第86話 火薬も色々

数発撃った所で火薬と弾の残りが僅かになったので訓練を中止した。


「撃ち方も良いし、良い所に中ってるよ。後は本番の時に慌てない事かな」


「おら、もっと撃ってみたかっただぁ、楽しいだなこれ」


ミラは随分と気に入ったようである。

的撃ちと言うのは元来楽しいものである。


・・・


「ねぇタケルっ、この弾バラシて火薬使えないのっ?」


アンは散弾の実包を出した。


「火薬が強すぎるのと燃焼速度が合わないから止めておいた方がいいな。

多分、口金の所から割れて爆発すると思う。」


散弾に限らず、銃弾は同じ口径でも弾頭の重さによって燃焼速度の違う火薬を使ったりするのだ。

また、黒色火薬用の銃に散弾やライフル用の無煙火薬を使うと威力がありすぎて銃自体が破裂する。


「そうなの・・・じゃぁべるで待ちなのねっ」


「今しばらくお待ちくださいマセ・・・」


「じゃぁ罠を掛けに行くとするか」


八尾と与作は罠を仕掛ける為、山側の森に入って行った。


・・・

・・・


「そっちはどうだ? 掛けたか?」


「ヤオにぃーちゃ、もうちょっとだ。あと上から落ち葉を掛けるだけだー」


最初の一つは八尾が教えながら与作がセットした。

そして、その後、二人は手分けして数か所に罠を掛けた。

与作もかなり手際が良くなってきている。

鹿の通り道に罠を掛け終わると、二人は湧き水でスコップ等の泥を落とし、手を洗った。


「明日の朝さ楽しみだなぁ ヤオにぃーちゃ」


「掛ると良いな。 さぁ日が暮れる前にゴンさんの所に行こう」


・・・


「「こんばんわー」」


「おぅ、こんばんわ とうに出来とるでな まぁ上がってお茶でも飲んでけ」


二人は囲炉裏端に上がった。そしてお茶を啜る。


「ほれ、これじゃ、良い出来じゃろ」


ゴンは胸を張って槍を二人に見せる。

止め刺し用の槍として作ったので、長さは20センチ近い。

だが、刃は先端のみで後は鉄の棒となっている。

そして付け根は鉄を伸ばして輪にして、棒を刺せるようにしてある。


「カッコいいだなぁ」


「使こうたら、きっちり油引かねぇと錆びるだでな 

あと、コレは余った鋼で作った小刀じゃ、おめさならハンドルも鞘も作れるじゃろ

こっちは本研ぎもしてねぇだから頑張って仕上げさしろ」


包丁の根元を整形した小刀だ。ざっくりと刃先を斜めに落としてあるが、研ぎなおしは楽であろう。

ゴンはあまり木工はやらない主義である。金属加工命なのだ。


「おぉ、これもおらにか? ゴンさん、ヤオにぃーちゃ、ほんにありがとう」


八尾と与作はアンが昼間仕留めた鳩を二羽ほど羽を毟り下処理をしてお礼に渡した。


「なんじゃ?ヤオは呑んで行かんのか?」


「ごめんなさい、明日も早いので・・・」


「ゴンさん・・・家のとうちゃさ、多分もうすぐさ来るで・・・」


「おぅ、なんじゃ与作、来て居ったか、おぉヤオどんも、なんじゃゴン、今日は酒盛りさやるだか?」


与作の予想よりちょっと早く着いたヤハチが酒が入った徳利を持って入って来た。


「なんじゃぁ、二人とも帰えってしまうんか、仕方ねぇなぁ。

なぁゴン、ルイんとこ行くか?」


「おぉそうすべか。」


二人はあっさりとルイの家に向かった。

多分、明日の朝はミラも出てこないだろう。


「明日・・・取れるといいべなぁ、ヤオにぃーちゃ」


「そうだなぁ・・・さて、帰るか?」


二人は誰も居なくなったゴンの家を後にした。


日も暮れ始めたころ、八尾は家に着いた。

何やらきゃいきゃいと騒がしい。


「ただいまー」


「「「おかえりなさーい」」」


「あれ?ミラ・・とポチ?」


「ミラは酒盛り始まる前に逃げて来たってっ、今日は家にお泊りするってっ」


部屋には薄い和紙で作ったこよりが幾つかあった。


「火薬が完成したのよっ」


「未だ、完成じゃないデスよ。

お風呂の釜に煤が在りまシタので、余りでこんなものを作ってみまシタ」


と、べるでが、こよりに火を付ける。


シュウシュウと燃えるこよりは、真っ赤になり、次第に丸くなる。

そして爆ぜる。

パチパチと派手な火花をあげた後、だんだんと散漫に弱く、弱くなって行き、

最後はしだれ柳となり、消えていった。


線香花火であった。


情緒は良いのだが、いかんせんまだ春が始まったばかりだ。


「鉄砲に入れねぇと、こげな風に燃えるんだなぁ」


ミラは感慨深そうに言った。

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