第117話 ヒヨドリ編 後始末
「あたしはねっ、こーゆーチミチミした仕事、向いて、無いと、思うの、よっ」
「ぐだぐだ言わないでとっとと毟る」
「この翼の前面のちっちゃな羽なんて焼いちゃえば良いんじゃないのっ?」
「
「香ばしい方が美味しいじゃ・・・あ、また胸の所破けたっ」
ヒヨドリの皮は薄い、一度に毟る羽が多かったり、毟る方向を間違えると直ぐに皮が破けてしまう。
「もうっ、キジバト位にざくざくと抜ければいいのにっ」
「焼き鳥用1羽追加デス」
べるでは皮が破けたヒヨドリの残った羽をざっくり毟り、ささっとバーナーで一炙りすると残っている綿毛がチリチリと燃える。
タンパク質が燃えた匂いと皮の少し焦げた匂いが混じった中、炙ったヒヨドリの皮が縮まり心なしかまん丸に見えるのであった。
・・・・
昼過ぎに男らが戻ってきて捕獲した数に驚いていたが、報償の算定に嘴が必要だと切り落とした後、ヒヨドリを買い取ってくれる料理屋を紹介して貰った。
罠の方は空振りだったららしいが、通いはあるので明日は捕れるだろうとの事。
なので明日、八尾達も見回りに同行するのと昼からはカラス駆除もして欲しいと言っていた。
そして今、試験で使った猟の道具を仕舞った長屋の土間で八尾達はヒヨドリを裁いている。
「なんで長屋に居るのかって?そりゃ連日の食い倒れ計画で路銀が尽きちゃって、気がついたら
宿賃も払えなくなっっちゃったのよっ。タケルの種子島を質草にして宿賃はなんとか工面出来たけど、
これが日本なら逮捕、許可取り消しねっ。」
「オネエサマ、無表情で独り言は怖いデスよ」
アンは独りごちながらも次のヒヨドリを掴み、肛門の上にカッターで切れ目を入れた。
割り箸の先で腸を引っかけウニョーンと内臓を引き出す。
そして指を入れてレバーとハツと砂肝を取り出しては分けて皿に移していく。
ここは割り箸でやるとレバーがズタズタになるので、人差し指一本でやる。
水色のゴム手袋に血やら羽がついてしまうので、数羽まとめて処理している。
べるでは次列風切り羽が中々抜けず苦労している。
皮を破かないように一度に毟らず数本毎にちまちまと抜いている。
八尾は綿毛と格闘している。綺麗に毟ったつもりでも見直す度に数本の綿毛がどこかに残っているのだ。
そして、頭と足をハサミで落とした後、最後に
「ええと、1羽処理するのに10分としてっ、1時間で6羽。捕るのに3人で半日だから・・・
一羽の駆除代が豆銀(小銀貨)って話だと時給換算で・・・」
「駆除代は日給で1人約3銀デス」
「弾代除いてな」
「割に合わないわっ、なんでこんなに安いのよっ」
「元が半ばボランティアで老人の小遣い稼ぎって言ってたからなぁ・・・」
「買取分が増えマスから少しマシになりますデスよ」
ぐだぐだと愚痴を言いつつも作業は淡々と進み、あらかた片付いて来た所で八尾は夕餉の支度を始め、
アンとべるでは処理が終わったヒヨドリを小料理屋に売りに出かけて行った。
まず、皮が破けて売り物にならないヒヨドリの頭と足を落とし、腹から胸の中をきれいに洗い、肺やこびりついた血を取り除く。
ゴシャッ、ゴッゴッゴッ
角鉈の背で骨を潰す。そして骨が細かくなったところで刃の方で刻んで行く。
6羽ほど順に粗刻みにしてから2本の包丁に変えて叩いていく。まな板の上でダンダンと叩く。
叩くうちに骨がさらに細かく細かくなり、音がトントンと変わっていく。
そこにパンの切れ端を入れてさらに叩く。
広がった具材を寄せてリズムに乗って叩く。
調子に乗って川崎大師の参道の様に叩く。
なめらかになったところで茶碗に移し、塩、胡椒、片栗粉、卵の黄身を一つ入れて練って練って練る。
粘りが出てきたら割り箸に付けて、かまどの口に立てて焼く。
パンの切れ端で増量したのでソーセージ位の大きで6本作れた。
レバーとハツと砂肝も串に刺して一緒に焼く。ヒヨドリは体が小さいので一つ一つは親指の爪ほどしかない。
こっちはレバー串3本、砂肝とハツを交互に刺した串3本作った。
残ったモツは油でジンワリと煮る。これは明日のおかずだ。
かまどから熾火を移した七輪の上には金網が置いてあり、丸干しの鰯がジュウジュウと焼けてきている。
これは解体作業中に天秤棒を担いだ売り娘が来たのでヒヨドリと物々交換したのだ。
ご飯は4合炊きの丸い飯盒をガスバーナーに掛けて炊く。弱火の調整がしやすいのだ。
こちらも横から出る粘りを帯びた水がほぼ無くなり、後は蒸らせば良いだけになってきた。
そして仕上げに味噌汁に残った卵の白身を落として掻き卵汁を作る。
味噌汁を器に移すしてサラッと洗った後、再び水を張って数羽のヒヨドリを入れて七輪にかける。
これも明日のおかずだ。二人が戻ってくる頃には何とか支度が整った。
「いっただっきまーすっ」
「ツクネは骨がちょっと厳しいデスね」
「そうねっ、旨味が深いのにガリガリするわっ」
「
「丸干しを頭ごと行ってるタケルが言っても説得力無いわよっ」
「次はすり鉢を使ってみまショウか?」
「もっと叩く時にチタタプとか言わないと駄目なんじゃないっ?」
「何デスか?そのおまじない?」
文句を言いつつもあっという間に完食した。作る手間の割に食べる時間は短いのだ。
夕餉の片付けが終わり、ちゃぶ台を退かして布団を二組重ねるように敷く。
「立って半畳寝て一畳って言うけど、3人で二畳弱は流石に狭いな」
「そぉっ?あたしはなんか結構楽しいわよっ、キャンプみたいでっ」
「キャンプと言うより荒天の山小屋だな」
アンを挟んで川の字で寝る3人であった。
・・・
「んっ、ん~~っ、ん、ふんっ」 ゴスっ
「んが、んーーーーー」
「んっ、んっ、ふんっ」 どすっ
「ごふっ・・・痛いデス・・・あら?たけるサン?どうしまシタ?大丈夫デスか?」
べるでは鳩尾に強烈な寝返り肘鉄を喰らって目を覚ますと、目の前で八尾が顔を赤くして丸くなって蹲っていた。
「だ、大丈夫・・・じゃない・・・」
向かい合って無防備な状態での容赦ない膝蹴りは脳の血管が切れるほど痛かった。
べるでから土間で白湯を貰い一飲みするとやっと落ち着いた。
「未だ痛いデスか?」
「わっ、ちょっと・・・」
「大変デス、腫れて来まシタ」
・・・
「べるでも肘鉄喰らったでしょ?痣になったりしてない?」
「あっ、・・・・」
5月の夜明けは早い。外は白々となりつつある。
部屋からは障子の桟が黒く見えだし、七輪に掛けっぱなしで冷えた鍋の中にヒヨドリの黄色い油が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます