第107話 閉め出し


「閉め出されましたデスか・・・」


「えぇぇっ、帰り道にうっかり小洒落た所でお食事って計画がぁっ」


「何?なんの事?アン?」


「な、な、何でも無いわよっ。実射合格祝いに帰り道でお洒落なお店で打ち上げなんて考えてないわよっ

店の前でべるでが足挫いたり、あたしが寝転がって手足バタバタして無理やり入店なんて考えて企んでないわよっ」


「・・・オネェサマ・・・秘密の打ち合わせが駄々漏れデス・・・」


・・・コイツら・・いつの間にそんな計画を練ってたんだ・・・

・・・てか、まだ喜ぶのには早いんじゃないのかねぇ・・・


「いいじゃない、合格は合格よっお祝いよっ、お・い・わ・いっ」


・・・なんか頭のなかを読まれたような気がするんだけど


「・・・さて、ここで夜を明かすか?、それとも西門に行って軒下を使うか?どうしようか?」


「あぁっ、タケルっ、スルーしたっ」


「ここで一泊するのも面白そうデス」


「あ、べるでまでスルーするのねっ、もうっ、どうでも良いわっ とりあえず何か食べましょっ。

ほら、タケルっブルーシート早く出して敷いてっ、ほらっ、ちゃきちゃきするっ

灯りは・・・オイルランタンって良いのかしらっ」


「一応、裸火じゃ無いので提灯の蝋燭や行灯と同じ扱いって書いてありマス」


「書いてあるって・・何に?」


「これデス 試験の申し込みの時にギルドで頂いた書類に入ってました」


「へぇ シヤルスクの歩き方? 改訂版?」


「ええと、こっちのフューエルボトルが灯油よね?」


アンは臭いを嗅ぎながらオイルランタンに灯油を注ぎ、ホヤを上げて火を灯すと、八尾はその灯りで小冊子を読み出した。


上に付箋が少し、横にはみっちり。ん?下にも一枚?

なになに?小料理東門亭?上の付箋は?・・・芦田うどん?

うん、これはハンター試験の小冊子を内容を見落とす訳だ。

ほうほう、へー、なるほどぉ・・・


「もうっ読むのはご飯の後にしなさいっ。ほら、ご飯っ、ご飯、ご~は~ん」


と、ストレージに溜め込んでいた屋台の品々を選び出した。


「私は肉まんがいいデス」


「あたしはコミダの特製肉野菜パンに目玉焼き乗っけ~っ」


「あ、いいなぁ目玉焼き・・」


「ざんね~んっ、目玉焼きは一個しか無いわよ~っ。あたしは朝食のを取って置いたのよ」


「じゃ、じゃぁ俺はピロシキに焼きうどんにしよう」


「お味噌汁もありマスよ」


「温かいお味噌汁良いわねっ、あたしにも頂戴っ」


・・・


「月が綺麗だ・・・」


空には満月に近い月が出ている。

壁は漆喰だろうか?月の光を反射した白い壁は辺りをうっすらと照らし出している。


「有名な台詞デスか?・・・」


振り返るとべるでの目と目が合った。

べるでは頬を赤く染めた・・・が判別出来るほど明るくは無い。


「これこれ、そこっ、ラブコメる暇があったらブルーシートを上から張るわよっ。

夜半になったら軒が無いから上から来る冷気が半端ないわよ 晴れていても夜露は降るのよっ」


ダクトテープで塀にブルーシートを張りつけ空間が閉ざされると、ランプ一つの火でも心持ち暖かく感じた。

アンは毛布に包まったが、お尻が冷えると言って座布団を取り出し下に敷いていた。

八尾も毛布に包まって小冊子を読み出す。


「へぇ、昔はここら辺にもオオカミが出たんだ、この町の囲いはオオカミ避けだったんだなぁ・・・」


へ~っ塀~


「お・オネェサマ・・・」


「おかしいわね?今急に冷え込んで来た気がするわっ」


「・・・」


アンがジリジリと座布団をずらして寄って来た。

べるでもそれにつられるように寄って来る。


「今はもう居ないのデスよね?」


「ん~、駆除隊が出てあらかた狩ったみたいだねぇ、いつ頃の話なんだか判らないけど」


「じゃぁさっ、また渡って来ていてもおかしくないんじゃないの?」


「出るなら南側にある養鶏場や牧場が狙われるでしょ?」


「なるほどデス、あちらに被害が出て無いなら此処も安心デスね」


「養鶏場や牧場なんて有ったのっ?」


「卵拾いが出来ると言われてた所デスよ?」


「あぁ、横の付箋の下から三番目のとこねっ

何?タケルっ?目頭なんか押さえて、暗い所で細かい字なんて見てるから目が疲れたんじゃないのっ?」


「まさか、これ全部寄るつもりじやぁないよな?」


「まさかぁ、付箋に日付入れてるのだけよぉっ」


裏から見てみると、何やら細かくみっちり書き込まれている。

明日の朝一番、午前中、午後一、三時・・・


「却下」


「えぇぇっ、ほら、物より思い出って言うでしょっ?」


「却下 ってほぼ買い物じゃないか このリスト」


「寄るのよっ、よーるーのっ、この機会に寄らないで何時寄るのよっ」


「オネェサマ・・・やっぱり無理がアルのでは?時間的にも体力的にも・・・」


「いやさ、べるで・・・他にも金銭的とか色々と・・・さぁ」


アンは暫く考えたあとで呟いた。


「仕方ないわねっ、じゃぁ疲れない範囲で再検討するわっ」


なにやら不穏な微笑みを感じたんだけど・・・大丈夫なんだろうか・・・


「では、お茶でも淹れマスか」


べるではお茶を急須に入れて、ストレージからお湯を注いだ。

誤魔化されたかも知れないけど、熱いお茶は旨かった。


湯呑を片付けてランプの灯を消すと少し冷えて来た。

凍える程寒くは無いが、うすら寒い。冬場とはまた一味違う寒さで気が付かないうちに芯から熱が逃げていく感じがする。

毛布に包まったまま、身を寄せ合って居れば少しは暖かい。

が、アンは微妙にもぞもぞと動く・・・


・・・突然、ガバっとアンが立ち上がった。

べるでもアンと顔を見合わせると立ち上がった。


「オネェサマっ」


「行くわよっ」


と小走りで道の反対側の茂みに入って行った・・・・

あっけに取られていると直ぐに戻って来た。


「ふうっ、これで眠れるわっ」


どうやらお花摘みだったらしい。

八尾も毛布から出ると同じように道の反対に行った。


用を足していると茂みからガサガサと音がする・・・・


「なんだ?何かいるぞっ アンっ」


「べるでっ、アレをっ」


「ハイっオネェサマっ、マジックライト えいっ」


・・・俺を照らしてどうする・・・

・・・眩しいし・・・

・・・つかブルーシートの端から毛布に包まったままで・・ってさぁ・・・


用を足し終わった八尾は、石ころを茂みに投げた。


「あっ、タケルっ、左っ!」


アンが叫んだのとべるでがライトを向けたのはほぼ同時だった。


・・・・・


「たぬきだ・・・」

「たぬきね・・・」

「だぬきデスね・・・」


「「「可愛い・・・」」デス」


光にびっくりしたのか、暫くじっとしていたが、思い出したように茂みに消えていった。


・・・

・・


朝、門番のおっちゃんに起こされて注意された。閉め出されても西門に行けば入れたらしい。


「まぁ・・なんだな、野宿でこんだけ熟睡出来りゃ、いい猟師になれるんじゃねぇか?」


半分あきれ顔であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る