第112話 ハンター試験 知識と判別と距離


「それでは時間ですので、終わった方は退出可能です。」


大きな砂時計の一つが空に成った所で、退出可能と成った。

試験終了は、もう一つの砂時計が無くなるまでである。


「んー、終わりましたデスね」

表に出ると、べるでは片手を頭の後ろに廻して反対の肘を掴むと大きく伸びをした。


知識試験は30問の3択で、7割が合格レベルである。

7割は過去問から出ているので、楽と言えば楽なのである。

残りの3割も新しく制定された決まりや読本をしっかり読めば取れるテストだ。


「あれ?、アンは?」


「さぁ?未だデスかね?」


・・・


『ち、ちょっとっ、落ち着くのよっ、ええと怪しいのは後3問っ・・・おかしいわねっ?かっこ1と3どっちも正しそうな感じなんだけど・・・、あっ正しくないものを選ぶのね、危ない危ないっ』


・・・

「お待たせーっ」


「おー待った待った、で、出来はどうだった?」


「意外と手ごわかったっ、結局1問曖昧なままねっ 後で調べなきゃっ。 タケルはどうだったのっ」


「5問ぐらい微妙なんだけど、まぁ8割は取れてるから大丈夫」


「何言ってるのよ、ちっとも大丈夫じゃないわよっ、試験は7割で合格だけど、実猟でやらかしたら1回でも取消なのよっ

べるでっ、あんたはどうだったのよっ?」


「勿論パーフェクトだと思いマスが?」


「5問目ってどうだったっ?」


「アレはカッコ1とカッコ3が正しそうな感じでシタね。ただ、カッコ3は【ふたえにしてくびにかけるじゅず】なので

カッコ1が正解であれば、カッコ3の解釈は間違いであるほうかと思いマス」


「・・・、5問目は・・・あれ・・・間違いを選ぶ問題じゃ無かったっ?」


「そんな問題あったっけ?」


と、終わった後で騒いでも、問題文も回収されてしまってるので答え合わせも出来ないのである。

3人は屋台の串焼きを頬張りつつも、あーだこーだと読本を片手に言い争っていた。


・・・

昼休みも終わり、そろそろ知識試験の合格発表が掲示されている頃だろうと試験会場に向かった。


「はーぃ、おまたせしましたー では知識試験の合格発表を張り出しますねー

合格者の方は番号のある紙の上に書いてある場所に行って実技試験を受けてくださーい」


と、壁に合格発表の用紙が張り出された。皆ぞろぞろと番号を確認すべく集まってきた。

番号は若い順に書かれているが、ポツポツと空白になっている箇所がある。

呆然としている人、肩を落としてとぼとぼと帰り支度をする人、何で俺が落ちてるんだと怒る人・・・それぞれである。


「あっ、あ、あったわよっ 番号三つともあったわよっ」


「当然だろう?あれだけ勉強したんだから」

内心、落ちていたらどうしようとか思っていた八尾であるが、番号があったと聞いて手のひらを返したような言動である。


「午後は鳥獣判別からでシタね。オネエサマ、オスイタチとメスイタチの判別は大丈夫デスか?」


「もちのロンよ、もうメンタンピンドラドラよっ

小さく描かれているのがメスイタチ、大きいのがオスイタチ

イタチとテンは背景が違うのよっ」


「じゃあタケルっ、タシギとヤマシギはっ?」


「え?えと、ええと、ヤマシギの方が大きく描かれていて、背景が山の中っぽい」


と、問題を出し合っているとすぐに順番が回ってきた。


「はーぃ、ゴルノのアンさーん。1番に入って下さーい」


アンは藁半紙に『一番』と書かれた部屋に入って行った。

部屋に入ると向かい側に3人の試験官が座っていた。


「どうぞ、お座りください。」


「は、はいっ、よろしくおねがいしますっ」


目の前には椅子だけが一脚置いてあった。そこに腰かけると試験の説明が始まった。


「まず確認です。出身地とお名前をお願いします」


「はいっ、ゴルノ村のアンですっ」


「はい、では試験の説明をしますね。これから鳥獣判定の絵をめくっていきます。

狩猟対象鳥獣ならば『ヨシ』の後に鳥獣の名称を答えてください。

非狩猟対象であれば『ダメ』を答えてください。 

時間は一枚につき5秒間です。この振り子が5回音をたてるまでに答えてください。

では第一種の試験を始めます。」


試験官は紙をめくった。


「ヨシっ、イノシシっ」

「ヨシっ、マガモっ」

・・・

・・・

「ヨシっ (・・ええと、目が中央だから・・) ヤマシギっ」

「ダメっ 百舌(・・・は、言わなくて良かったんだっけ・・・)」


「はい、第一種の試験終了です。続いて罠の試験を始めます」


「ヨシっ イノシシっ」

「ヨシっ たぬきっ」

「ダメ」

・・・

・・・


「はい、罠の試験終了です。続いて網の試験です」


(3つ続けてやるのも大変ねぇっ結構疲れてきたわっ)

