第105話 ハンター試験講習その2


「じゃ揃った所で始めますかね。」


八尾達が入って来ると係員が開始を告げた。

狭い部屋には中央に網のミニチュアが並べられて、外側を取り巻くように20人程が詰め込まれている。


「え〜っとね。網の免許試験の説明ね。ここに並べられている網は5種類ならんでるでしょ?

端から無双網むそうあみ、これは片無双かたむそうって言って片側から閉じる奴ね。餌蒔いておいて、手綱てづなを引くとパタンと閉じるでしょ。ほらね。

この網が付いている棒ね。これが手竹、手竹を固定している杭が足杭、手綱と反対にあるのが控縄、これは控杭で固定します」

と実演しながら説明が行われる。


「これが張り網の一種、谷切網やつきりあみね。滑車を使ってカモとかが飛んできた時に紐を引っ張って展開します。

そして、大勢でスズメを取ったりするのが袋網。田んぼを勢子が取り囲んで網に追い込み、一網打尽にします。

そして、これが虫取り網・・じゃなくて突き網ね。刈り取りが終わった田んぼを歩いて、隠れているタシギを捕まえる奴です。

よく似てるけど、こっちがなげ網。これはカモとかは谷越えするときに必ず通る道等があるのですが、そこに隠れて飛んできた所に投げて捕まえます。

突き網との区別は全体に枠が付いているか上が紐かの違い、本物だと突き網の方が二回りほど大きいです。

そして、最後はカスミ網、これは禁止猟具なのであえて説明しませんが、本物は持っているだけで違反です。」


「試験ではね、使って良い道具の名前と”ヨシ”と付けて”谷切網ヨシ”と言う感じで4つ。あとカスミ網はダメなので指さしして”ダメ”と応えてください。

次に網の説明と設置を実際にやるまでが試験となります。では各自網を自由に触ってみてください。何か質問があれば何時でもどうぞ」


・・・

「はい、ではそこの男の子、前に出て試験だと思ってやってみてください。」


見回すと男の子と呼べる若手は自分しか居ない事に気が付いた八尾が前に出る。


「これが無双網の片無双網 ヨシ。これは張り網の谷切網 ヨシ。これが突き網 ヨシ。これがなげ網 ヨシ。これはダメ。

片無双網の設置をします。手竹を足杭に固定します。そして控杭に控綱を固定します。鳥が集まったら手綱を引いて捕獲します。」


「はい、良いですね。今のをお手本として行えば100点です。では次の方どうぞ。」


順に教官の前で模擬試験が行われていく。数名が終わった所で扉が開き、八尾達は弓の講習に呼ばれた。


・・・


「お、来たな。じゃ全員集まったから始めっとすっか。

この中で弓を射った事がねぇ奴は居るか? 居ねぇよな?

じゃざっくり10分で終わらすからよ、良く聞いてくんな。

試験じゃな矢尻が付いてない弓を引いてゆっくり戻す所までだ。実射じゃねぇからな矢尻付けた弓を番えたら即失格だからな。気ぃつけな。

おうっ、そこの嬢ちゃん、なんだ?嬢ちゃん見学じゃなくて受けんのか?じゃやってみ?そこに試験用の弓と矢が置いてんだろ?

