第118話 駆除の罠の見回りの
「おっそーいっ 早くしないと見回り終っちゃうわよっ」
朝から三杯飯を平らげたアンは元気いっぱいだ。
村で行商から買ったジーンズを履き、お気に入りのデニムのジャケットを羽織って足取りも軽い。
その後ろをぼーっとした頭でフラフラとついて行く二人は寝坊して朝飯もろくに喰って無い。
「良い天気デス」
べるでは黄白色のワンピースに麦わら帽子を被り、上を向いてつぶやいた。
空は雲一つ無い快晴だ。黄色い太陽が燦燦と上から光り輝いている。
「ほら、べーーーるでっ ぼーっとしてないで歩く歩くっ、あーるーくっ」
長屋から表通りに出て南門に向かう。早朝・・・でも無いが南門辺りにとっては早朝であり、人通りも疎らである。
門を出てから南牧場の中を通り畑まで近道をした。
待ち合わせ場所である畑の中の一本杉には未だ誰も来ていなかった。
「ほれ、慌てなくてもまだ誰も来てないじゃん」
「いーのよっ、こーゆーのは早く来た者勝ちなのよっ。ほらっ、お湯わかしてお茶にしましょっ」
やれやれと思いながらも八尾はストレージから灯油ストーブとヤカンを取り出した。
箱から出して耳のそばでストーブのタンクを振る。真鍮で出来たマナスルのタンクがかなり高くなった朝日に眩く光る。
チャポチャポと中で灯油が揺れる音を聞いてこれぐらい灯油が残ってればお湯は沸くだろうと中央の蓋を開けてバーナーをねじ込む。
折り畳み式であるストーブの足を開き、上から五徳を差し込むと枯れ草を少し束ねてバーナーの下に差し込んだ。
そして1~2回ポンピングすると圧力でバーナーの中に液状の灯油がバーナーのジェットの穴から滲み出し受け皿に貯まっていく。
ある程度貯まったところで給油口の横にある圧力調整ネジを緩めて内圧を下げると灯油の出が無くなる。
風防とバーナーリングをセットし、ライターで受け皿に乗った枯草に火を点けた。
枯れ草を芯にメラメラと灯油が燃える。黒い煙を巻き上げて火は段々と大きくなる。
暫くするとバーナーからシュゴゴ、シュゴゴゴゴと中の灯油が気化して燃え出す音が不定期に聞こえだしてくる。
下の火が消えそうになる頃、八尾はゆっくりとポンプを動かす
シュゴォォォォォォォ
とバーナーから青い炎を出してストーブは燃焼を開始する。
上に水の入ったヤカンを乗せて暫しぼーっとする。至福の時だ。
「って今日は朝からぼーっとし通しよっ シャキッとしなさいよっ」
お湯が沸いたので圧力調整ネジをちょっと緩めて内圧を下げる。内圧が下がると灯油の出が少なくなって弱火になる。
バーナーヘッドの温度を下げすぎないように注意して弱火を維持する。
下げすぎると灯油が気化せずダラダラとこぼれてしまうのだ。
コーヒー豆を手回しミルにざらざらと入れて挽く。挽き終ったらペーパーフィルタをドリッパーに付けて、粉を入れていく。
「ちょっと段取り悪いんじゃないっ?お湯が沸く前に挽きなさいよっ」
アンの五月蠅い突っ込みはスルーしてコポコポと沸騰し続けているお湯を一回しする。
粉はモコモコと盛り上がっていく、ヤカンを脇に置いて暫く待っているとコーヒーの香りが辺り一面に漂い出す。
十分に粉が蒸らされた後、フィルタにお湯が掛からないように気をつけつつ、ちょろちょろと少し高い位置からお湯を垂らす。
テケテケテケテテテテテーーー とステンレスのサーバにコーヒーが流れていく。
もこもこと盛り上がっていた粉が平らになり、上の泡が少なくなる頃にお湯を注ぐのを止めた。
深追いすると出涸しの匂いが出るのだ。
ストーブの圧力調整ネジを完全に緩めて火を消す。本体は熱いので当面放置だ。
サーバからマグカップにコーヒーを注いだらお茶の時間だ。
