第90話 弾頭の鋳造
家に戻って朝飯を食べながら、べるでに訊いた。
「火薬ってどれ位作れた?」
「そうデスねぇ・・・硝酸カリウムが思ったほど抽出できなかったので、ざっと40発分
既に少し使いまシタので、残りが30発分と言った所でショウか?」
「30発かぁ・・・実はさぁ、さっきの止め刺しで・・・」
八尾は与作の止め刺しの事を話した。
勿論、漏らしたことは内緒にしてやった。
「だから、15発分位は残してやらないと危ないかなぁ」
「タケルっ、火薬は町で買えるわよっ。それよりも弾頭がもう無いんじゃないっ?」
種ケ島の口径は銃によってマチマチの為、それぞれの銃に鋳型が付いていた。
弾の予備は少しだけあったものの、もう残りは少ない。
「ストレージに釣り用のオモリと鉛のインゴットもあったな・・・
じゃぁ後で弾を作ろうか」
午前中は畑仕事である。
多少出始めた雑草の芽を摘みつつ、アンは土鳩をやっつける。
べるでは畝に笹竹の枝を置いて鳩避けを作っていた。
畑の奥では八尾がクワを振るい、春蒔きの蕎麦を作ろうとしている。
作業が終わると昼の時間だ。
菜の花尽くしの昼をさっと食べると、八尾は鹿の解体の為、河原に降りて行った。
丁度与作が鹿を川から引き上げようとしている所だった。
八尾も引き上げを手伝う。
与作のトレーニングでもあるので、腹ヌキは与作が全て行った。
八尾は横で説明をして、与作が作業するのを見ている。
一頭抜き終わると、八尾はその皮を剥いでいった。
その間に与作は二頭目の腹を抜き、皮を剥ぐ。
そして、皮が剥けたら、頭、前足、後ろ足、骨盤と大バラシにして完了である。
背ロースやアバラは背骨に残したままとした。
それ以上細かくすると、持ち運びが大変なのである。
肉を竹籠に入れて背負う。
家に戻るとミラが来ていた。
「与作ぅ、鹿さ取れたんだってなぁ おめでとう」
「あぁ、ありがとう。 2頭も捕れただよ」
「タケルっ、ミラっちが鋳型持って来たんだけど、これで良いのよねっ?」
鋳型は二つ。両方とも丸玉用であった。
「多分大丈夫だと思うよ。で、うちのは?」
「持ったわっ」
アンも鋳造する気まんまんである。
2つが丸玉用、1つが
河原に降りると八尾は焚き火の準備をした。
何時もの焚き火だと火力が大きすぎるので、細目の薪を集める。
八尾と与作が薪を集めている間に、アンはストレージから100均の中華鍋とお玉を取り出した。
お玉はライスカレーのカレーを掬うような形のものだ。
そして、釣りのオモリと鉛のインゴットを取り出しておく。
八尾が焚き木に火を付けて、オモリを温めながら説明する。
「まず一番大事なのは、鉛の蒸気を吸い込まない事。必ず風上で作業しよう。
そして、熱いから取り扱いに注意して、火傷しない事。」
「型は温めないと、鉛が途中で固まるから、ある程度温めて置く事
あとは自分で色々やってコツを掴もう」
オモリはいつの間にかシワシワになり、銀色の液体が下に溜まりだす。
アンがお玉でシワシワのオモリをつつくと、表面の皮が剥がれて銀色に光った。
そして、見る間に溶けて行った。
八尾は弾を置くところを作る。
タオルを川につけて、絞らずに手元に広げる。
そして、溶けた鉛に鋳型を入れて温める。
最初、鋳型は鉛に包まれて飴のようになったが、溶けた鉛の中で揺すっていくうちに
再び鋳型が姿を現してきた。
鋳型を何回か開け閉めして正常に動作することを確認すると、きっちり閉じた状態にして
上から鉛を注ぐ。
数秒待つと上に溢れた鉛が固まりだす。
そして、タオルの上で鋳型を開く。
ポトッ
ジジジジジ・・・ジューーーーっ
濡れたタオルが弾頭で熱せられ湯気を出す。
鋳型が冷めないうちに次の鉛を注いでいく。
これを延々と繰り返す。
見よう見まねで、アンと与作も鋳造を始める。
タオルの上にはピカピカに光る弾が幾つも出来上がっていく。
「タケルっ、こっちの鋳型は如何するのっ?」
アンが釣鐘型の鋳型を取り出した。
「これは上の蓋を閉じておいて、鉛が固まったら蓋を叩いて鉛を切るんだ
後は他と同じだよ」
アンは釣鐘型を作り出した。
「中々難しいわねっ」
鉛を切るのが難しいのではなく、鋳型が複雑になると、
鋳型の温度を高く保ちつつ、使えそうな弾を作っていく。
途中でオモリを鍋に追加しつつ、純鉛のインゴットも入れてみたのだが、なんだか粘度が高くなったと言うか、
流動性が悪くなったと言うか、表面張力が上がったような感じになってしまい、湯が回らずに固まる事が多かった。
オモリは何か混ぜ物があるのだろうか?
固さはオモリもインゴットも変わりが無いっぽいんだけどな・・・
と色々と考えつつも、型1つにつき50個ぐらいは作れた。
鍋を火から下し、冷めた弾頭をそっと袋に入れていく。
周りにこぼれた鉛を回収して家に戻った。
そして、囲炉裏端で作業が続けられる。
釣鐘型は鋳型から出した状態で仕上がりだが、丸玉は湯口部分の鉛が尻尾となって残っている。
鋳造不良で表面に
そして尻尾を小刀で切り落としていく。
丸くなったら転がしてみる、不規則に動くのは中に空洞がある証拠だ。
これも取り除く。
そうして弾頭が仕上がった。
1つの型で使えそうなものは30個位になった。
与作が使う種ケ島の弾だけは多めに作ったので、倍ぐらいの量が出来ていた。
「タケルさん、こっちも鹿が干し終わりまシタ」
べるでとミラは鹿を薄切りにして、塩胡椒を振って干し肉を作っていた。
いつの間にか庭に物干し台のようなものが置かれ、細かく張られた糸に鹿肉が所狭しと干されていた。
「べるでもミラもお疲れさん。・・・あれ?アンはどこ行った?」
弾の仕上げを始めた時から居なかったので、てっきり干し肉作りを手伝っているかと思ってた。
「ただいまっ、アバラを配って来たわよっ、与作の事をみんな褒めてたわよっ」
息を切らしてアンがポチと共に帰って来た。
なぜか得意気なポチは、べるでに足を拭いてもらうと囲炉裏端に上がり、前足をトントンとして肉をねだり始めた。
八尾は苦笑しながらも、
「さぁ、じゃ与作の初仕事のお祝いで肉を焼こうか」
と囲炉裏に座った。
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