第74話 町とお別れ

八尾達はホテルをチェックアウトし大門をくぐると、『ら・えすぺらんさ』に向かう。


「「「おはようございます」」っ」


「おはようっ、こっちはもう用意出来てるわよ」


キャロはもう既に、台を綺麗に飾りつけ終わっていた。

POPに『ゴルノ村特産品』とあり、その脇に『あかぎれに効く』とか『火傷に良く効く』とか書いてある。

この町に薬事法と言う言葉は無い。


八尾は竹籠から400個の熊脂と100袋の鹿ジャーキを取り出す。

熊脂は小さめなハマグリの貝殻、鹿ジャーキは50グラム位を油紙の袋に入れてある。

あと鹿ジャーキは試食用に細かく切ったものを用意した。


「これ、ロハスが言ってた鹿ジャーキね。うん、これは風味が良いわね。

保存食と言うより嗜好品ね。 じゃぁこれは2銀・・・いや3銀で売りましょ

100袋なら一カ月も経たずに捌けると思うわ。」


熊脂20個と鹿ジャーキ10袋をとりあえず並べて、後は台の下に仕舞う。

あまり山盛りにすると安っぽく見えるらしい。

その脇に小さな竹製品が並べられている。ゴルノ村の特産を強調したブランド商法なのか?


「それでねあの後、ワラワラっとお客さんが来てねぇ、残らず売れちゃったのよ。

一つ2銀でも良かったかしらねぇ あはは」

キャロは笑いながら言う。


「ヤオ君来てるんだって?」


表からロハスが入って来た。


「やぁいらっしゃい。やっと抜け出してきたよ、ヤオ君たちは今日までだっけ?」


「えぇ、お世話になりました。昼前には出発しようと考えてます。」


「そうかぁ、名残惜しいなぁ」


「なに言ってるのよロハス、ねぇヤオ君、また来月の試験に来るんでしょ?」


「そうよっ、試験の時は講習が前の週だからもっと居られるわねっ」

アンはウキウキとしながら言う。


「そうそう、熊の毛皮だけど、7両位で買い手が付きそうなんだけどどう?

まぁこっちも商売なんで、手間賃3割頂くけど」


「おぉ、買い手付きそうですか。じゃぜひお願いします。」


八尾は毛皮を取り出す。


「じゃぁ物を見せてからだから・・・わぁこれ冬毛で物がいいなぁ」


「わぁホント、フワフワだわ」


キャロはうっとりした顔で触っている。


「ひょっとしたらもうちょっと吹っかけ・・いや、高値で売れるかもしれない

じゃぁ清算は次回来た時で」


「そうそう、先に熊脂の代金よね」


八尾はキャロから売れた熊脂の7割、2分金と1銀を受け取った。


店の前に出て、別れの挨拶を交わす。

と言ってもまたすぐ来るのだ、そこはあっさりと


「じゃまたね」


と手を振るだけであった。


数歩、歩き出したところでロハスが呼び止める。


「ヤオ君、出口の受付でバレッタに会って行って、もう一度会いたいって言ってたから」


「はーい判りましたっ」


と手を振って大門に向かった。


大門をくぐり、数件のお店でまた買い物をする。


そして、ブフェドコミダで昼食を取る。

食べながらアンは、


「おじさーん、追加で8つ、テイクトゥーゴー用意しておいてっ」


とオーダーした。


「だって、ストレージに入れておけば暖かいままじゃないっ」


だそうだ。ゴルノへ向かう昼飯は毎度、肉野菜パンで決定らしい。


そして、町の門で退出の書類に判を押してもらう。

書類を返してもらうときにアンは受付に訊く。


「ヤオですが、バレンティーナさんにお会いできますかっ?」


数分待つと奥から声が聞こえた。


「アンー、べるでー 」


バレッタがバタバタと走って来た。


暫く別れを惜しんだ後、出発だ。

端数になった鹿ジャーキを数袋、皆さんで・・と渡すと、他の受付の娘たちも門で見送ってくれた。


「熊に気を付けてねー」


「大丈夫、タケルがいるからぁー」


アンが応え、べるでも弓を振って見せる。


皆、見えなくなるまで手を振ってくれた。


どうしても別れの後と言うのはしんみりする。

3人は暫く無言で木道を歩いた。


のんびりと歩くが、それでもロバの荷馬車を気遣うよりよっぽど速い。

振り返るとシヤルスクの町は小さくなっていた。


「次来る時は試験デスね。」


「あぁ、それまでに畑を耕して、種蒔いて・・やること一杯だなぁ」


「タケルは買った芋とか植えるんでしょ?」


「育つと良いよね」


「私はトウモロコシを植えてみたいデス」


べるでは自分で育てたトウモロコシでトルティーヤを焼きたいらしい。

ポップコーンはそのまま蒔けば結構発芽するとの事だ・・・


村に付いたら遣りたい事をそれぞれ喋っているうちに、川のほとりの野営地に到着したのだった。

夕暮れまでまだ時間がある。

野営地の場所を確保し、流木集めをした。

あまり人目が無いのでそのままストレージに突っ込む。


そして、釣りだ。

3人でフライロッドを振ると15センチ位のウグイやオイカワがぽつぽつと釣れる。


夕方は綺麗な夕焼けになった。

釣りを止めて野営地に戻る。


そして焚き火を熾してご飯を炊き、魚を焼いていく。

なんか久しぶりのご飯だ。


ご飯を食べ終わる頃、一人の男がやって来た。


「あんた、明日森方面か? 

身の丈5メートルの人食い熊が出てるから注意しろって話だぜ、

弓っぽいものを持ってれば逃げるらしいんだが、用意してあるか?」


「えぇ、持ってマスよ」


べるでは弓を見せる。


「おぉ、こいつは本物じゃねぇか、じゃぁ安心だな

俺はこの弓に見える奴を売ってるんだ、一個一銀でな。

もし弓持ってないやつが居たら俺の所で売ってるから教えてやってくれ

じゃ、あぶねぇから気ぃつけて行きなよ。」


なんでも商売にする人はするのである。

べるでが来た時に渡した弓っぽいもので助かったと言う人が出たので結構売れたらしい。


そして、就寝である。

行きと違って荷馬車の屋根は無い。

竹を一本、土に刺して支柱にし、大きな帆布を被せ石で周りを押さえた。

簡易のテントである。

帆布はかさばるのだが、ありふれた素材で悪目立ちすることもない。

下にも小さめの帆布を敷き、毛布にくるまった。


今日はアンを中心に川の字で寝る。

宿の快適さに慣れた身に寒さが堪える。

明日は小屋に泊まれるはずなので、野宿は今日一日の辛抱である。


「じゃーん、べるで、これタケルからのプレゼントっ」


横になってから出したのは、アンのより一回り大きい端末だった。


べるでは目を輝かせて端末を触った。

新品でツルツルである。


「ありがとうございマス」

べるでは胸がいっぱいになり、それ以上何も言えない。


そして、ぎゅーっと抱き着いて来た。

真ん中にアンを挟んだまま。


アンもべるでを抱き返していた。


べるではよっぽどうれしかったのか、深夜まで端末を弄りまわしていた。

アンは間に挟まれて、べるでの影で寝ていたが、頭一つ出ている八尾にはちょっと眩しかった・・・

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