第123話 罠の止め差しは410番で

雨の町は人通りも少なく、ボーッと歩いていると程なくして罠場に到着した。


例の二人は今日は厄日だとか何とかで八尾1人の見回りだ。

1人で雨の中、見回りをする事に成って八尾は少しやさぐれていた。

それでも八尾は丹念に一つずつ罠を点検していく

細引きと竹で作られた罠は所々土に差して有るところが緩んで空弾きしており、仕掛け直しながらの見回りとなった。


「ここも空弾きか、足跡すらねぇってのになぁ、雨の影響ってより掛け方が悪りぃんじゃねぇかね」


面倒臭い作業が続き愚痴の一つもこぼれてくる。


「それにしたって、こんな細引きで保つんかね?一噛みで切れんじゃねぇかね、罠代は有害で出てるっつったけど、呑んじまってんじゃねぇだろうな」


恐らくイノシシが通ると思われる所には番線みたいな針金が使われているが、他は括りの所も綿のロープだ

芯に針金でも入って居るのかと思ったが、さわり心地は単なるヒモだ

単に縒っただけのロープでは無く金剛打ちと呼ばれる組紐の仲間ではあるが


「なる程ね、掛かると竹で斜め上に引っ張られるから踏ん張り効かないし口で切ることも出来ない、、、のかな? う~ん」


「おや?あそこは地面が荒れてるなぁ?」


静かに斜面の上に大回りする。斜面と言うほどの傾斜は無いが、少しでも上側から見たいのだ。


「やっぱり切られるんだな 足跡みる限りちょっと大きめのシシかな」

「それにしたって、こんなん(細引き)じゃ大物はおろかタヌキも怪しいんじねぇのかね?」


切られた所を結び直して同じ所に掛けた。


「あれ?あそこは掛かっているのか?」

「ありゃぁ失敗した、起こしちまったかぁ?」


ふと物音が聞こえた方に振り向くと罠に使っている竹が揺れ始めていた

近づいて見ると柴犬よりちょっと大きめのイノシシが暴れている。

どうやら罠に掛かった後に寝ていた奴を起こしてしまったらしい。


「30キロ位か? ナイフで行けるか?」


八尾は暴れているイノシシの状態を観察した。


「掛かりは良いみたいだけどロープ罠じゃ流石に安心は出来ねぇよな」


とストレージからウィンチェスターのM9410を取り出して上から薬室に一発、予備として横から弾倉に一発、弾はレミントンの細い410番スラッグ弾を装填した。


「弾は小さくて可愛いんだけど、値段は可愛く無ぇよなコイツ」


そう、12番のレッドバードより高い。

一端ハンマーに指を掛けて引き金を引き、ゆっくりとハンマーを降ろす そしてセーフティーを掛ければ暴発の危険は無い

そして獲物をこれ以上刺激しないように一度隠れたあと、場所を移動しポジションを取り直すと膝を着いた状態で銃を構え、セーフティーを外した。

照星と照門を見比べた後、じっくりと狙いを定める

罠は左前足に深く掛かっているがロープなので何時外れるかもわからない。


イノシシは落ち着きなくウロウロとし、足が引っ張られると八つ当たりのように土を鼻でほじくり返す。

しかし中々撃ちやすい位置には来ない。横向に成ったときに耳の下を狙いたいのだ

癖なのか習性なのか、数回土を掘ると掘れた地面の匂いを嗅ぐ時があった。

まだロープにはキンク(よじれ)は生じていない、じっくりとチャンスを待つ時間はある。

八尾はじっくりとその時を待つ

待つ

待つ


ここだっ!


八尾は絶妙のタイミングで引き金を絞った


スカッ


ハンマーを起こしてなかった・・・

何事も無かったようにカチリとハンマーを起こす

イノシシはまだ夢中で土をほじくり返している


パン


短くて軽い音が響くとキューとひと鳴きしてイノシシは絶命した。

八尾はレバーを下げて空薬莢を飛ばす

真上に飛んだ薬莢を手で受けてポケットに入れる

再度レバーをそーっと動かしつつ銃を横向きにして残っている実包を手で受けた

そして雨で濡れた銃を拭き取りストレージに弾と一緒に仕舞い込む


「さて、血抜き・・は良い所に当たったから大丈夫か」

「小ぶりだし1人で運べるか」

「とりあえず用水路に漬けて冷やして、、と」


飛ばした薬莢を上手く受け取れて独り言も饒舌になる。

実はこの鉄砲を手に入れたときに夜な夜な部屋で空薬莢を使った練習をしていたのは内緒である。


八尾はイノシシを引きずり畑の端に流れている用水路に落とした。


「ええと、捕獲証明は尻尾か、解体は、、牧場の一画だったよな」

「このまま引きずって行くか」


八尾はロープを結び直してえんやこらと1人イノシシを引いて行くのであった

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