく走り回るし、騒ぐし、動物見てるのかあいつら見てるのかわからくなるし」
自分でいってて、ぱーっと光景が脳裏に浮かんだ。そこに佐藤も混ざっている。
なぜ佐藤がいるのかは俺にもわからなかったが、佐藤がいる光景を想像できしまった。
「まあ、あいつらのたどたどしい走り方を見てたら転びそうで心配になるんだけど、連れてきてよかったなあって実感するっていうかさ、こいつらがいてくれたらなんでもできるような気がしてくるんだよな。━━いや、そうじゃなくて、帰りは寝るだろうから大人しくなると思うけど、逆に起きなくて困ることになると思うし、ほかにもいろいろだな━━」
「知ってるよ?」
佐藤は姉の顔をのぞかせて、俺の目を見つめたまま、うんと頷いた。
「知ってるよ。わたしにも妹が2人いるんだからね?」
そうだった。佐藤にも小学1年と3年の妹がいるんだった。それに家族仲がいいらしいし、みんなで動物園とか遊園地とか行くだろうから知っているか。
考えてみれば、抜群の人材じゃねえか。聖和が来てくれたらと思っていたが、俺は思わぬ拾い物をしたのかもしれない。
「黒尾くん? 今ものすごく悪いこと考えてるよね?」
「そんなことはないぞ。じゃあ決定だ。絶対だからな。でも制服だとあれだな」
というわけで、佐藤は朝食後に一度帰宅してもらうことになった。
電車だとうちから佐藤の自宅まで45分はかかる。だが自転車なら片道15分だ。往復で30分。俺の自転車を貸すことにして、制服の件は片付いた。同時に肉体労働要因も確保できた。
雫と邦志を起こして、顔を洗わせる。そこから食卓に連れて行くまでが一苦労で、放っておくとどこでも寝ようとする。これは雫もそうだ。お姉さんとはいっても、まだ小学2年なのだ。しかも、いつもよりも早く起きているとなればなおさらだった。
立ったまま器用に舟を漕いでいる二人の手を引きリビングに行くと、食卓に朝食が並んでいた。こんなことは久しぶりで、リビングの入り口で思わず立ち尽くしてしまった。制服にエプロン姿の佐藤が、お椀を置こうとした状態で不思議そうに見つめてきた。
どうしたの━━そう問われているように気分になった。いや、と答えて進んだ。
「昨日の今日だってのに、いろいろ任せちゃってごめんな。助かるよ。ありがとう」
「ううん」
佐藤はゆっくりと首を振り、お椀を置いた。赤みがかった味噌汁の中にわかめと豆腐が浮いている。
白味噌も常備しているが、それでも赤味噌をチョイスしたということは、佐藤の家も味噌汁に赤味噌を使っているのかもしれない。雫と邦志を椅子に座らせながら訊いてみた。
「白味噌のほうがよかったかなあ?」
「うちも味噌汁は赤だよ。でも冷蔵庫に白味噌もあっただろ? なのに赤味噌を使ってるからそうなのかなと思っただけだ」
「うん、そうだよ。うちは赤味噌を使ってる」
佐藤は屈託なくいい、カウンターに置かれてある麦茶の入ったコップを手にして戻ってきた。
「お父さんもお母さんも岐阜県出身だから味噌汁といえば赤味噌、なんだよね」
「へえ、岐阜って赤味噌なのか」
「お母さんは東海地方がそうだっていってたけどどうなんだろう。黒尾くんはどうなの?」
働き者の佐藤の肩を叩き、「後はやるから」といいカウンターに残されていた2つのコップを手にした。
「まあ俺のはただの成り行きだな」
「成り行き?」
「こだわりがあるわけじゃないんだけど」
佐藤の前にコップを置き、向かいに座った。佐藤がありがとうと礼をいってきた。礼をいいたいのは俺だと答えながら対面に座った。
「佐藤さんと会ったあの商店街ってマニアックっていうか、その道のプロばっかりなんだよ。佐藤さんに妹たちを預かってもらったときに助けてくれたじいちゃんがいただろ? 乾物屋のじいちゃん」
「うん」
