第114話 ハンター試験 団体行動

「では次の3名の方どうぞ」


途中で抜ける人も居ないので順番に変わりは無いようである。


やっぱりこの男と一緒かぁ・・・

講習受けてないんだろうなぁ・・・


と、八尾が不安感をたっぷり抱えたまま試験は開始されるのであった。


「はい、ではこれから銃猟の団体行動試験を開始します。試験開始の合図がありましたら私らアドバイスなど喋れませんので

質問などありましたら今のうちにお願いします。ありませんか? では試験を開始します。」


「では、あちらの台にある銃を取って、こちらに並んでください。」


男はさっと台に進むと銃をむんずとつかみ、よっと肩に担いで列に戻った。


八尾とべるでは銃を手に取り開閉レバーを動かして銃を折り、薬室を覗く


「脱包ヨシ」


そして銃を閉鎖して腕に下げて列に戻った。


「回れ右、そして横一列で向こうの壁まで行進してください。」


八尾は用心の為、半歩ほど男から遠のいた。

そして、銃を縦に持ち替えて回れ右をする。

丁度八尾が立って居た辺りを男の銃身が回って行った。


回れ右をすると左側に男、中央が八尾、左がべるでである。

八尾とべるでは右腕で抱えるように銃を前向きに持ち、左手で被うようにして歩き出す。

横一列になるようにと左側を見ると、男は銃を肩に担いだままだ。


壁まで来ると再度回れ右をして元の位置に戻るよう指示があった。


再び銃を縦にして回れ右をする。

そして、今度はべるでが左側となるので、べるでは銃口が左側を向くように持ち替えた。


「では、狩猟開始。あちらまで縦一列で行進してください。

右向け~、右っ」


八尾とべるでは銃を横に抱えて男の後ろについて行く。

肩に担がれた銃の先が揺れて、たまに銃口がこちらに向く。

弾が込められていない模造銃だと判っていても、やはり気分の良いモノでは無い。


「川が有りますので、渡って休憩してください」


床には50センチ程の幅でマーキングしてある。


八尾は二番目なので、脱包ヨシと確認して足元に自分の銃を置いて男の後ろに立った。

男は銃を担いだまま軽くそれを飛び越えて渡るとそのまま床に座った。


・・・ええと、


八尾は一瞬戸惑ったが、置いてある銃を持ち上げて、脱包を確認して後ろを向く。

べるでも脱包を確認して銃を置くと八尾は銃をくるっと回して銃床からべるでに差し出す。


お互いに銃を掴んだまま、目と目が合う。先台で指先が触れる。

べるでの頬が若干赤みを帯びつつ


「お願いします」


「ヨシ」


の掛け声で八尾の手が離され、銃が受け渡された。


八尾が川を渡り、振り向いて自分の銃を「ヨシ」のかけ声で受け取り、近くの床に置く。

次にべるでの銃を同じように受け取り床に置くとべるでも川をふわっと飛び越えて来た。

2人は自分の銃を手にとり休憩位置まで行くと、脱包を確認して銃を置いて床にしゃがんだ。


「休憩終わり、銃を持って最初の位置まで戻ってください」


脱包を確認して銃を抱え、元の場所に並んだ。


「では、銃を戻して下さい」


「ふー終わったなぁ、それにしても良く出来てんなあ、これ」


と男はぶつぶつ言いながらトリガーをカチャカチャ弄ぶ


八尾とべるでは最後の脱包確認をして銃を置いた。


そして、戻ると試験官が試験終了を告げた。


「はい、以上で試験は終了です。」


・・・


「おっまったっせー」


「どうだった?」


「楽勝よっ、らっくっしょーっ 」


「後は罠だけデスね」


「罠かぁ・・・」


「罠ねぇ・・・っ」


3人はあまり減ったような気がしない長蛇の列を眺めて溜息をついた。


・・・


罠の試験自体は講習と全く変わりが無いもので、開始後にはあっさりと終わった。

八尾はまるで何処かの大病院みたいだとか思いつつもアンとべるでが出てくるのを外で待っていた。


ふわりと吹く5月の夜風は、そぞろ神の如く心までも包み込んでしまうような気がした。


「お待たせしまシタ」


振り返ると、緑色の髪が風に巻かれたおやかに靡いている。


「気持ちの良い風デスね。どこか遠くに行きたくなるようなフシギな気がしマス」


何も言えず、ただ見とれて居るとアンも直ぐに出て来た。


「全くもぉっ、もう食事処は全部閉まっちゃってじゃないっ・・もーっ」


穏やかな春の宵が台無しである。


「はいはい どうどう」


「馬じゃないわよっ もーっ 」


「・・・べこかっ?」


「誰が牛よっ全く失礼ねっ、あたしは牛を食べる側よっ!」


べるでは良い雰囲気を壊されてヤレヤレとばかりに斜め上を向きつつ


「晩御飯は如何しマス?宿でストレージから出して食べマスか?」


「試験の打ち上げなんだからっ、何処か開いてるお店は無いのっ?何~処~かっ」


「全部閉まってるってさっき自分で言ってたじゃん?」


「うっさいわねっ、店の戸叩いてぐだぐだ言って開けなかったらタケル担いでカンカン能踊れば店ぐらい幾らでも開くわよっ」


「俺はラクダじゃねぇ!」


道端で夕飯難民してると脇道の暗がりから大荷物を抱えた老人が出てきた。


「やれやれ、か弱い年寄りを安い日当でこんな時間まで働かせるとは、全く最近の若ぇ奴は・・・おや?騒がしいと思ったら八尾じゃないか、まだ帰って無かったんか?ご苦労なこったな ヒャッヒャッヒャッ」


「なぁんだ、スタンのお爺ちゃんじゃないのっ。撤収早いわねっ」

「あぁ爺さん、さっきぶり」


「なんじゃぃ、空気悪いな ははん、大方腹でも空かして気が立っとるんじゃろ

ほれ、これ持って付いて来い。」


ドサッと荷物を八尾に押し付けるとスタスタとまた路地に入って行った。

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