まず弓を取ってだな、確認だ。どうよ?」


「ええと、これデスか? はず・・・ヨシ、握り・・ヨシ、弦・・ヨシ、弓ヨシ」


「おぅ、良いじゃねぇか。じゃ矢も取って構えまでな」


「ハイ。 はずヨシ、矢羽ヨシ、矢竹ヨシ、矢尻無し・・ヨシ 構えマス」


べるでは矢を番える。


「上出来だ。姿勢も良い。おぃ野郎ども、この嬢ちゃんの感じだ。教本通りって事が判るか?背中の張りと腕の位置をよく見ておけ

腕が曲がってたら減点だからな。嬢ちゃん、矢をそーっと戻して終いだ。この調子なら試験で100点だぜ

おい、じゃ次の奴、やってみろ」


・・・


「ゴルノの方・・・・あ、まだ途中ですか?終わったら罠ですよ」


八尾が背筋が曲がってると叩かれている最中に次の呼び出しが来た。


「小僧、お前別な弓使ってねぇか?まぁどっちにしろ背筋は伸ばしておけ。今のだと姿勢で減点されて90点だ。じゃ次、そこのおっさん。」


急いで部屋を移動して罠の部屋に来た。


「待っとったぞぃ小僧。ほれ、さっき話とった熊殺しの小僧じゃ。」


一斉に注目された。先程の網と同じように小さい部屋には中央に罠が並べられて周りを受講生が囲んでいる。

その真正面にスタン爺さんの姿があった。


「なんだ?なんで爺さんがこんな所に居るんだ?手伝いか?」


「なに馬鹿な事を言っとるんじゃ。先生と呼ばんか先生とな ヒャッヒャッヒャ」


「なにっ?スタンのお爺ちゃん先生なのっ?そういえば昔、猟はしてたって言ってたっけっ」


「じゃ始めるぞぃ。まず罠の種類じゃな 使える罠はおおざっぱに分けると4種類じゃ、くくり罠、箱罠、箱落し、囲い罠じゃな。

ほれ、小僧、箱罠と囲い罠はどうやって区別する?」


「ええと、上の天井部分が無い物が囲い罠。あるのが箱罠」


「じゃ箱落しとオシの違いは如何じゃ?目の前にあるじゃろ、どっちがどっちじゃ?」


「途中に留めが有るのが箱落しだから、こっちが箱落し、こっちは無いから”オシ”」


「大体分かっとるようじゃな、他は如何じゃ?わからん奴は居るか?罠の試験は簡単じゃろ

じゃな、アン、前に出て一通りやってみとくれ」


「はいっ。これが箱罠ねっ。金属式両開き型箱罠 ヨシっ。これが箱落し ヨシッ。これがくくり罠の筒式イタチ捕獲罠 ヨシっ。そしてこれが囲い罠 ヨシッ。

で、これはトラバサミだから ダメっ。これはオシだから ダメ。これは・・・モチ罠? ダメっ。

じゃ箱罠を設置するわねっ。両側の蓋を開けて・・金具を固定して・・・トリガを掛けて・・・箱罠設置完了しましたっ。」


「よう勉強したようじゃな。100点じゃ この調子で試験も頑張るんじゃぞ。よし、次はべるでちゃんじゃな?」


べるでが掛け方の実習を終わらせた所でスタン爺さんが外に出る様に促した。


「ほれ、さっさと行かんかい。外で距離と実射じゃ。もたもたすんな。ヤオっ」


・・・

中庭に出ると何人かの係員が立っている。


「はいこっちです。」


さっきから案内をしている人が八尾達を見つけて声をかけて来た。

そのまま係員の所に連れていかれると距離の測定を始める。


「試験に出るのは10m、30m、300mです。距離で場所を聞くか、場所で距離を聞くかのどちらかです。

まず10mですが、ここから向こうの建物の壁までが丁度10mですね。距離感を掴んでください。

そして30m向こうの家まで、あれが丁度30mです。

そして、向こうに一本だけ見えているあの木。あそこまでが300mですね。

では、質問です。10mの距離はどの辺りでしょうか?」


「向こうの壁が10mデス」


「良いですね。では向こうの家までは何メートルでしょうか?」


「向こうの家は30mねっ」


「良いですね。じゃ最後、300mは?」


「向こうに見えている木までです。」


「はい、この距離をよく覚えておいてください。以上で距離の測定は完了です。

次は実射ですね。あそこに並んでますからその後ろに並んでください。」


・・・

「距離の測定ってば、あんなので良いのっ?」


アンは並びながら拍子抜けしたような感じで喋りだした。


「良いんじゃないかなぁ・・実際は森や川だと全然距離が掴めないでしょ?実際は慣れるしか無いでしょ・・」


「タケルの測距計は楽よねっ・・ピってやれば距離が出るんだものっ」


「さぁ、今度は実射デスよ」


「ねぇっ?的って・・・あれ?なんか大きくない?それに距離も短いっ?」


「えぇ?10m位であんな大きいの?まさか中心に中て無いとダメとか?」


「あぁゴルノからの方、やっと見つけました。申し訳ありません。鉄砲希望ですよね。

場所はこちらではなく、シヤルスク東射撃場ですので案内させて頂きますね。」


・・・


「ねぇっ、弓であの的に当たれば合格なんでしょっ?じゃぁ別にわざわざ鉄砲撃たなくてもいいんじゃないのっ?」


「説明させて頂きますね。今年から第一種の備考欄に鉄砲を使用するって項目が出来たのですよ。

私が聞いた話ですと、暴発と誤射で何人か亡くなられたとか・・・それで主に安全取り扱いを目的として試験をすることになったのですよ。

まぁ試験の小冊子に書いてある通りなんですけどね。

なので、それに合わせて弓の試験も10メートルの距離に変わったのですよ。今年受ける人はラッキーですね。」


3人ともハンター読本は読んでいたものの、試験内容の小冊子はざっくりと眺めただけであった。


「ちょっとっ、べるで、あんたも小冊子読んでなかったのっ?」


「お、オネェサマこそ・・・まさか・・・たけるサンまで?」


「い、いや、ほらさ、なぁ・・・小冊子はなぁ・・・」


「皆さん小冊子は見落とすんですよね。不思議と・・・」


アハハハハと乾いた笑い声を響かせながら一行はシヤルスク東射撃場にやってきた。

もう既に15人ほど種子島を磨いて待っている人達が居た。


「はい、じゃぁ揃いましたんで、始めますけどいいですかぁ?

この講習会では最後に考査を行います。落ち着いてやれば大丈夫ですから、しっかり安全の取扱いをお願いしますね。」


「先生っ、質問っ、考査って何っ?」


「はい、この講習の最後に、実際に射撃を行ってもらいまして、その射撃で安全に銃が取り扱えているかを見るんですよ。

そして、充分安全に取り扱えていると判りましたら、本試験での実射テストをパスすることが出来ます。」


一斉におぉ!と声が上がる。あちこちで楽勝だぜ、との声も聞こえる。


「では、最初の5名の方、前に出てください。」


そして実射の講習が始まったのである。

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