町の駆除隊

第116話 有害鳥獣駆除 ヒヨドリ編


男はハゲた頭をなで上げ、八尾達を一瞥すると視線を外して呟いた。


「なんでぃ、こんなヒヨッコを寄越しやがって、奉行も焼きが回ったもんだな」


御食事処救世主の一間には強面のおっさんが二人、田之倉、そして八尾達が朝食を前にして町の駆除隊への顔合わせだ。

二人は昔からのコンビで毛がない方が亀吉、ひげが鶴吉と名乗った。


「まぁまぁそう言わんで、こう見えてこれでもきゃつは熊殺しだからの」


「熊ったってよー、アナグマとかアライグマじゃねーのかよー? なぁおぃ

田之倉さんよーぉ、頼むぜぇ こちとらママゴトやってんじゃねぇんだぜー

まさかよー 名前が熊ゴローとか言うんじゃねぇだろーなー?」


「いやいや、八尾じゃ、八尾、きゃつらこう見えても試験の射撃も上々だったでな」


「射撃なんざ決まった的を撃つだけじゃねぇか、獲物はそうじゃねぇんだぞ。

ふん、まぁ的にも中てられねぇ、練習すらしねぇ奴は問題外だがな」


再び八尾達をジロリと見回すと


「仕方ねぇなぁ。おぃ、おめぇら今日は本番駆除だからな、気ぃ抜くんじゃねぇぞ」

「そうだぞー 頑張れよー 熊ゴロー」


・・・・


外は穏やかに晴れていた。

「い~天気ねぇ~っ」

シヤルスク南牧場の外にある畑の縁で、アンは切り株に腰をかけて呟いた。

「爽やかでいい天気デス」

べるでは畑の中程にあるベンチに腰をかけている。

「日陰は寒いなぁ」

八尾は外回りにある林の木陰でジワジワと冷えていた。


男達は周辺に掛けた罠の見回りと明日にわれる猪猟の見切りに行った。

なんでも畑に植えてあるキャベツの苗が鳥に喰われ放題で、そちらも駆除要請が

来てるから八尾達はヒヨドリとカラスの駆除を行えとの事である。


「おぅ、撃つのは構わねぇけどよ、畑にバラ玉撒いて苗を駄目にするんじゃねぇぞ」

「おぉ、そーだぞー、後で喰うときに困るからなー」


そう言い残して去って行った。


しばらく畑の中で観察をしていると、ヒヨドリの群れは南方向と西方向にある林から来訪して

一頻り食事を済ますとギャーギャーと鳴きながら飛び立っていく。

幾つもの群れが林の中に居り入れ替わり立ち替わり、ひっきりなしに苗を貪っていく。


八尾は作戦を立てた。

畑は南牧場の更に南西側の一番端、その周りには数十メートルに渡って林があり、その先は湿原となっている。

べるでが畑の中央で動く案山子となり、追い払われた鳥が止まる木の付近でアンと八尾が空気銃で撃ち落とす。

エレガントで完璧な計画である。もちろん林から出てきて様子見で枝に留まる奴も・・・である。


きゅぃ、きゅぃ、きゅぃ、コトン、カチャッ、・・・カチン

「近いからポンプは3回で良いかしらっ?」


アンはエースハンターを3回ポンプすると弾を入れてセットトリガを起こした。

スコープは9倍に設定して、AOも既に距離に合わせている。

距離計で計ると枝までは11m程 撃ち上げとなるので10mゼロインのままで良いだろうと判断した。


手間取ってる間にもヒヨドリは枝に止まって暫く周りの様子をうかがうとピィィーョピィィーーョピィッと二鳴き、三鳴きする。

上の枝に林から出てきた別のヒヨドリが一瞬止まった後、畑に向かって降りていく。

それを鳴いていたヒヨドリが追いかける。


スコープ越しに小さな鳥を探すのは一苦労であるが、視線を鳥から外さずに真っ直ぐ構えれば割と簡単に視野に入る。

アンはヒヨドリから目を離さず、銃をすっと頬に上げる。


