第75話 鴨ネギ

夜が明けて、朝飯を食べたら出発である。


八尾は、べるでとアンが朝食を作る間に、すぐ出発できるように片付けをする。

テントの中で毛布や枕等をテントの中で片付けた後、870を取り出し、弾倉にスラッグを詰める。

870を仕舞うと今度はウィンチェスターのM9410レバーアクションを取り出した。

これは前にアンが撃った奴だが、中にまだ弾倉が2発の仕様である。

八尾はネジを外して・・・制限を解除し、弾倉と薬室に合わせて5発のスラッグを詰め、

指でハンマーを押さえながら引き金を引き、静かにハンマーを落とし、こちらも仕舞う。

外に出ると、テントにしてあった布を畳み、竹籠に入れるように見せかけてストレージに仕舞った。


朝食はごはんと味噌汁、それと焼き魚。昨夜と同じメニューだ。


ご飯を食べ終わり、茶碗でお茶を飲むとそれらを濡れた布巾で拭き上げて仕舞う。

そして出発である。

荷馬車が先に出ると追い抜くのが大変なので、なるべく先に出たいのだ。


裸足になって川を渡る。

水量は来た時と変わらない。水の冷たさもさほど変わりは無い。足が痛いほど冷たかった。


対岸に渡り、靴を履く。

八尾は念の為、べるでが作った弓もどきの方を取り出し手に持つ。

つづら折りの坂道を登るとそこからは森に入る。


辺りに熊の痕跡が無いか、警戒しながら歩くが、初日とあって足取りは軽快だ。


「べるでも、銃を撃ってみない?」


と八尾が聞いてみる。


「私・・・ですか?」


「そう、例えばこれなんかどう?」


と取り出したのはブローニング社の自動銃だ。

26インチの銃身がついており、カモ用に購入したものだが、余り使ってないので

そろそろ手放そうかと思っていた物だ。


アンとべるでにイヤープラグ(耳栓)を渡して自分も耳に詰める。


そして、八尾は5号弾を一発薬室に込めて、べるでに渡した。

この世界に銃刀法と言う法律は無いのである。


そして、道から見下ろす川に、マガモが数羽浮いているのを指さした。


べるでは先日、アンが銃を撃つところを観察していた。

構え方は判る。


肩にしっかりと銃尾をつけ、頬を銃床に押し込む。

すると、リブ・・・散弾銃の銃身上にある平らな箇所の上に照星が浮かぶ。

照星と中間照星が僅かに重なり合った所を保持しながら、水面のカモに狙いを付ける。


パンっ


乾いた音が谷にこだまする。

カモのちょっと上の水面に弾が着弾して水しぶきが上がる。


カモは慌てふためいて飛んで行った。


「外してしまいまシタ・・・」


「残念、もうちょっとだけ深めに構えれば大丈夫だよ

で、今撃ったから機関部が開いてるでしょ、そこに弾を入れて横のボタンを押せば装填出来るから」


そして、説明は続く。

「薬室に弾が入ったら、下から弾倉に弾を追加するんだ。

逆に抜く時だけど、横のレバーを引くと弾が出てくるから、何回かレバーを動かして出しても良いし

先に下の装填口から弾を押さえているレバーを指で押して、弾を出しちゃっても楽だよ

一応、使わない時は必ず弾を抜いてね。」


「判り・・・まシタ」

べるでは、歩きながら先日の空薬莢を使って何回か練習をし、納得したようだ。


暫く歩くとまたカモが居た。

道が川にそって曲がっており、丁度淵になっている所に群れている。


べるでに5号弾を3発渡す。

そして、自分も870を取り出して下から指を入れて、少し弾倉の弾を押した状態でスライドする。

一発目のスラッグを取り出すと、代わりに3号弾を一発放り込んだ。


べるでは、今度こそ中てようと狙っている。


パンっ、パンっ ・・・・パンっ


水面でひっくり返るカモ。慌てて飛び上がろうとするカモが2羽止まった。

そして、飛び上がったカモを狙って撃ったが、そちらは外した。


カモは危険と思い飛び立ったが、どちらに逃げれば良いか判らない、

高度を取る為か、旋回して八尾の横に来た。


