第76話 アンとべるでの夜番

夕食が終わっても、小屋には誰も来なかった。


この山道は行商人に避けられているのだろうか?

ここまでの道ですれ違った人も居ない。


夜は3人である。

夜番も3交代としたかったが、今まで二人はまだ夜の番をしていない。

なので2交代として、前半をアンとべるで、後半を八尾が夜番をすることにした。


八尾は一人眠りについた。

歩き通しだった一日が、八尾を心地よい眠りに誘う。



アンとべるでは入口の前に積んだ薪に腰を掛け、肩から毛布を羽織った。

小屋の軒先であり、篝火の熱が届いているので凍える程では無いが、動かずにいると芯まで冷えてしまう。


二人は暫くの間、無言で過ごした。

篝火の薪が燃え崩れる音が時折聞こえる位で、辺りに動物の気配が無い。


「静か・・・静かすぎる気もするわねっ」


「そうデスねぇ、でも・・・いまの所はホントに気配が無いから大丈夫デスよ」


「そうねっ、タケルに交代するときに注意しておきましょっ」


・・・

・・・


遠くでオオカミが遠吠えをした。


「そういえば、ポチは元気かしらねっ」


「ポチなら大丈夫デスよ、村はそろそろ畑を耕し始める頃だと思いマス

帰ったら頑張りまショウ」


「そうねっ、べるで、あんたトウモロコシ植えるんだって?」


「はいっ、タケルさんも良いって言ってまシタので」


アンはちょっと考えた上で言いにくそうに言った。


「タケルさん・・・ねぇ・・・あんた町でタケルとなんかあった・・の?」


べるではあの夜の事を思い出して顔を赤らめる。


「な・・何も・・・や・・優しくシテもらっただけデスよ」


「あんた・・」


「オネェサマだって・・・」


べるでが言葉を遮って何か言いかけると、アンは両手の指でこめかみを押さえながら眉間に皺を寄せた。


「オクサマだから良いのよっ」


「私も・・デスっ」


突然アンの端末か点滅する

見ると ドーロ と表示されている


『着信』をスライドした瞬間、ドーロが頭から飛び出して来た。

アンは避けきれず、ドーロのオデコがぶつかった。


「痛たたたた、ちょっとドーロ、いきなり出てくるんじゃ無いわよっ」


「あたた、だって出口が狭くて」


「そんなに慌てて、一体何事デスか?」


「別にボクは慌ててる訳じゃ無いもん、ちょっと急いだだけだもん」


ドーロは膨れっ面だ。


「でっ?一体何の用なのよっ?」


「そうそう、お二人に朗報を持って来たんだった

なんと今ならなんと、検疫受けるだけで帰れるよ!」


「ソレの何処が朗報なんデスか?」


「つまり、検疫受けなきゃ帰らなくて済む訳ねっ」


「どーしてそーゆー事言うの、帰りたく無いの!?」


「ハウスっ」


アンが端末をドーロに叩きつけるようにして中に入れた。


暫くの間、端末まに着信が入り続けたが、アンが着信拒否を設定して、やっと静かさが戻った。


「成る程ねっ、確かにアレは煩いわっ」


「解って頂けた様で何よりデス。」


「まぁ今更検疫って言われてもねぇっ」


「全くデス」


「べるでっ、・・・やっぱりあんたも・・・

責任負うのはあたしだけで良かったのよ?」


「私は、自由意思で選択しまシタので」


アンに被るように手をかざして答えるべるで。


「タケルが一緒ならだから?退屈しなさそうだから?」


「責任と言われまシタが、当時のログで確認したらオネェサマも、好きでやってるようデスが?」


「あんた、なに抹消したはずのログを持ってんのよっ、今すぐ消しなさいっ、消しなさいよぉっ」


アンは真っ赤な顔で自分の端末からログを探そうとしていた。


「私以外の権限は消しまシタので・・・ご馳走様デス」


ベーっとべるでが舌を出した所に八尾が起きて来た。


「煩いなぁ、何をキャイキャイしてんのよ?」


目を擦りながら入り口まで来ると、篝火の先を指差しで言った。


「出たっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る