第120話 作戦会議大作戦
「それでは第一回ヒヨドリ駆除作戦会議をはじめまーすっ」
夕餉の片付けが終わるとアンは高らかに宣誓した。
「あ、べるでお茶ちょうだい」
「何にしマス?」
「ちょっとっ、作戦会議なんだから真面目にやりなさいよっ」
「緑茶がいいかな、アンは?」
「あたしはコーヒーっ、インスタントでいいわっ、薄めのストレートっ」
べるではマグカップにコーヒースティックを半分入れて、熱々のお湯を注ぐ。
湯飲みにも注いだ後、急須にお茶っ葉を入れ、お湯をちょっとだけ回しかける。
ほんわかとお茶の香りが立ち登る。そして急須に蓋をしてしばし待つ。
中では針状の茶葉がだんだんと蒸らされ膨らんで行く。
頃合いを見て蓋を開けると湯飲みからお湯をゆっくりと注ぐ、そしてまた蓋をしてからちょっとだけ待ち、2つの湯飲みに順々に入れていく。
今日のお茶受けはお隣さんからタナゴと物々交換した沢庵だ
「お茶、入りましたデス。」
「あ~お茶受けが沢庵ならあたしもお茶にすればよかったかなっ」
とアンはコーヒーを啜った。そして沢庵を囓りつつ再びコーヒーを飲んでいる。
「それ合う?」
「・・・微妙ねっ、でもなんとなく癖になりそうな感じがしないような気がしないでもないわっ」
「どれどれ?うーん、微妙、でも何か癖になる感じだ」
八尾は沢庵をパリポリ囓りながらアンのコーヒーを飲んだ。
よく漬かった沢庵の塩味と甘みと辛みと旨みが複雑に口に広がり、それをコーヒーの苦みがさらっと押し流していく。が、匂いと香りが今一合わないような合うような不思議な感覚だ。
「そう言えば、お隣さんから野沢菜も頂いてまシタ。酸味がキツかったので軽く洗っちゃってマスが」
「ん~っ、酸味に塩味に、これはやっぱお茶ねっ。」
とアンは八尾のお茶を啜る。沢庵も囓りつつ・・・
「ふーっ大根の辛さがちょうど良いわっ」
「よく漬かって甘みもあって後引くよね、これ、黄色が少し強いから元々が辛い大根なんだな」
「黄色ってクチナシじゃないのっ?」
「辛みが変化して黄色くなるって聞いたんだよね。辛みが少ない奴を黄色くするのに使うって」
「野沢菜の古漬け?も噛みしめるとじわっと酸味が出て美味しいっ」
「あ、こいつ人のお茶飲み干しやぁがったな」
「うるさいわねっ、二番を淹れるわよっ」
「二煎目な、二番は煎じ薬」
「お茶が二煎で煎じ薬が二番ってややこしいわねっ」
「早よ入れ早よ」
「お醤油を一垂らしするとまた味わいが深いわねっ」
「そうだ、唐辛子も合うよ唐辛子、、、唐辛子はどこ?」
アンと八尾が漬物談義に熱中していると、べるではちゃぶ台に突っ伏してすうすうと寝息を立てていた。
ほっぺを突っついても全く起きる気配が無い。
アンが布団を敷いて、八尾がべるでを横から抱き上げ・・・よう・・・として止めた。
「アン、足もって、それ行くぞ、いち、にの、えいっ」
八尾が脇を担いでアンが足を持って布団に移動させた。
寝ている人間は重い。下手に抱き上げると腰を痛めるのだ。
余程の寝不足なのかべるでは全く起きる気配も無くすぅすぅと寝息を立てている。
ちゃぶ台を
行灯の火を吹き消す 月明かりに照らされた障子を横に白い煙がふわっとたなびいて消えた。さて、明日も早いから寝るか
・・・
「アン、寝た?・・・何かやる事忘れてなかったっけ?」
「なんか微妙に暖かくって寝付けないわねっ、で?ヤル事って?」
・・・
「おはようございマフぅ」
あふっっとアクビをしつつ、べるでが目を覚ました。
朝焼けが障子にまぶしい。
「あ、べるでおはよう。悪いんだけど濃いお茶ちょうだい」
「あ、あたしもっ」
目を腫れぼったくした二人が土間で朝餉を準備していた。
・・・
「さぁっ出発よっ出~発~っ」
朝食をさらっと食べた3人はさくっと準備をして今日もヒヨドリ駆除に出る。
「二人とも本当にそのカッコで行くデスか?」
アンと八尾は夜なべして、麻縄と焚き付けの藁で隠れ蓑を作っていた。
シート状にして隠れるつもりが段々と悪乗りして羽織れるようにまでした。
後は現地で草とかをつければ完成と、徹夜のハイテンションも手伝って、それを纏って長屋を出た。
しかも竈から採った煤を行灯の油で溶いて顔に塗って・・・
「ギリースーツよっ、これで今日は頂きよっ 山猫は眠らないのよっ」
「・・・こもかぶりサンみたい・・・デスよ?」
「いやべるでさん、あなた機能美と言うものを判ってな・・・」
「おこもサンみたいデスぅっ」
べるでは端末のカメラで二人を撮った。
それを二人に見せているとガラリと隣の戸が開いた。
「あらあら、べるちゃん、おはよう。今日は早いのね」
と隣のおばさんが顔を出した。と、横の二人を見て、べるでと横の二人を交互に見て・・・
「あら、やだわぁ、おばさん顔を洗い忘れちゃった」と奥に下がっていった。
二人はべるでが撮った画像を見て、さらにお互いのカッコを見合って・・・
そそくさとギリースーツを脱いで背負い籠にしまうのであった。
「いや~、やっぱりこう言うのは現場で着ないとな」
「そうねっ、TPOが大事ねっ」
濡れタオルで顔を拭きつつ歩き出すが油で溶いた煤は伸びるだけで中々落ちない
「お隣サンに見られましたデス」
自然と早歩きとなった赤い顔をした一人と黒い顔をした2人は颯爽と?南門に向かうのであった。
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