第104話 ハンター試験講習会

「はいっ、ゴルノ村の方ですね。3番の組になりますので、中に入ってお待ちください。」


今日は講習会だ。

八尾達は朝から北町にある洋風な割と立派な建物に行って受付を済ませた。


「ねぇねぇっ、結構年齢層高くないっ?」


見た所、子育てが終わった世代だろうか?50代、60代の人が6割位居る。

そして残り3割が若手であった。ほぼ男性で女性はちらほらと混ざる程度しか居ないようだ。

まして若い娘ともなると・・・


「おぅ、嬢ちゃん、幾つだい? え?17?と15? うちの孫より下かぁ

なんでまた試験受けるんだい? ほぉ~ 村の畑が荒らされるから?

大したもんだなぁ 立派立派っ」


べるでとアンはいつの間にか講習を受けに来た年寄り衆に捕まっていた。


「おじいちゃんは何でハンター試験受けるのっ?」


「わしかい?孫がなぁ、南にあるウスチ村に嫁いどってな、最近イノシシが出るんじゃと。そんじゃからわしがとっつ構えてやろうとな」


「へぇ~凄いのねっ」


「儂もじゃ」「ワシもっ」


近くの人たちも挙って話しかけてくる。


「わしはなぁ昔、ハンターやっとったんじゃ、子育てが忙しくて免許更新忘れておってな、それでこの歳で取り直しじゃよ。

昔はなぁ・・・」


と、老人が昔話を語りだすと周りは耳を傾けだした。アンも熱心にそれを聞いている。


・・・


いい加減八尾が待ち疲れた所に講師陣が入って来た。


「それじゃ講習を始めます。午前中は座学、午後は実技の講習を行います。先ずは学科の先生から。では先生、どうぞ」


「え~初めまして。学科の講習を担当します猪狩いのかりと申します。

え~昨今、周辺の村に際しましては鳥獣による農作物の被害だけに及ばず人的被害まで多発している状況にあります。

本日、ハンター試験の予備講習を受けられる方々に置かれましては、鳥獣の捕獲者と言うだけでなく、森の番人、鳥獣の番人としてご活躍頂けることを心よりお祈り申し上げる次第であります。

そもそも、ハンターの資格は経験の浅い狩猟者が大型獣による反撃や誤射による人的被害を少なくする目的で設立されています。

そして、昨今の大型獣による人的被害等においては、狩猟者の義務として周辺村々への有害獣駆としてベテランハンターの派遣等の活動も行っております。

何卒ご理解の上、ハンターギルドへのご加入をお願いする次第であります。

・・・

では配布されています小冊子の2ページを開いてください。」


まるでお経のような朗読が始まった。

時折、何ページから何ページは大切ですからよく覚えておいてください。と言われるが、ほぼほぼ全部のページだ。

質問でどの辺りが試験に出ますか?と言うのが出たが、試験問題は講師に公開されてないからわからない、小冊子は全部重要だ、私の頃は弓を買ってきて登録すればよかったから試験受けたこと無いし判らない とか言われていた。

結局は自分で読んで覚えるしかないみたいだ。


「では、試験までに小冊子の後ろにある例題を良く解いて勉強してください。これで午前の座学を終了します。」


「先生、ありがとうございました。 では、午後一から実技の講習を行いますので、またこの部屋にお集まりください。」


と座学の講習が終わった。正直眠い。


・・・


「ふあぁぁぁっ、さぁっ昼ごはん何食べるっ?」


アンはあくびと伸びをしながら言う。

食事と言っても周りの店はどうやら休みの店が多く、開いている店の前には待っている人達も居る。

講習会の人目当てで幾つか屋台が出ているので、どこかで買って外で食べるつもりだ。


「色々出てるわねっ。適当に買って分けっこして食べるっ?」

「いいデスわね、オネェサマ」


わらわらと屋台に散った。

屋台の種類は結構多く、焼きうどん、蒸かし芋から肉まん、ピロシキまで色々だ。


なんかアンが色々と沢山買ってきた。べるでも肉まんとピロシキを抱えて・・・

抱えて?え?周りの人が油っこい物を避けてて売れないからおまけしてもらったの?

