第29話 駆け出しと、引率(2)
彼らはすぐにダンジョンに入りたそうで、シオンも入りたいのはやまやまだったが、それ以前に言うべきことは山ほどあった。
まず、人数の多さだ。
あまり大人数だとかえって動きにくいと、シオン個人は思っている。
三人から五人くらいが妥当だ。
もちろんダンジョンの規模や仕事内容によって、大規模なチームが組まれることもある。が、当然、初心者が任せてもらえる仕事では無い。
ムダだろうとは思いつつ、一応そう伝えると、リーダー格の青年が反論した。
「でも、オレらずっと一緒に冒険しようって約束したんで」
「それはそうしたらいい。ただ、仕事には大なり小なりある。何を選ぶかは自由だけど、これだけの大所帯でやるほどの依頼は、そうそう無い」
「オレら、そんなちまちましたクエストやる気無いんで」
「どっちみち最初のうちは、そういうちまちました仕事しか出来ない。選んでたら食ってけない」
「金とか食うとか、そういうののためにやってるんじゃないんすよ」
伊田の言葉に、何人かが頷いた。
はっきり物を言う伊田は、まだ良いほうに思えた。他のメンバーは、前にすら出てこない。後ろで彼に同調するばかりだ。
ダンジョン内に置き去りにされたパーティーがあった理由はなんとなく分かるが、相手は初心者だ。考えが甘い部分があるのはいたしかない。
シオンは粘り強く説明した。
「じゃあ、一つのケースとして聞いてくれ。数が多過ぎると、かえって非効率なときもある。依頼内容やダンジョンとの相性もあるだろ。チームだからって全員で揃って攻略する必要も無いんだ。二つか三つのチームに別れて依頼を受ければ、そのほうが報酬を得られる効率も……」
「だから、効率とかいいんスよ。報酬目当てでやってるわけじゃないんで」
鬱陶しげに話を遮られ、じゃあ何目当てなんだ、とシオンは思ったが、これを言い返してもしかたないので、分かった、と頷いた。
「ただ、ダンジョン内は狭い通路での戦いも多い。縦一列にしか移動出来ない場合、ガンナーなんてどうするんだ? 広い場所だったとしても、数の多さが有利になる状況ばかりじゃない。後方支援が多くても、かえって混戦になりやすい」
そう言うと、杖を持ったソーサラーの青年が、不満そうな顔をした。
「別に、ソーサラーって後方支援って決まって無くないスか」
「前に出たいのか?」
黒髪に何房か金のメッシュを入れているのが印象深く、かえって名前を忘れた。幸いソーサラーは男女一人ずつの計二人なので、呼ぶときは男ソーサラーと言えばいいだろう。
「出たいつーか、状況によって、それもアリすよね。魔法って基本万能すから、
「出なくていい。ファイターの邪魔になる」
きつめに言い放つと、メッシュ頭の男ソーサラーはやはり不服そうにではあるが、とりあえず黙った。
「いいから、ダンジョン行きません?」
うんざりしたように、伊田が言う。
「まさか、時間稼いでませんよね?」
「どうして?」
「ダンジョン行きたくなくて、避けてるっぽく見えますよ? せめて、ダンジョン潜ってから、色々説明してほしいんスけど」
ダンジョンに潜る以前の問題を指摘しているのだが。
しかし、彼らの忍耐力は限界のようだ。気持ちばかりが盛り上がっているのだろう。
自分で引き受けたことだ。簡単なダンジョンなはずだし、まさかガルムが出るということもあるまい。もし出たとしても……一頭くらいなら、何とかできる可能性はある。二頭以上出たら、責任持って彼らと一緒に死のう。
その覚悟は出来た。
「……分かった。行こう」
ダンジョンの入り口からは、緩やかに通路が地下に伸びている。最初は真っ直ぐな一本道で、見通しが良い。初心者演習にはもってこいのダンジョンだと、改めてシオンは思った。意外な穴場を見つけてきたことだけは、彼らに感心する。
人の手が入っているだけあって、幅は二人で並んで歩ける程度にはあった。
「オレは先頭を行く。トラップがあるかもしれねーからな」
「ト、トラップ? こんなダンジョンで?」
と怯えた声が上がった。
「だって、色んな人が潜ってるダンジョンなんでしょ……?」
時代の古くない人工ダンジョンであるお陰で、通路はそこそこ歩きやすい。だから、探索者も油断しやすい。
「トラップのほとんどは、ダンジョンを作った奴が仕掛けるんじゃない。後発的に仕掛けられたものが多い」
「どういうことですか?」
「学校で習わなかったか? わざと仕掛ける奴がいるんだ。面白がってな。よくあるのが通路の途中に糸が張ってあったりな。ダンジョン内だと案外見えにくい」
「そういえば、斑鳩先生もそんなこと言ってたかも……」
誰だか知らないが、冒険者学校の教師のようだ。
「冒険者にも色々いるからな」
歩く順番はシオンが決めた。
「そこのでかい盾持ってるやつ、お前はオレの後ろについてこい。その盾、しっかり前に向かって構えてな」
自分の後ろには、大きな盾を持ったファイターを指名する。シオンは盾を持っていないので、仲間の守りまで気にしていられない。
「おう!」
元気よく、大げさに声を上げ、胸を叩く。分厚過ぎて無駄のある筋肉同様、キャラ作りもよく出来ているようだ。名前は憶えていないが、これも特徴的で助かった。でかい盾、と呼べばいい。
「最後はアンタだ」
と気弱そうなファイターに目をやる。小振りだが中々立派そうな盾を持っている。全員を装備を確認したときに気付いたが、剣もよく手入れされていた。
「……えーと、竹田さんだったな」
彼の名前は憶えていたので、シオンは再確認のために口にしてみた。
「え、さ、最後ですか?」
合っていた、とシオンは名前を当てて少しほっとした。
「さ、最後って、ちょっと怖いですね……」
竹田はひどく怯えた様子だ。それに、他の仲間が大笑いした。
「タケ、ほんとビビリだなー」
「やっぱり、学校残ったほうが良かったんじゃねーか」
仲間の揶揄にも、竹田は言い返す余裕もなさそうで、引き攣った顔で笑うだけだ。
彼が普段どれほど臆病かなど知らないし、そんな彼が何故冒険者になろうと思ったのかも分からないので、シオンは笑わず、必要なことだけを告げた。
「狭い通路で縦一列で歩いてたら、オレじゃ後方からの敵に対処できない。前はいいから、後方に気を配ってろ。分かってるだろうけど、その剣と盾はしっかり構えとけよ」
「は、はい! あ、あの、先生。いまの、もう一回いいですか?」
「え?」
一瞬、先生というのが誰のことか分からず、シオンは目を丸くしたが、竹田はシオンの顔をじっと見ている。
「あの、どう動いたらいいのかとか、出来たら、詳しく……」
怪訝な顔をするシオンに、竹田は懐から小さなメモ帳とペンを取り出した。
「その、メモりたいんで」
「……うん」
とうとうシオンはがっくりとうなだれた。
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