第10話
メロウは目を細め、ユキとグッドナイトを交互に見つめる。
キュッと結ばれた口が、次第に開いていった。
「信じてもらえるかは分かりませんが、わたしは・・・・止めたいのです。ユキさん、貴女の力は今、政府が最も欲しがっているモノです。貴女を手に入れ、調べ上げ、生物兵器として大量に造り出そうとしている。そして政府は・・・・その力を以ってして他の国を掌握しようとしている」
グッドナイトは拳を握りしめた。
「つまりは、ユキを戦争の道具にしようってワケか!」
メロウは頷く。
「その通りです。彼女を追っている理由は、先の行為での捕縛なんかではありません。その力を利用する為です」
カフェが、しんと静まり返る。
店の柱に掛けられた古い時計の針だけが、コチコチと音を立てて時を刻んでいた。
ふと、ユキはカウンター越しにグッドナイトの側へ歩み寄ると、拳の上にそっと自分の手のひらを重ねた。
「マスター、わたしは・・・・」
美しい声でそう言いかけると、グッドナイトは顔を思い切り上げて叫んだ。
「ダメだ!何も言うんじゃない!お前は何も悪くないんだ、お前が辛い選択をするのは間違っている!」
涙を溜めた彼の言葉に、ユキは目を伏せてその先を噤む。
「その通りですよ、ユキさん。貴女が偶然手にしてしまったその力を、争いの道具に使わせてはいけない。そして、それ以上に悲しい選択をする必要もありません」
メロウの言葉に、ユキは顔を上げた。
その片目からは、ポロポロと涙がこぼれている。
「でも、先ほど言っていたでしょう?いずれここにも、政府の軍がやってくる、と。わたしはここには居れません。けれど、逃げる場所なんて・・・・もう・・・・それならば、わたしは・・・・」
つかつかとユキのいる方へ向かうと、メロウは親指でそっと頬の涙を拭った。
「何のために、と言われましたね。わたしは、そのためにここへ来ました」
グッドナイトとユキは、目を丸くしている。
彼女の涙に濡れた手を下ろした彼の目は、真っ直ぐにユキへと注がれていた。
「わたしが貴女を逃がします。ついてきてくれませんか?」
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