何人前あるんだ?あぁストレージに入れて後で食べるのね。


・・・


わいわいと昼飯を済ませて会場に戻ると昼からは実技の講習だ。

幾つかの班に分かれて実習を開始する。


「はい、では此方の組は鉄砲の取り扱いから始めます。まず先生から説明をして頂きます。」


「え~銃器の取り扱いを説明します。まず、銃は火薬と弾が入っていたら何時弾が出るか判らないものと考えてください。

逆を言いますと、火薬と弾が入って無かったら只の鉄棒です。この状態なら安心安全ですね。

銃を手に取ったらまず、弾が入って無いか、銃口を空に向けて口金から空の明かりが通るか見てください。

そして、これ重要な事ですが、大きな声で、”脱包ヨシ”と言ってください。 試験官に聞こえないと減点されますのでご注意下さい。

そして、銃は中で火薬を爆発させる道具ですので、銃自体に問題があると自信が大けがをすることがあります。

このように銃身を手で叩き、目でみて膨らみやヒビが無い事を確認し、”銃身ヨシ”とこれも大きな声で言ってください。

次に銃床も手で叩き、ガタやグラつきが無いか確認し、”銃床ヨシ”、引き金を引いて”引き金ヨシ”とこれも大きな声で言ってください。

これも大事な事ですが、銃口は決して人に向けないでください。減点対象となります。これは弾が入ってようが入って無かろうが減点になります。

では、順番に手に取って実施してみてください。」


「せんせーっ、銃口の中の明かりが見えないわっ」


「あ~、大丈夫、弾は入って無いから軽く見て”脱包ヨシ”と言ってください。」


「なんか大丈夫なのかしらっ?、まぁ良いわっ ええと、見て・・・脱包ヨシっ

銃身はサビが・・ ええと叩いて・・銃身ヨシっ 銃床ヨシっ 引き金・・・ヨシっ」


「ん~、おねぇちゃん声が大きくていいねぇ その調子だ」


「え~皆さん終わりましたか?では次に弾の込め方です。実際には弾を入れたりしませんので、形だけになります

まず、先程行った銃器の確認。これは必ず毎回行います。実際に銃で猟をされる方もこれは日ごろからの癖にしてください。

火薬の入れ方は作法が幾つかありますが、基本は銃に合った量りで火薬をこぼさないように銃口から注ぎます。

そして、パッチと共に弾を押し込んでカルカで突きます。そして口薬を入れれば完了です。

これも先程のように声を出して”~~ヨシ”と大きな声で言ってください。

注意事項として、引き金には指を触れないでください。用心鉄ようじんがねの中に指が入っただけで減点です。

では先程の順に実施してください。」


「脱包ヨシっ、銃身ヨシっ・・・・・引き金ヨシっ

ええと、火薬を・・・このちっちゃい柄杓ねっ、入れ・・ましたっ。 ”火薬装填ヨシ”

でパッチと弾をカルカで入れてっ・・・”弾頭装填ヨシっ”

口金開けて・・・ ”装填完了ヨシっ”」


「う~ん良いですね、皆さんも声をこれぐらいハッキリと大きな声で言って下さいね」


「はい。では次は銃の構え方です。銃床を肩にしっかり付けてください。隙間が空いていると痛いですから。

そして頬をしっかりと銃床に付けてください。これも離れていると叩かれて痛いです。

撃鉄を起こして口金を開けた状態。ここまでが構えとなります。

係員より”構えてください”と合図されますので、この構えを取って下さい。

この時は未だ、絶対に用心鉄の中に指を入れないでください。例年これで落ちる方が数名いらっしゃいます。

次に係員より”撃って下さい”と言われますので用心鉄に指をいれて引き金を引いてください。

はい、ではまた先程の順ですね。」


「脱包ヨシっ・・・・・引き金ヨシっ

構えて・・・と・・・・

・・・・

ま・・未だかしら?結構重いわよねっ・・・

カチッ・・・ふぅ」


「力のない方や女性の方は構えるのを遅らせた方が良いかも知れませんね。ゆっくりで構いませんよ。」


「次は団体行動です。隣の部屋になりますので、呼ばれるまで外で待ってください。」


と部屋を出ると入れ替わりに次の組が入って行った。


・・・


「はい。次の組、どうぞお入りください。」


ゾロゾロと部屋に入る。部屋の中には木で作られた模造銃と思われるものが数本並んでいた。


「え~では、団体行動の説明をします。最初の3人で説明を一緒に行いますから前に出てください。

先ずは基本的な銃の保持です。銃口が人に向かないように注意してください。

右手で抱える様にして銃口は前に向けてください。そして左手で銃の中ほどを保持します。

はい、出来ましたね。では次に横向きに保持する場合です。」

・・・


「では、一通り説明が終わりましたので、最初の3人、やってみてください。」


「隊列を作って下さい。」


八尾、アン、べるでと3人が模造銃を取って「脱包ヨシ」と言ってから銃口が人を向かないよに持って一列に並ぶ。


「行進してください。」

部屋の端から端へと歩く。


「回れ右」

銃を縦に持って回転する。そして銃の持ち方を変えて銃口がお互いに向き合わないようにする。


「行進してください。」

また部屋の端に戻る。


「休憩してください。」

手に持った銃を確認して「脱包ヨシ」と言ってから銃を横に置く。


「休憩終わり」

銃を手に取って確認し「脱包ヨシ」と再び並ぶ。


「川を渡って下さい。」

アンが銃を確認して「脱包ヨシ」と言ってから置く。

八尾が銃を確認「脱包ヨシ」と言ってから「お願いします」と言って銃をアンに渡す。

銃を受け取ったアンが「ヨシ」と言ってから八尾は手を放す。そして川を渡る。

振り返ってアンから銃を渡される。八尾は手にしてから「ヨシ」と声を掛けるとアンが手を放す。

八尾は自分の銃を下に置くとアンの銃を「ヨシ」と声をかけて受け取る。

そして下に置いた後、自分の銃を手にする。

順に渡して完了だ。


「では銃を元に戻してください。」

「脱包ヨシ」と言って銃を机に戻した。


「はい。大変結構です。残りの皆さんも同じようにハッキリと確認の声を上げてください。では次の人どうぞ」


・・・・

「結構大変ねっ。この辺り講習会を受けなきゃ読本だけじゃ判らないわよっ」

「全くだね。受講して良かったよ」


「あ、ゴルノ村の人ですよね。先に隣で網の講習を行いますのでそちらに急いでください。」


一息つくことも出来ずに網の講習に向かった。

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