第125話 解体作業が終われば肉になる
マリさんが連絡をしてくれたのか、鶴吉と亀吉がやってきた。
「おーぅ熊ゴロー、仕留めたってぇー、てぇしたもんじゃねーかー」
「あっこは今日辺り掛かるって言ってただろ、言った通りじゃねぇか」
「なー亀さんの言う通りだったろーてぇしたもんだなー、おー綺麗ぇーに腹を抜いてんじゃねーかー、てぇしたもんだなー」
と鶴さんはイノシシを下ろすと裁き台に載せて皮を剥き始めた
小さい小刀を脚の付け根から滑らして切れ目を入れていく
次に刃体が丸みを帯びた皮むき包丁に持ち替えて皮に脂を残さないよう丁寧に皮を剥いでいく
「丁寧に剥きますね」
八尾が感心して誉めると鶴は照れたように言う
「丁寧じゃねーよー、こんなのこーゆー感じでいーんだよー」
とサクサクっと刃を雑に動かしだすと脂が松ぼっくりみたいに段々に切れていく
「八尾よぉこいつ誉めると仕事が雑になっちまうから辞めとけ」
鶴は再び丁寧に包丁を滑らして剥いていく
八尾は皮を引っ張ったり脚を引っ張ったりとサポートで忙しい
続いてアンとべるでもやってきた。
「お疲れっ、あーもうバラしてんのねっ」
「ほー綺麗に剥きマスね」
「綺麗じゃねーよー、こんなのこんなんでいーんだよ」
「べるちゃんよー、癖になるから鶴を誉めねぇでくんな」
また一部、松ぼっくりに成ってしまった
「でっ?獲れたのはどう分けるのっ」
「なんでぇ、お奉行から話しを聞いてねぇのか」
亀吉は呆れたように言うと懐から紙切れを取り出す
「何なにっ?有害駆除隊心得条っ?」
ひとつ、獲物の命、我が物と思わず
ひとつ、罠掛けの技、あくまで陰にて
ひとつ、己が技量あくまでも伏し、捕獲数如何にても果たすべし
なお、死して屍拾うもの無し
「どういう意味なのよっ?」
「なんでぇ学がねぇなぁ
獲物の命、我が物とせず ってーのは独り占めしねぇで仲良く分けろって事でよ
罠掛けの技は世間に秘密にしとかねぇとトウシロがマネすんだろ
止め刺しもロクに出来ねぇのにハンパな事しやがるから危なくってしょうがねぇんだ
次は捕獲は口先じゃねぇ、実績上げろって事だ」
「ふんふんっ、最後の奴は死んだらお終いだから気を付けろって事っ?」
「良い線いってんだがよ、ちょいとちげぇな。大体が単独行動は危ねぇからしねぇしな。これは獲物が死んでたら拾って喰わねぇで穴掘って棄てろって事った。死んだの喰って食中毒でもしたらてぇへんじゃねぇか」
「はーなる程ねっ」
俺は今日独りで見回ったんだがなー と八尾は心で叫ぶ
「なー亀さんは博識なんだぜー、おー皮むき終わったぜー」
「おーよ、ご苦労、ついでに大バラもやってくれぃ」
「なんだよーオーバラも俺がやんのかよー」
と文句を言いつつも笑顔でナイフを持つ手の小指がピンと伸びている
「なー熊ゴロー、オーバラっつったって訳ゃねぇだろ、力なんていらねーんだよー」
とサクサクと後ろ足を外していく
股関節の継ぎ目に刃を当てると手品のように骨が外れて行く
「何が偉そうに言ってやがるけどな、こいつの小刀は業物だ
おい互いに手ぇ切りあわねぇ様に注意しろよ」
「そんな事ねーよー、こんなんタダのナマクラよぉ。おー熊ゴロー、この骨盤のとこは裏っかわに肉残すと亀に怒られるからこうやって刃を回して
取るんだぜぃー」
「ほー綺麗に外しますねぇ」
「そんな事ねーよー、こんなのこんな感じでいーんだよー」
「この馬鹿やろう、鶴を誉めるなって言ってんだろうが、全く学習しねぇな、あぁまたクズ肉が増えちめぃやがった」
八尾と二人で、4本の脚、内ロース(ひれ)、背ロースと肋骨は丸ごと、とバラして骨を抜いていく
べるではその合間にお茶でも淹れようと七輪で炭を熾す。
炭を七輪に目一杯投入すると下の空気取り入れ口にバーナーの先端を当てて中に直接熱源を叩き込んた
コーー パチパチと派手な音を立てて炎と火の粉が舞い上がる
しかし誰も気にも止めない 自分の作業で手一杯なのだ
数分間で炭に火が回った
それからしばらくして火が安定して来ると水を入れた鍋をのせた。
べるではパタパタとうちわで扇ぐ
七輪の空気口は全開だ
鍋との隙間から炎がはみ出る
お湯が沸いてきたらモツを茹でる
一旦茹でたら水を換えて更に煮る
ジャンさんはもってきたゴボウをひたすら笹掻きにしている
アンも野菜を切り刻んでいる
鶴と八尾は骨抜き、亀は肉を部位毎に切り分ける
出来の良いところと悪い所、それぞれ二等分していく
「悪りぃけどよ、罠で一人前貰うからよ、俺と鶴と罠、そっちの三人で丁度半々だな」
30キロのイノシシを精肉して15~16キロの肉に成った
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