第77話 暁の3人

「出たっ」


八尾が指さした先には、貧相なオオカミが一頭。

それでも歯を剥き出しにして唸りを上げている。


もう既に全員ストレージから銃を出している。


一頭だけ?・・・変だ。

オオカミは群れを成す動物である。


アンはM9410のハンマーを起こして、辺りを伺う。


八尾は急いでストレージから12番の9粒と410番のスラッグを取り出し、箱から出す。

そして二人のポケットに詰められるだけ詰めていった。

べるではその弾を銃に込める。

八尾も870の下から弾を抜いて9粒に変えていく。


「囲まれたわっ。」


気の早い奴が小屋の壁をよじ登って入って来た。


パンっ


410スラッグが火を噴きつつ、控え目な音が轟く。


オオカミは、力が奪われたようにヘタっと土間に横たわった。

周りからカサカサ、パキッ、パキッと足音が聞こえ出す。


「ここじゃ不味い、篝火を背にしよう」


アンが焚き火に向かうと、左手を八尾、右手をべるでがカバーする。

そして、左側から向かってきた奴を一頭、八尾が撃つ。

撃った次の瞬間には空薬莢が宙を舞い、次の弾が装填されている。

歩きながらなので狙いは甘い、それでも9粒のうち、何発かは肺や腹に入った。

一度立ち上がったが、フラフラっとして倒れた。


八尾はすかさず、870の弾倉に弾を追加した。

それをみて、アンも一発減った弾を補充した。


篝火を一つ蹴り倒す。

もう一つの篝火台の周りに、詰まれた薪が火の粉を上げて転がる。

少しは防壁になる。


八尾達を取り囲むように十数頭のオオカミが出てきた。

飛びかかろうとする奴から撃っていく。

が、取り囲んで回るように動いている為、なかなか中らない。

それでも、飛びかかろうとする瞬間は止まってこちらに向く。

狙い時はソコだ。


バンッ バンッ


一発中ってひるんだ所に留めを撃つ。

二発目は相手も止まっているので良く中る。

オオカミは声もたてずにひっくり返る。


数頭仕留めただろうか・・・

八尾は森の奥で木の影からこちらを伺う一頭の姿を見た。

目が・・片目であった。

木や草で隠れているのではない。

暗がりの中で篝火に照らされた目は一つだった。


バンッ


飛びかかって来た奴に一発お見舞いした後、八尾はスライドを引かなかった。

そして、870の下から指で弾倉の弾を押しながらスライドした。

空薬莢が排出される。だが、指で押されてラッチに掛った弾倉の弾は出てこない。

そこに一発のスラッグを入れた。


そして、膝をついて木の影を狙う。


バァン


9粒より大きい火が銃口より吹き出る。

強い反動で一瞬銃口が跳ね上がる。


ギャンっ


暗がりから叫び声のような断末魔が上がる。

その瞬間、周りを回っていたオオカミは、一頭、また一頭と後ずさりするように消えていった。


八尾は薬室に9粒が入っているのを確認して森の縁に行く。

奴は口から血泡を吐きながらまだこちらを睨んでいた。

スラッグは腹に入り、後ろ足を片方砕いていた。


八尾はその頭を狙って9粒を放った。


・・・・

・・・・

・・・・


森は静寂を取り戻した。


「夢・・・じゃありまセンよね・・・」


余りに激しいやり取りと、その後の静寂に頭が混乱する。

耳が激しい銃声と静かさに対応できず、キーンと耳鳴りがする。


八尾は暗がりの中のオオカミが息絶えているのを、長い枝でつつき、確認してから前足を持って引き釣り出した。


「こいつ・・・村に出る前、対岸に居たやつかな・・・」


対岸のオオカミに3号弾を掛けたことを思い出した。


「もう・・・出てこないかしらっ?」


「多分・・・ボスをやったと思うし」


べるでは未だ銃を持ったまま、少し青い顔をしている。

八尾は銃をべるでから取り、ストレージに仕舞った。

そして軽く抱きしめて


「もう大丈夫」


と声を掛けた。

アンは銃を仕舞うべきか、持ったままにするか悩んだ挙句、ストレージに仕舞う。


気が付くと細かい星が消え、山の稜線が見えるようになってきた。

もう少しで夜明けだ。


・・・

・・・


その頃、山の中腹でやり取りを見ていた黒い影があった。


やっべぇ、なんだアレ。

でけぇ音とオオカミどものやられっぷり。

びよーんってする奴よりよっぽどあぶねぇじゃねぇか

ありゃぁ要注意だな。

うん、要注意だ。


片目の熊はそのまま降りずに、中腹を歩いて消えていった。


・・・

・・・

八尾は森の中に穴を掘ってオオカミを埋めた。

埋め戻す頃には辺りがすっかりと明るくなり、日差しも射してきた。


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