アンはレジャーシートを敷いてクッキーをお皿に盛っていた。
さっき朝飯を三杯お代わりしたのに・・・・
八尾はコーヒーにお湯を追加して薄めのストレートを喉に流し込み暫しまどろむ・・・・ぐぅ・・・
「ちょっとぉっ、いい加減起きなさいよっ みんな来たわよっ」
「起きてる、寝てない、起きてる、おきて・・・あれ?いつの間に片づけたの?」
お茶セットとレジャーシートは既にストレージに仕舞われており、なぜか八尾はゴザの上で寝ていた。
寝ぼけ眼をこすると頬にゴザの目が付いているような感触が有った。
・・・・
「おうっ、ボサっとしてねぇでサッサと行くぞ」
既に日は高く上っている。
罠を掛けている場所が近くなると、小枝を踏んで音を立てないように慎重にゆっくりと歩く。
林の上から太陽が照り、日向と日陰でコントラストが高い風景は陰になるところが見にくい。
亀吉は遠くの木の根元を目を凝らしてじっくりと見た。
「・・・いねぇな・・・、おいそこ、
振り返りざまに脇に居たアンが怒鳴られた。
林の中は足跡が縦横無尽にあり、獣の遊び場に成っているようである。
それでもホンの僅かに通りやすく道筋が出来ている所もある。
「立ちやすいとこはよぉ、でぇてぇ獣道よぉ。亀吉っあんの後ろからついて行けば間違いねぇぜ
そんで次の所っからよぉ、罠んとこに糠
場の雰囲気を納めるように鶴吉がアンに向かって呟いた。
・・・なによっ、自分だってさっき通って居た場所じゃないのよっ、それに加齢臭と二日酔い臭いのはあんた達よっ
と思いつつも、二人の強力な強面のツラに何も言えないアンであった。
「シシはよぉ、掛かりゃ土ほじくって綺麗にしちまうんだけどよ、鹿はじっとしてる奴も居るからよぉ、しっかり見てねぇと見逃しちまうぜぇ」
・・・
罠は十数カ所に掛けられていたが、すべて不発だった。
日が悪いと二人は酒場に厄払いに行くとの事。
畑に戻った八尾たちは再びヒヨドリの駆除に就いた。
「今日は小一時間で50程獲れりゃ良いんじゃないかな」
「一人で25なら楽勝よっ、時間も遅いからさっさと終わらせましょっ」
とそれぞれ林の中に消えていった。
・・・
辺りからはピーヨピーヨ、ピィッ、ピィッ、ギャッギャッっとヒヨドリの鳴き声が聞こえる。
「ん~ふふっ、ここに居ればあそこの枝にとまって様子を伺うからピシッと一発ねっ」
アンは昨日と同じ場所に陣取り、エースハンターをポンピングしてヒヨドリを待つ。
「さぁこいっ」
・・・
「さぁこいっ」
・・・
「さぁこいっ?」
「へんね?この枝じゃなかったかしらっ? あっ来たっ、うっ、飛んだっ」
アンはしゃがみ込んで杉の木にもたれかかるようにしつつエースハンターを構える。
枝に止まったヒヨドリを素早く仕留める為だ。
しかしヒヨドリはたまに目標近くの枝に止まるも、枝の揺れが落ち着く前に飛んで行ってしまう。
辺りからは鳴き声が聞こえるものの、中々と撃てる所に止まる気配は無い。
小一時間程でやっと3羽を落として八尾に連絡を入れる。
「そっちはどうっ?こっちはやっと3羽」
「こっちは4羽目を今落としたところ。上を飛んでるトンビを警戒してるのかな?」
「キジじゃあるまいしっ、トンビなら昨日も居たじゃないっ?」
「じゃぁ此処は危険って回覧板が回ったかな」
猟師あるあるである。
「そーんな訳無いでしょっ、べるでが畑のヒヨドリを撃ってないから飛んでこないのかしらっ?」
「それだ!それかも、それかっ?う~ん、それかなぁ?
まぁヒヨドリも馬鹿じゃないから危険を感じ取ってるのかもなぁ」
二人は一度畑に戻って作戦を立て直す事にした。
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