「ヨシっ (・・・ええとアレよアレっさっき答えたアレ・・・)ぴっ、ぴよどりっ」

(ぴよじゃないわよっヒヨドリよっ・・もうバカじゃないのっ)

「ヨシっ すずめっ」

「ダメっ おしどりっ」

(あぁ、また名前言っちゃったっ)

「ヨシっ よ・よ・ヨシガモっ」

「ヨ・・ダメっ」

「ヨシっ むくちゃ・・むくどりっ」


「はい、網の試験終了です。では外で距離の試験を受けてください」


淡々と試験は進められた。5秒と言う時間はかなり短い、考えている間に紙はめくられてしまう。

焦れば焦るほど名前がでてこなくなるのである。

試験の形式は場所によって記述とか色々ある・・らしい。


「つ・・疲れたっ・・・受かってるハズだけど疲れたわっ・・・」


アンはがっくりと項垂れながら足取りも重く外へと向かった。


「こっちですよー はい、受験票預かりますねー」


受付に受験票を渡すと、外では八尾が距離の判別試験をやっているのが見えた。

と、思ったらもう戻ってきた。


「じゃ、アンさん。試験官の所に行ってください。」


と八尾と入れ替わりにアンは走って行った。


「はい、では試験を始めます。まずここから300メートルはどの辺ですか?」


「300メートルねっ、向こうに一本だけ見えている木までが300メートルですっ」


「では向こうの壁まではどのぐらいですか?」


「10メートルですっ」


「はい完璧ですね、距離の試験終了です。お疲れさまでした。」


お疲れも何も無いのだが、完璧に答えたと言う事は気持ちの良いものである。

アンは足取りも軽く受付に戻って行った。


「ええっと、次は何処かしらっ?」


「弓らしいぞ なんでも先日の講習会で弓の実技試験受けなかったの鉄砲撃ちだけなんだって」


「じゃぁ東射場に行った人だけなのっ? で、どこでやるのよっ?」


八尾が視線を移した先をアンが見る・・・そして視線を戻すと八尾と目があった。


「まさか・・・あそこが試験会場っ?」


二人は盛大にため息をついた・・・

・・・

・・・

・・・


「オネェサマここデス。」

べるでは弓の実技試験会場から手を振った


「あらっ?あんた何飲んでるのっ?」


「全部当てると飲み物が頂けマスです。」


「おうっ、ヤオとアン、とっとと受験票をだしな」


「お、おぶ、近さん? な、なんで?なにこれ?」


と、仮設テントのようなものの中に長椅子と机が並べてあり、奥には的が、手前には小さな弓と矢が並べてある。

そして横には試験官?の妙齢の女性が着飾って並んで座っている・・・

試験会場は赤や緑で飾られ、花街の一画のようである。

アンは横目でそれを見ながら言う。


「これは・・今さんの趣味なのかしらっ?」


「いやぁ、町番が南でよ、暇こいてたらバイト料くれるってんで今日の近さんは試験官よぉ

弓なんぞ安全に扱えりゃいいんだからよ、なれた感じの方が気が楽ってもんだろ?全部当たりゃ飲み物が出るぜ

ほらっ良いからとっとと受験票っ」


・・・

「あた~り~」 ドンドンドン


景気の良い太鼓の音が鳴り響く。正直恥ずかしい


「アン、おめぇ良い腕してんなぁ 確認もばっちりだったぜ ほれ合格のハンコと飲み物サービスだ

ヤオ、おめぇは裏に花が付いた奴当てたから合格のハンコと割引券だ」


「割引券っ?花街の?なに馬鹿言ってんのよっ、タケルがそんなトコ行くわけないじゃないっ、飲み物で良いわよっ」


「決まりなんだから仕方ねぇだろ?・・・ええぃ、仕方ねぇなぁ、おうっ仕方ねぇ、じゃオイラが自腹で飲み物と交換してやろう」


タケルは仕舞おうとしていた紙の5割引きと言う文字を眺めつつ、それと飲み物を引き換えた・・・

おぶ・・近さんはほくほくとしながら、大事そうに紙入れにそれを仕舞った。


「残念でシタね・・・」


後ろから声をかけてきたべるでの笑顔と目が怖かった八尾である。

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