「・・・・・・・・あ、飛ばれちゃったっ 狙い込み過ぎねっ」


一度銃を下ろすと直ぐに第二団がやってくる。


・・・パシッ


「・・・よしっ、やたっ、落ちたっ」


アンは急いで木に駆け寄る。頭を撃ち抜かれたヒヨドリはすでに事切れている。

尾羽を持って、ひょいと籠に入れると元の位置に戻って繰り返していく。

ここのヒヨドリは空気銃に対して警戒心を持ってないので引っ切り無しにやって来る。


・・・・・

きゅぅ、きゅぅ、きゅぅぅ・バチン、カラン・・・ ・・・ ・・・カシュッ

八尾も3回ポンプしてレバーを戻す。こちらは普通のタイプのエースハンターだ。

銃口を斜め下に向けて弾を置いたら、てるてる坊主型の弾は半回転してスカートを頭に装填口に滑り込んでいく。

上に向けて軽く銃床を叩くと降りてくるので、指先で捻って反転させ、向きを正しくするとボルトを閉じた。


「ええと、枝までは15mだから・・クロスの2~3センチ上か・・・な?」


・・・・ポシュッ

「・・・よし、落ち・・・ありゃ?枝にしがみ付いてる?半矢か?」


きゅぅ、きゅぅ、きゅぅぅ・・・

近寄ってから再び弾を込めると次弾を撃つ。


ぽたり。と落ちた


拾いに行くと落ちた辺りに見当たらない。脇でカサカサと言う音が微かに聞こえた。

林に入るとヒヨドリと目が合った。跳ねて逃げるヒヨドリ、それを追いかけ回す八尾。

どうやら思ったより弾は上に飛んだらしく、枝に中ったみたいだ。

バタバタと追いかけ回しているが、追いつくか?と言うところでヒヨドリは跳ね回って逃げて行く。

畑に出ては林に戻り、畑に出ては林に戻る。ヒヨドリも必死だ。


「ふぅ、やれやれ、やっと1羽回収っと」


半矢の鳥を捕まえて〆るのは結構ハードルが高い。罪悪感があるのだ。

普通にヘッドショットで落とすのと変わりないハズなのだが中々に厳しいものがある。

だから八尾はなるべく頭を狙って撃っている。


「あ、そうか、3回ポンプだから15mで高さは丁度位か・・・

どこかでスコープぶつけちゃったかなぁ・・・

仕方ないちょっと調整するか・・・右にちょっとズレたから反時計方向に回して・・・と」

ヒヨドリの止まる枝直下にある小石を目がけて何度か撃って調整する。

もちろん日本でやっちゃ駄目である。


「たけるサンってば何を遊んでるデスかね?」


べるでは畑の中央で釣り竿を振ってヒヨドリを追い払っていた。

が、右を払えば左、前を払えば後ろとらちが明かない。

更にアンも八尾も居ない南西の方向からパタパタッ、パタパタッっと無音で飛んでくる。


「さっき、人が居ない方向なら撃ってヨシっていってまシタよね?」


とアイプロテクターと電子イヤーマフをつけて、上下二連のスポーティング銃に9号弾を込める。

畑から林までは30m程である。

枝に留まって様子をうかがっていたヒヨドリの上に数羽が留り、一呼吸置いてこちらに向かって飛び立った。


パンッ


乾いた銃声が鳴り響き、驚いたヒヨドリが四方八方に飛び立つ。

南西に逃げたヒヨドリに向かって追い矢を放つ。


パンッ


「7番ダブルの逆撃ちデス、1番7番8番は外しては駄目と偉い人が言ってマシタ」


きゅっ、ぽしゅっ

べるでは足下の籠に薬莢をはたき落として薬室から息を吹き込み熱を帯びた煙を外へ出すと次弾を込めた。


その後もヒヨドリの飛来は飽くこと無く続き、休み休み撃つも捕獲数は昼前には100羽を超えた。

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