第121話 追い立て大作戦

畑の境界にある林を揺らしながら生暖かく湿った南風が吹いている。


「ん~ちょっと風が強いわねっ」


「こっちは15mだし、着弾は5mmも変わらないでしょ」


「枝が揺れるのよねっ。枝が細いから結構影響出るわっ」


ぶつくさと文句を言いながら、現場まで着いた八尾とアンは、ギリースーツに毟り取った若草やシダを追加して狙撃ポジションに着く。


暫くすると畑の中程にいるべるでから連絡が入った。


「準備は良いデスか?では鳴らしマス」


と、ほぐして一本にした爆竹の導火線に火をつけ投げると耳を塞ぐ。


パン


直ぐに爆竹は音を立てて破裂した。


ドドドドドッ


と直ぐ近くのボサからオスキジが羽音を立てて飛び上がった。


「あぁ山賊焼きが左30度で飛んで行ってしまいまシタ」


派手に飛び立ったキジを見送りつつ、他に飛び立った陰が無いかキョロキョロと辺りを見回す。


「ヒヨさん、畑の中にあまりいらっしゃらないようデス」


と、べるでは連絡を入れる。

意外と爆竹の音は小さい。結構広いシヤルスク南畑の中で場所を変えつつ鳴らしていると

時折数羽の鳥が飛び立っていく。


「デルタ翼の編隊はムクさんデスね、斑のツグミさん、地味なウズラさん、猟期終わると全然逃げないキジバトさん」


流石の猟期開けキジバトも爆竹の炸裂音で飛んでいった。


・・・


まぁ来ないものは撃ちようが無いわよねっ・・・

このポジションは陽が当たると最高ねっ、ギリースーツもちょっとした風よけになって・・・

ぽかぽかとした陽気で、、、ふぁぁぁ眠いわっ

でも我慢我慢っ、木化けして待つのよっ、私は茂みっ、私は茂みっと


あっ 来たっ、ポンプは済ませてるから弾入れて、、あぁ弾が前後逆になったっ 揺すって直して、、よしっボルト閉鎖してっ、よしよしっまだ飛んでないっ

トリガをセットしてっ、枝の揺れを考えてっ 狙ってっ 絞るっ


パシッ


ぱっと羽を広げたヒヨドリはそのまま枝の間をきりもみ状態で滑り落ちる。

落ちて羽を広げたまま動かないヒヨドリの場所を良く確認しつつ、エースハンターのサイドレバーで3回ポンプする。


「よしっ、先ずは一羽っ 私は茂みっ」


と、2羽ほど落としたところでまたパッタリと飛来が収まってしまった。

畑の方を眺めると、べるでは畑仕事の老夫婦に捕まってお茶を頂いている。


「ん~やっぱり畑で追い立てるのが一番みたいねっ ってそろそろ罠の見回りかしらっ?」


と八尾に連絡を入れたが全く音沙汰が無い。


「おかしいわねっ?」


射線上だと危ないので、アンは畑に回り込んで八尾の待場に向かった。

畑から見ると八尾の|茂み≪ギリースーツ≫は微動だにしない。

時折、シジュウカラ・・・いや腹がオレンジっぽいからヤマガラか?が出たり入ったりしている。


「はぁーっタケルの木化けも大したものねっ」


と関心しつつ、八尾の持っている銃口が林の奥側を向いていることを確認しつつ近寄った。



八尾は日だまりの中、幸せそうな顔で寝落ちてた。ヨダレを垂らしながら・・・


ぐぅ


アンはそーっと八尾のエースハンターを取り上げると銃口を地面に近づけて、ふーっと装填口に息を吹きかける。地面の枯れ葉が動いたので弾は入っていないようだ。

エースハンターを持ち直すと先台についた粘性のある液体が手についた。


「ぃやぁーっ なんかヌチョってしたっ よ、ヨダレ?ヨダレねっ わ~ばっちぃ~」


アンはそのままストレージに銃を放り込んで八尾のギリースーツで手についたヨダレを拭き取った。

八尾は全く気がつくことも無く睡眠を貪っている。まるで通勤電車の疲れたサラリーマンのようだ。


「それにしても良く寝てるわねっ・・・そうだっ」


アンは綿ロープを少し切って端に爆竹を一束挟み込んだ。

反対側をライターで炙ると蚊取り線香のようにジワジワと燃えていく。

八尾が座っている小さなパイプ椅子の下に置くとそーっとその場を離れた。


パンっ、パパン、パパパン 暫くして小さく乾いた音が林に響いた


八尾はガバッと立ち上がったかと思うと、スライディングしつつ肘で這うように第三匍匐で茂みに入っていく。


「敵襲~、リトルジョン右翼に回れ、左舷弾幕が薄いぞ 左舷・・さげ? あれ?アン?」


腹を抱えて転がっているアンを見て八尾は駆け寄る。

「どうした?しっかりしろ、傷は浅いぞ」

抱き上げたアンの目頭には涙が・・・


「くっ苦しいっ、お腹が、お腹が痛いわっ」


・・・・

見回りは鶴と亀が二日酔いで動けなかったらしく3人で見て回ったが、罠の周りで遊んだ足跡だけで捕獲には至らなかった。

長屋に戻って夕餉を済ましたらお茶の時間だ。



「くっ、くふっ、くっ・・・」


「でねっ、右舷とかねっ」


「ぶっ、くっ、も、もう勘弁して下サイ・・・お腹イタいデス」


と、二人が笑い転げている間に、八尾は深刻そうな顔で手紙を読んでいた。

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