第99話 門の前のキャンプ

「これはっ?」


アンがハンター読本から絵が掛かれたページを開く。


「ダメっ」


「これはっ?」


「日本鹿 よし」


「ダメよっタケルっ。これは真鹿 ニホンジカなんて居ないわよっ」


「マジかっ! 微妙に名前が違うのよして欲しいな」


真面目に勉強する気になった八尾に付き合って鳥獣判断の問題を出していた。


「じゃぁっ、次は免許の欠格事項を6つ挙げてっ」


「ええと、ハンター試験の日に15歳・・だっけ? に満たない者、

精神障害、統合失調症、ソウウツ症、てんかんから軽微なものを除いた者、

麻薬の中毒者、

モラルの低い人、

違反して免許取り上げられてから3年たってない人、

免許を取り消されてから3年たってない人・・・

だっけ?」


「まぁ大体良いわねっ あっち元の世界と紛らわしい問題には気をつけてねっ」


「オネェサマっ、オスイタチとメスイタチの区別が付けられまセン」


べるでは物凄く困った調子で聞いた。


「それはねっ、絵に描かれているサイズで判断するのよっ」


「絵? 描かれた大きさデスか?」


「そうよっ、この絵の通り、大きく描かれた方がオスイタチよっ」


「では、このヤマシギとタシギの区別も?デスか?」


「ヤマシギは目の位置が可愛いでしょっ、でも判断するなら稲の刈り取った絵が付いている方がタシギで

藪が掛かれているのがヤマシギよっ」


釈然としないべるでである。


3日目は本を読みながら歩いていた八尾がつまずいてコケたり、

川を渡るときにうわの空でコケてずぶ濡れになったり、

本を読んでいた八尾が木道の段差につまずいて落ちたり・・・

と散々であった。


なんとか日暮れ頃に到着したが、既に門は閉ざされている。

再び軒先に場所を確保して夜営に備えた。


「ほぇ~、壁がこんなに続いているんだか?これならばイノシシさ畑荒らしに来んべなぁ」


ミラは初めて見る町の外周に驚いていた。

そして暫くすると小さい荷馬車が回ってきて食事が配られていく。


「お待たせしました~、お食事ですよ~ パンとスープをお持ちしました~

あら?スタンじいさんじゃ、って事は、アン?」


「バレッターっ、久しぶりっ、元気してたっ?」


今日の配給当番にバレッタの姿があった。

二人とも抱き合って飛び上がり、再会を喜んでいた。


「じゃ後でお湯を取りに来てねー」


バレッタはパンとスープを配り終わると次へと回っていった。


「スタンじっちゃ、この食事って?」


「おぉお前さんはここに来るの初めてじゃったか?

夜は門が閉ざされるからの、それにココは火が使えん、それで炊き出しが出るんじゃ

大して旨くは無いがな、お得じゃろ ヒャッヒャッヒャッ

さ、熱いうちに喰ってしまえ」


八尾達は固いパンをスープに浸して食べる。

ミラもそれを真似て食べ始めた。


「じっちゃ、うめぇでねぇか」


「おぉ、今日のスープは旨いな こりゃバレッタか」


「バレッタってさっきのねぇちゃだべか?」


「なんじゃミラは知らんかったか?ロハスんとこの嬢ちゃんじゃよ」


「へぇ~、ロハスさんとこのお嬢さんって、ねぇちゃんだったべか。

おらずーっと小さい子だとばかり思ってただよ」


ミラは昔話ばかり聞いていたのでもっと幼い子だとばかり思っていた。

いつか町に行ったら一緒に遊んであげようと思っていたのだが、まさか年上だとは・・・


「バレッタは門で働いてるのよっ、ご飯食べたらお湯を貰いに行くけど、ミラも一緒に行くっ?」


夕食後、アンとべるで、そしてミラは門の受付へと歩いて行った。


「爺さん、未だ呑むのか?呑みすぎじゃぁないか?」


スタン爺さんはちびちびと酒を呑んでいる。しかし何時もより酒の量が多いようだ。


「なに構わんさ。・・・小僧、それよりもミラは行き先を知っとるんか?」


「うすうすは解っているみたいだけど・・・」


「行くのは明後日じゃからな、明日はみんなで町でも見学するのが良いじゃろ」


と八尾にお金が入った袋を渡した。


「ワシは老い先短いからな、酒呑む金がのこりゃそれでいいわぃ。ミラになんか旨い物でも食わせてやってくれ。」


「爺さん・・・」


「その代わり、明後日、連れて行くのは任せたぞ。小僧」


「爺さん幾ら老い先が後僅かだからって、仕事は最後までやらなきゃダメじゃないの?

店まで送り届けるのが仕事でしょ?」


「ワシの仕事は町まで連れて来るところまでじゃ、門くぐったら終わりじゃ

明後日からは別な仕事がまっとるからな ヒャッヒャッヒャッ 頼んだぞ小僧」


なんか面倒くさい仕事を押し付けられた八尾であった。

八尾はスタン爺さんから酒を奪って飲み始める。


「面倒くさい事を押し付けやがって、このクソ爺」


「ヒャッヒャッヒャッ 若造に人生経験を積ませてやっとるんじゃ、何事も勉強じゃよ

ほれ、授業料でジャーキーでも出さんか、小僧 ヒャッヒャッヒャッ」


ふてくされながらジャーキーを出す八尾。


「ヒャッヒャッヒャッ 相変わらず人が良いな、もっと強かにならにゃ生き残れんぞ」


・・・


「ただいまっ、お茶淹れて来たわよっ・・・って酒くさっ あんたらまた呑んでんのっ

タケルはお酒呑んでる場合じゃ無いでしょっ、法規は覚えたのっ?」


なんかアンが怒っているような夢を見た・・・ような感じを受けながら八尾は寝てしまった。

爺さんもイビキをかいて寝ている。


二人に毛布を掛け、自分らも毛布にくるまると眠りについた。

ミラがイビキをかき始めるとアンはべるでに小声で言った。


「べるでっ、あんたアレに例題を文字としてピリッとやっちゃってっ、今なら大丈夫でしょっ」


「オネェサマ・・・オネェサマはやっぱりお優しいオネェサマデスね。

なるべく弱くやってみマス」


べるでは夜半までかかって例題集を八尾にピリピリとしていた。

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