第122話 ヒヨドリ駆除の終了は唐突に

「えぇっ、じゃぁヒヨドリの駆除はもう終わりなのっ?」

アンはエースハンターの掃除をしながら驚いたように声を上げた。


越冬の為に飛来していたヒヨドリは北に帰り、南からの渡りが戻ってきたとの事で駆除は終了になったと伝達があったのだ。


「今年は渡りが遅かったみたいなんだけどね」

「期間は不定期なのねっ」

「ではこのヒヨドリさん達は繁殖で南から来られた方々だったデスか・・・」


数少ないヒヨドリを大事そうにチミチミと羽を毟りながらつぶやいた。

脂の乗りが悪いヒヨドリは皮も弱く強引に毟ると簡単に破けてしまう。


「居残り組とかも居るみたいだよね」

「はーっ、寒がりと暑がりと面倒臭がりねっ」

「そんなわけで、明日からの駆除は大物だけだって」

「借金はあとどのくらいなのよっ?、べるでっ」


べるではどこから取り出したのか5つ玉の大きいソロバンをちゃちゃっと弾いた。


「残りはこんな感じデス」

「減ってないなぁ、てか減ってる気がしない」

「遊んでるダケで返してまセンから」


のんびりお茶したり、昼寝したりザリガニ釣ったり・・・


「いい加減に返さないと質草が流れちゃうわよっ?」

「風流だねぇ」

「何が風流なのよっ」

「質の流れに借金の山」

「侘びとサビがありマスね」

「ワビしかないわよっ、えっ?あらやだホント、ここ錆びてるわよっ」


八尾が掃除している方のよだれがついたまま仕舞われたエースハンターはトリガガードにうっすら錆が浮いていた。

慌ててオイルをつけて擦ったが赤錆で少し浸食されている。

トリガガードをプラスドライバーで外し2千番の紙やすりで軽く何度も擦ると錆はなんとか削り落とせた。

一部だけ銀色に光るエースハンターのトリガガード、行灯の光にかざしながら角度を変えて何度も見つめた。

ピカールをぼろ切れに出してさらに磨いていくと完全に銀色に輝くトリガガードと成り果てた・・・

土間でチンチンに沸いてる鉄瓶からお湯を掛けると熱くなったトリガガードはあっという間に乾いていく。

ストレージから銃用の「すぅぱぁぶるぅー」を出してぼろ切れに染み込ませて熱いトリガガードを擦る。

銀から青、青から黒へと色を変えていく 

一度鉄瓶のお湯を掛け直して更に拭くと全体がつや消しの黒に染まった

完全に黒くなったのを仕上げにお湯で流した後、ガンオイルで拭き上げる。

何度も何度も擦ると黒光りしたトリガガードとなり修復完了である。

ガタつかないよう、締めすぎないよう気を使って、元のネジ跡に沿って木ネジを締め込む

その後、全体にゴムへの攻撃性が少ない鉱物系オイルを塗ってからストレージに入れた。

その後、アンが使っていた上等な方のエースハンターも同じようにオイルで拭き上げてストレージに仕舞い込んだ。


「大物の2~3匹でも取れりゃ直ぐに完済なんだけどなぁ」

「あっこの隊じゃ難しいんじゃ無いっ?」

「違う所に罠を掛けて見マスか?」

「べるでさん、良いこと言うねぇ、それだ、それで行こう」

「じゃぁ明日は見回りの後に罠掛けねっ」

「いや下見だけだな、別働隊の届け出をしないと」


・・・


「猟師殺すにゃ刃物は要らねえ雨の3日も降れば良い」

「テキ屋家業じゃあるまいしっ、馬鹿言って無いで見回り行くわよっ」


翌日は慈雨であった。

乾いた畑は潤い、若い芽がぐんぐんと成長するのだ。

警戒心が少なくなるのか、掛かる可能性も高くなるが、反面土が柔らかくなって不具合を生じたりする事もある。

見回りは欠かせないのだ。


「べるでっ、雨具雨具っ 雨具出してっ

 何よっ?この木の枝っ?」

「ははぁ、山吹の枝だな」

「なによ?山吹の枝がどうしたのよ?」

「学が無いなぁ、七重八重花は咲けども山吹の実の一つだに無きぞ悲しきって、蓑一つも無いって事で、」

「違いマス、花も無ければ山吹でも無いと言うコトで梨の枝デス」

「なるほどっ、山吹と金貨も掛けてるのねっ」


「まぁ冗談は兎も角、其処に破れ番傘が転がってたでしょ」

「ひょっとしての焚き付けの事デスか?」

「そうそう、折れた骨だけ外しちゃって、このビニール袋を裂いてボンドで貼り付ければ、、、」

「まぁ何てコトでしょう、すっかり見違えたデス」

「何か貧乏臭いわねっ、これ閉じないわよっ?」

「使えりゃ良いんだよ、使えりゃ」


と言う事で、傘が一本しかないので八尾だけが見回りに行く事となったのである。

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