第79話 町の報告会

「「「こんばんわ」」」

「「ただいまー」」


「おぉヤオ殿、お疲れさんじゃったのぅ、まま、さ、あごうてけれ」


八尾達が囲炉裏端に付くと、与作が熊について話し出した。


「ヤオにぃーちゃ、おらたち釣りさしてる時だよ、昼飯さ喰って、もうちっと釣ろうって思おた時によ

熊が下流からのっしのっし来ただよ。熊ば、おらたちを見て近づいて来たんで、鉈さ出して睨んだけんど、

留まりもせんでこっちさ来るで、もうおら喰われると思っただよ。

して、ミラもこっちば来ったら、熊がなんでか、ビクっとしてよぉ、ほいでもって、逃げてっただよ」


「へぇ、そりゃ怖い思いしたねぇ」


「もう足さガクガクして、ここ来んのに何回もコケただよ・・・」


「熊はどんなのだったのっ?」


アンが訊く。


「熊はデカくて、四つ足の時に頭がおらの胸位だった、そっでもって片目だっただ。」


「片目ってどっち?」


「向かって右目が無かっただ」


「上出来だ与作、そこまで見て覚えていれば大したもんだ」


八尾は与作を褒めた。

サイズや特徴を緊張の中で把握するのは意外と難しいのだ。

与作はへへっと得意気な、また嬉しそうな顔になった。


「きっと・・・俺たちが行き道で会った奴と同じだな」


「そうねっ、そうそう片目の熊なんて見ないしねっ」


「オネェサマ、熊自体そうそうみまセンが・・・」


「なに?、ヤオどんも熊に会うただか?」


ヤハチが驚いて目をまんまるにして言う。


「えぇ、行き道の夜に出て、森の端まであとを付けてきたみたいでした。」


「行き道でかぁ、そら怖い思いしただなぁ」


ヤハチは目をつぶって、ダルと二人で行った町への道を思う。


「べるでが弓だしたら逃げたのよねっ」


「多分、猟師に追われた事があるんじゃないかって話をしてたんですよ」


「こちらに向かう時に野営地で弓もどきを商売にされている方もいらしましたデスよ」


「ほぉ、弓もどきとは考えたもんじゃのう それば昼の見張りに持せば安心かのう」


ルイは顎に手をやり考えつつ言う。


「ヤオ殿も柵を見たろ?あれば縄つけて鳴子を取り付けるんじゃよ、

熊さ来て柵ば壊されても、熊が来たことが判るでな。

明日それさ付ければ柵の作業は終いじゃ。さすれば皆安心して畑が耕せるっちゅう寸法じゃ」


そしてルイはずずっとお茶を飲む。


「だば、弓さ持ってれば熊は逃げるだべか?なぁ与作ぅ、また釣りば行けるだなぁ」


「そだな、行けると良いべなぁ」


「どこまで熊が逃げるか判らないんだよな、でもお守り替わりって事なら・・・」


と八尾はいったん外に出てた、そして、弓もどきをストレージから取り出すと、さも外に置いてあったようなふりをして家に持ち込む。


「これがべるでが作った弓もどき、行き道で野営地に着いたときに何人かにあげたんだよ、ミラは弓持ってないからこれをあげる」


「わぁ、ありがとう。・・これ、べるでねぇちゃが作っただか、凄いだなぁ・・」


「これ・・これ見て熊が逃げるだか?

・・・ひょっとしてあの時、熊さ逃げたんば、ミラの釣竿のおかげか?」


「ん?与作? どういう事?」


「昼さ喰うた時、ミラが釣竿の尻に針ば刺して、竿を曲げとっただよ。

だもんで、それば弓に見えたんかもしれね」


与作はそう言って土間に降りて竿を持ってくる。


「ほら、これ見てけろ、この針さ竿尻につけて・・と、な?」


白い太目の糸が使われており、曲がった竿が弓に見えないでもない。


「ほぉ、なるほどのう。じゃばほんに運が良かったんじゃなぁ」


竿を見てルイが呟く。


「よしっ熊の話ばこれで終いじゃ、明日は鳴子さ取り付けるだ、ヤハチ。

ヤオ殿、皆に町の様子ば聞かせてくれるだか?」


それから八尾は町の様子や役場の話、与作が駆除隊員として登録された事、八尾は村から町までの周辺で駆除の許可が下りたこと等を語った。


「そうそうっ、これミラと与作にお土産よっ」


お土産はミラには流行りの服を、与作には長めの剣鉈だった


「うわぁ、かわいいだー、これホントにおらにか?ありがとうー

どだ?似合うだか?」


ミラは服を胸に当ててクルクルと回る、実に嬉しそうな顔をして回る。

ちょっと興奮して鼻の穴まで開いているが、誰も気にはしていない。


与作は剣鉈を鞘から取り出して、口を半開きにして眺めている。

刃渡りは9寸半、約29センチの長細い剣鉈である。

八尾は駆除の留め用として使えるように選んだ。

さほど高いものでもないので、高価な鋼はごく僅か、切っ先から半ばまで、

15センチ位までしか入っていないが、刃渡りが長いので獲物の止めを刺すにはちょうど良いのである。


「お、おら・・おら、うれしいだ。ヤオにぃーちゃ。

でも、こげに高いものをもろうても良いんじゃろうか?」


「大丈夫デスよ、駆除隊のお祝いも兼ねてるとタケルさんも言ってまシタし」


べるでは、すかさずフォローを入れる。


「そうよっ、その分駆除隊で頑張らなきゃねっ」


与作は鞘に剣鉈を仕舞うと改めてお礼を言った。


後のお土産は、村のみんなにお菓子や酒。


「なに?土産が酒じゃと?」


ヤハチはすっくと立ちあがると扉を開け、暗がりの中に消えていった。


八尾は嫌な予感しかしなかった。

しかも確率は相当高そうである。


「おぉ、ヤオどん、元気で帰ぇって来ただか、何より何よりぃっ! ガハハハっ」


「ゴ、ゴンさん。ゴンさんもお元気そうで・・・」


顔を強張らせた笑顔で応える八尾。


遅れてヤハチが戻って来た。


「ゴン、おめさ、気と足が速すぎだで」


二人とも既に顔が赤い。

なんでも晩酌していたのを連れだす時に、残しておくと味が変わって勿体ないと

二人で飲み干してきたと言う。


「そんだば、ヤオ達の無事帰還を祝って、かんぺぃっ」


・・・

・・・

・・・


翌朝、八尾は川に足跡を見に行こうと思ってた。

だが、やっと起きられたのはもう日が暮れかけてからであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る