パンっ


八尾が先頭の一羽の頭目がけて撃った。スキートの4番射台と同じコースだ。

距離にして20mと言ったところか、ちょっと3号弾を使うには近すぎた。


カモは河原に落ちた。


急いで河原に降りる。

河原までは7、8mと言ったところだが、降りられるような場所が無い。

太目の木にロープを回して伝って降りる。

角度は60度位なので、何も無ければ降りるのは難しいが、垂直降下でもないので

ロープだけあれば降りられる。


八尾はするするっと降りて河原を歩く。


ちょうど川の流れに沿った風のおかげで、べるでが止めた2羽・・・いや、3羽いた。

それが、川岸まで流されてきた所だった。回収が楽なのは良い。さっと3羽回収出来た。

散弾銃の弾は粒々が広がって飛ぶので、近くに群れてると数羽纏まって取れる場合がある。


あとは八尾が落とした一羽だが・・・なかなか見つからない。

上の道にいる二人に向かって


「おーい、もう一羽どこかに落ちてない?」


聞くが上からでも見えないらしい。


多分この辺り、と探すと石の間にカモのクルンとした尾羽が見えた。


石の間に落ちると、なかなか見つけにくい。


4羽のカモをストレージに仕舞うと八尾はロープを伝って道に戻った。


「べるでも大丈夫そうねっ」


「中々難しいものデスね、散弾ならもっと楽に中るかと思ってまシタ」


八尾が河原でカモを探しているとき、アンとべるでも飛ばしてしまった空薬莢を探すのに苦労してたらしい。

なぜ、赤や青の色がついたものが見つけにくいのか不思議である。だが、本当に見つけにくいのだ。


途中、このような道草を喰っていたにも関わらず、日が落ちるころには中間の小屋までたどり着いた。


小屋には誰もいなかったが、篝火の台は片付けられておらず、外に設置されていた。


八尾は小屋に入る前に、篝火台に薪をくべて火を付けた。


辺りには、こぶし大のサイズの足跡が幾つもあった。


なんだろう?熊じゃないし、猪でも・・ないな・・

まぁこのサイズなら大したことないだろ。


小屋に入ると夕食の準備だ。


カモの腸は既に抜いてある。その辺は抜かりない。

アンと八尾は羽を毟って袋に詰めていく。

産毛だけになったら外の篝火にかざして、細かい毛のような羽を焼いていく。

焼くと散弾が当たった後が良く見えるようになるので、包丁の先を使って弾を取り除いていく。

身に入っている弾は多くて5,6発である。

そして、胸肉、ササミ、モモ肉、を外した後、レバーとハツ、砂肝も取り出して処理する。

2羽とも一口大に切っていく。

皮の下は真っ黄色の脂がこれでもか!と言うほど乗っている。

ご飯と味噌汁の用意が出来たので、小屋の中でLodgeのフライパンを囲んで夕飯にした。


ジュワー、パチパチっとカモの脂が跳ねる。

シヤルスクで買った長ネギも一緒に入れてあるので水分で跳ねる。


上から醤油を掛ける。

少ししか入れてないのにもうもうと湯気が上がる。


カモの脂の匂いと、醤油が焦げる匂い。これは間違いなく旨い。


噛みしめると捕れたてのカモ様はちょっと血の風味が強い。

ただ脂があるのでそれを打ち消して、旨みが口に広がる。

新鮮なカモ肉だけにある鮮烈さと、旨みが少ないものの、熟成された旨みと違う

なにかこう、満足感とも言えるような、後味に食べたと言う実感がある味わいである。


また、自分で捕って、自分で捌いた獲物と言うのは旨さや有難みが3倍増しなのである。


「美味しいデス」


べるでは噛みしめながらつぶやいた。


「この脂を吸ったネギも美味しいわねっ。良く捕ったわっ。べるでっ。」


はふはふとネギを食べながらアンも応える。


八尾は・・生煮えのネギを強く噛んでしまい、中心の熱いところが喉の奥に当たって悶えていた。

・・・二番煎じかっ

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