第13話


彼女の言葉に、誰もが目を伏せて声をつぐんだ。

古い時計の秒針だけが、店の方から響く。


そんな静寂を裂くように、メロウは大きく空気を吸い込むとテーブルに両手をついた。



「何が起こるか分からない先にのことに悩んでいても、仕方ありません。もうすぐここに、わたしの協力者が来ます。その方が来たら、ひとまず店を出ましょう」



メロウの言葉に、グッドナイトが顔を上げる。



「協力者・・・・?エイミーの他にも、まだこの事を知っている奴がいるのか?」


焦りと狼狽えが垣間見えるその表情は、もうこれ以上誰にも関わって欲しくないという微かな願いも込められていた。



メロウはその言葉に、ちらりとエイミーを見た。

エイミーがふっと口角を上げ笑う。



よく分からないといった顔のグッドナイトに、メロウが「いや」と付け加えた。



「むしろエイミーさんは、協力者の・・・・」



言い終える前に、店の方からバタン!と大きな物音が聞こえた。

そしてドタドタと大きな足音がこちらの部屋へと近づいてくる。


グッドナイトはガタッと椅子から立ち、身構える。



その瞬間、細い木戸が勢いよく開く。


ガァン!!と轟音が響き、木戸は壊れそうなほど強く反対側の壁に当たった。



目を見開くグッドナイトとユキ、そして轟音に耳を塞ぐメロウとエイミー。


そんな四人の前には、大きい足音からは想像もつかないくらい小さな少女が立っていた。


白くぶかぶかなパーカーに、派手なリボンで結ばれた焦茶色のツインテールが目立つ。


彼女は大きな目で、確認するかのように一人一人を見つめていく。

グッドナイト、メロウ、そしてユキ。




「ハジメマシテじゃないけどハジメマシテだね、メロウ」



一通り全員を見つめた後、少女は溜息をつくメロウを見てニッと笑った。



「もう少し静かに入れなかったのですか、ラビ」



ラビ、と呼ばれると、少女は照れたように頬を染めて目を泳がせる。


「ゴメンて。外に出るの久しぶり過ぎて、カゲン?分からなかったの!」



ペロリと舌を出しておどけて見せた。


「アンタって子は・・・・」



続けて、エイミーも大きく溜息をつく。

二人の様子について行けないグッドナイト達は、誰なんだと言わんばかりに目で訴えた。



しかしメロウ達が何か言おうと口を開く前に、ラビという名の少女が目の前に立つグッドナイトの左腕を押し退け、ユキに向けてヒョイと顔をのぞかせた。



「ネェ!想像以上にステキ!」



突然大きな目に見つめられ声をかけられたユキは、へっと声を上げ戸惑った。



「アビゲイルだから、アビーでいいよね!ワタシはラビだから、なんか似てる!」


『アビゲイル』それはユキの本当の名だった。

しかし西の大地へ戻って来てからはずっと『ユキ』という偽名で呼んでいた為、グッドナイトは咄嗟に彼女の口を塞いだ。



「おい!君は一体・・・・」



慌てるその手をむんずとはがし、ラビは気にしない様子で再びユキへ話しかける。



「アビーの首筋、ホンットにステキ!幾何学模様が皮膚の白さとマッチして、神秘的!」



まるで恋する乙女かのような視線に、ユキは手で模様を覆った。


「こ、これ・・・・?」



戸惑うユキに、ラビはうんうんと大きく頷く。

グイとグッドナイトの腕を押し、ラビの手がパタパタしながらテーブル越しにユキへ近づく。


瞬間、パンッ!とその手が払われた。



閉じた扇子に弾かれた手を、ラビは慌てて引っ込める。


「いたぁい!マム、痛いじゃん!」

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