第85話 火縄銃の膝射でクマっ

昼食を食べ終わり、3人はアンの家にあったフリントロック式銃を担いでルイの家に来た。


「「「こんにちは」」」


「おぉヤオどん、よう来てくれたなぁ。そろそろミラの話がしたいと思うちょった所でのぉ」


ルイは囲炉裏端で灰をかき混ぜながら上がるように促した。

八尾達は囲炉裏端に座ると、ルイに銃を見せた。

銃を見ているルイの代わりに、べるでがお茶を淹れる。


「これは、アンの家に伝わる種ケ島銃なのですが、これでハンター試験を受けようかと考えています。」


「ほぉ、こればアンの家に在ったと?」


「えぇっ、お爺様が昔、もし必要になる時が来たら・・と隠されていたようです。」


「多分、ルイさんの所にも有るんじゃないかと思いまして」


「いやいや、ヤオどん、そげな物さば、この家にゃねぇだよ。うちの爺様もなんも言うてのうしなぁ」


「そうですかぁ・・」


と八尾が半ば諦めたような顔をしたときに、ミラが帰って来た。


「たっだいまー、今帰っただよー、昼飯さ喰うだーっ

ありゃ、ヤオにぃちゃ、なんで家さ居るだ?」


午前中の約束をすっかり忘れているミラであった。


「行くって見回りの後に言ったじゃないかぁ」


「あぁ、そうだった。お茶だ、今、お茶淹れるだね」


お茶なら既にべるでが淹れてしまっている。


「あれぇ?おど、そりゃ種ケ島じゃねぇか、おどもあのカラクリの事、じさまから聞いとったのか?」


「カラクリ?」


思わず八尾が訊く。


「そじゃ、箪笥のカラクリを動かすと種ケ島が出てくるって昔じさまが言うとったで」


「ミラぁ、じさま・・と言うと曾爺様の事け?」


「そんだ、おどの爺様じゃ、じっちゃのおどじゃ」


「ミラぁ、おめ良くそげな昔の事ば覚えちょるなぁ」


「で、ミラ、それは箪笥のカラクリなんだな。 ルイさんちょっと失礼」


八尾とアンは箪笥の取っ手を動かした。

アンの家と作りは同じであった。


ギギッっと音と共に天板が動く。

八尾は急いで天板の上の飾り物を下す。


天板を上に持ちあがると2丁の火縄銃が出てきた。

此方も飾りが無い実用品である。

火薬やパーツも一式そろっていた。


「やっぱりありまシタね。オネェサマ」


べるでがほほ笑む。


「おぉ、だばこれさ売りに出して借金さ返せるだなぁ いかったなぁ」


「おど、ダメだぁ、じさまはぜってぇ手放しちゃならんと言うとったで」


「じゃがのう・・・」


このタイミングだと、八尾が本題に入る。


「ルイさん、これ一丁与作に貸してもらえませんか?

与作は駆除隊員です。2年あれば借金は十分返せると思います。」


「おぉ・・・じゃが、手放すなっちゅう事じゃからのう・・・」


「おど、与作なら問題無いべ、駆除隊だし、それに・・・それに駆除隊だでなぁ」


「そげな事なら貸す言うのんは吝かでねぇだがなぁ

だば、与作に使えるもんだかなぁ・・・」


「大丈夫よっ、タケルも居るしっ、これがあれば熊が来ても大丈夫よっ」


「おらも・・・おらもやるだ。な、おど、これで安心さできるべ?」


一番不安なのがミラなのだが・・・

ルイは勢いに飲まれてしまった・・・

・・・ルイの後でべるでがピリっとサポートをしていたのは誰も気が付かなかった。


「じゃぁ、これから射撃練習をしましょっ」


「アンねぇちゃ・・・昼さ喰うてからで良いだか?」


アンは苦笑して言葉を続ける。


「じゃぁ、昼ごはんの後で家によってねっ、与作もよっ、ちゃんと連れてきてねっ」


・・・

・・・

・・・


集まった後、一旦銃をべるでがスキャンして問題無い事を確認すると、一同は河原に移動した。

べるでは後で行くと言って、何か作業を始めていた。


八尾は注意点から説明する。

火薬の量、弾の有無、不発の時の取り扱い、最後に弾の込め方等々、基本的ではあるが重要な事である。


前装銃・・・弾と火薬を前から詰める方式の銃は、引き金を引いてから火皿の火薬が燃え、

銃身内の火薬を燃やして弾が発射される。

火皿で燃えた火薬や銃身内の火薬が燃えた燃焼ガスは一部火皿の上に吹き出ることになる。

その間、狙いを動かしてはいけないのだ。


一通りの説明が済むと八尾は水面に出た石を指さして言った。

岩までは約25メートル位である。


「先ずは一発、水面を撃ってみよう」


八尾はミラと与作が弾を込め準備する様子をじっくりと監督していた。


二人は銃口から火薬を入れ、弾を入れ、カルカで突いた。

そして口金に口薬を盛ると蓋を閉じた。


「待って下サーイ」


べるでは斜面の上から手を振って降りてきた。

そして、ミラとアンに小さい布を渡した。


「撃つ時はこれを被って下サイ そうしないと、髪の毛が燃える可能性がありマス」


べるでが用意していた物は、デニムっぽい生地で作られた航空帽のような形の頭巾であった。


「おぉっ、航空帽みたいな頭巾か、カッコいいなぁ」


「頭巾言わないで下サイっ」


怒られてしまった・・・


「じゃぁミラはその帽子を被って、良い? じゃアン、火縄を・・」


アンはさっきから点火した火縄をクルクルと回して火を保っていた。

それを渡すと、与作もミラも緊張しつつ撃鉄に挟み込んだ。


「いいか?じゃあ川の真ん中に小岩が顔を出しているだろう?

それを狙って順番に撃つぞ。 先ずは与作から 何時でも良いぞ」


与作は照星と照門を岩に合わせた。そして火蓋を開ける。

右ひざを地面につけ、左ひじを左ひざに乗せて構えている。

構えだけは一丁前である。


カチン

シュバッッ

ズドーン


弾は岩をかすめて、後の水面に水柱が上がった。

水面に出ている岩は10センチ位のサイズである。


「うん、まぁまぁ良いんじゃないかな じゃ次はミラだ」


ミラは与作の手元に上がった盛大な火花を見てびっくりしていた。

・・・おら、撃てるだか?


おどおどしながら水面に出ている岩を狙うミラ。


「・・・ミラ、火蓋開けないと・・・」


八尾は落ち着いた口調でゆっくり諭す、弾が入っている時に慌てさせたり驚かせたりしてはいけない。


「そだ、火蓋開けねばっ」


とミラは慌てて火蓋を開けた。


与作と同じような体制をとり、岩を狙う。


・・・クマだ


後で見ていた全員が思った。

だが、ミラは射撃体勢だ、声を掛けるのも厳禁だ。


カチン

シュバッッ

ズドーン


チュイーン と言う音と共に岩に煙が上がった。


弾は岩に当たって跳弾したのだ。


「おぉ、ミラ、凄いな一発だ。」


そのままエヘヘと照れながら振り向くと、みなミラから視線をずらしている。


「?」


ミラは訳が判らなかった。


「ミラっ・・・パンツ見えてるわよっ」


ミラは赤くなって立ち上がると、枯草に引っかかったスカートを直してクマさんパンツを隠した。



「射撃の時はズボンを履いた方が良いなぁ・・・」


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