「あの人も元々かつお節を作る職人だったんだってさ。魚屋のおやじさんは若いときに漁師をやってて今は息子さんが継いでるらしい。八百屋の実家もそうでさ、大規模な農園を持ってて、有機野菜とか無農薬野菜とかいろいろ作ってるみたいなんだよ。でも、いろいろあって農園だけでは食べていけないからって、あそこに店を構えて自分のところの野菜も交えて商売してるらしい」
「それじゃあ、もしかしてお味噌もかな?」
「うん。店番は女性陣、味噌作りは男性陣の仕事なんだ。まあ元々は白味噌を専門で作ってたみたいなんだけど、店主の弟さんが赤味噌にはまって赤味噌も作るようになったらしい。一度工房を見学させてもらったことがあるんだけど、そのときに味見してさ……まあ、なんだ」
「ようするに赤と白のどちらにするか悩んで、決めきれなくて二種類買ってみたけど、今でも決めかねている、ということだね」
「まあそういうことだけど、そういう言い方をされるとさ、なんか俺が優柔不断みたいに聞こえるからやめてくれない?」
「違うのかな?」
「…………」
ぐうの音も出やしねえ。でも今はもっぱら赤味噌は味噌汁、白味噌はその他の料理用に使っている。それがうちの流儀だ。そういってやりたいが……佐藤の意味ありげな笑みを見たらいえなくなった。
「とにかく、いただきます」
合掌して佐藤に軽く頭を下げた。逃げたと思われてもかまわない。ここはスルーだ。顔を上げて佐藤の横にいる雫を見た。
寝ている。ついでにいえば、俺のお隣さんもお舟を漕いでいた。
「ごめん、雫をこっちに連れてくるから」
「ううん、大丈夫だよ?」
立ち上がろうとしたら佐藤が手を振って、雫を見守るように見つめた。雫の小さな手を優しく持ち上げて、軽く手を合わさせた。
「雫ちゃんも、いただきます」
そういって自分の箸を持ち、雫の口にサラダを運んだ。
「はい、あーん、しようね」
雫が反応した。目を半開きのまま口開けた。雫を見ていたら俺の口も開いていた。
いかんいかん。助かる、と礼をいって、こっちも邦志の世話に向かった。雫と違って、邦志は声には反応しない。朝はいつもそうだ。
抱きかかえるように腕を回して、むりやり口に押し付ける。最初はぐずるが、一度食べ出したら後は鳥の雛と同じだ。何度か食事を運んで、目が開いたら極力放置する。
「にいちゃ」
「自分で食え」
「にいちゃ」
「
最近俺は、泣き落としにも屈しないたくましい心を手に入れたのだ。邦志が諦めるまで根気よく同じやり取りを繰り返すと、ようやく邦志は始動する。だがここからが大変だ。
今でこそ固形物は辛うじてこぼさずに食べられるようになったが、邦志はまだタレのついた食べ物や汁物をうまく食べられない。普通の4歳児よりも邦志は箸を上手に使えると思うのだが、好奇心が旺盛で、せっかく食べ物を挟んでも、持ち上げた後であれも食べたいこれも食べたいと迷うから容赦なく
そのたびに注意するのだが、どうにも落ち着きがないように思う。
佐藤は雫の様子を伺いつつ懐かしそうに目を細めて、なぜか俺を見ている。気のせいかと思ったが、どう考えても俺を見ている。なんだか俺まで落ち着かない気分になった。
「どうかしたか」
落ちた汁を付近で拭きながら尋ねた。
ううん、と答えて佐藤はお椀を持ち、
ちょっと目を離した隙に邦志がやった。お椀をひっくり返し、後はお決まりのコースだ。こぼれた味噌汁の処理に奔り、新しい味噌汁を用意する。佐藤にも手伝ってもらい、どうにかこうにか食事を終えた。
ただ気になったのは、雫が一連の騒動を見て大人びたため息をついたことだ。風呂でのおばさん化といい、今度といい、どうにも心配になった。かわいい妹にはかわいいまま大きくなってもらいたいのだが……。おばちゃん化だけは阻止しなければと硬く誓った。
本日のイベントである動物園では、やはりというべきか。それはそれは大変だったが、非常に楽しかった。
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