第70話 熊脂の容器を探す
翌日、午後からアンとべるでは買い物に行った。
八尾は二日酔いで動けなかった。
「オネェサマ、今日は何を買うのデスか?」
まだ、少し二日酔いが残っているのか?べるでは歩みが遅かった。
「なに?べるで、足痛めたの?今日は小さい容器を一杯かうのよっ」
「容器?デスか?」
「そうよっ、熊脂とか売るのよ」
二人は小間物屋を巡って小さい容器を探して回った。
・・・
・・・
「なかなか無いわねぇ あら?良い匂いっ」
屋台で海鮮焼きが売られている。
考えてみればまだ昼食を食べていない。
屋台の中で貝やイカを串に刺して焼いている。
一串2クオタ(500円)と書いてある。
「おじさーんっ、その三種焼きっての二つ頂戴」
「ほいよ、二つで1銀だよー」
おっちゃんは団扇で扇ぐ手を止めると2串差し出した。
「うわっ美味しぃー、ねぇっこれは何?」
「今朝取れたてのハマグリにエビにイカだよっ。
旨いだろう、うちじゃここで全部捌いているからな
よその串に刺さっている奴を仕入れているのとは味が違うよ味が。」
「へぇ、そんなに違うの?」
「あたぼうよ、ほらな、ハマグリもこうやって、貝剥きをすっと差し込んで
貝柱外して、くるっと・・・ほら剥けた。 そして串にさしてっと」
見てる間に一串食べきったアンはお代わりを求める。
「おじさん、もう一串頂戴。べるではどうする? え?お腹一杯? じゃ一串でっ」
「嬢ちゃん食べっぷりいいねぇ」
「おじさん、その貝殻どうするの?」
「これか?これは帰りがけに売るんだ。なんでも焼いて砕いて鶏の餌にするとか言ってたなぁ」
「じゃぁさ、それ私に売ってくれない?」
「えぇ?良いけどさ?何すんだいこんなの?」
「えへへ、内緒っ」
アンはバケツに二杯分の貝殻を安値で仕入れた。
まぁ半分ゴミのようなものである。
2クオタ1分 (600円)を支払うと、おっちゃんは貝殻を袋に入れた。
袋は茶色で目の粗い麻袋のような感じだ。どうやらこの袋で運ばれてくるらしい。
「ありがとうっ」
べるでと二人で一つずつ運ぶ。
「おぅ、こっちこそな。」
角を曲がった所でアンは、袋を端末に近づけてさっとストレージに仕舞う。
べるでもアンの端末に近づけてストレージに仕舞った。
「ん?、べるで、どうして私の端末から仕舞うのよ?」
「私は直接アクセス権限を失いまシタのデス」
べるでは昨夜のあらましを告げる。
端末2号を呼んだ事、八尾が名前を付けたこと、無理やり連れ帰れそうになった事。
無理やり八尾に濃密接触(キス)して防疫上の規定で帰れなくした事。
・・・までを伝えた。
「えぇぇ、じゃあんた丸っと役立たずになっちゃったのっ?」
「保険は掛けてたので、オ・ネ・エ・サマとお・な・じ・役立たずデスっ」
べるでは少しむっとした口調で返す。
どうやら、権限を失った場合に備えて、アンと同等までの権限が付くように
裏工作がしてあったようではある。
アンは自分も役立たずと言われて、口をパクパクさせて一瞬言葉を考えたが・・・
「・・・まぁ、仕方ないわね、
そういえば昨日なんか来てたような気がするわ、
タケルが付けた名前ってドーロだっけ、夢じゃ無かったのね
後でタケルに言って、もう一つ端末を買いましょ」
それから小さくて綺麗な紙袋、リボン等を買い集めた。
あとは気晴らしの買い物だ。
服、小物、、それだけでなく、食料品や調味料等、諸々を買う。
そして夕方近くになり、食事をどうしようか迷っていた。
このままホテルに戻っても八尾の体調が戻っているか判らない。
「オネェサマ、この先のブフェドコミダでテイクアウェイしては?」
「良いわねぇっ、それにしましょ」
・・・
「お・じ・さーんっ、肉野菜パン3つ。テイクトゥーゴーね。」
「おぉ、嬢ちゃんじゃねぇか、滑り込みセーフだな。
ちょうど店閉めようかと思ってたところだ。
よし、おまけして大盛だ。 ほいよ、特製大盛3つ、3クオタな」
パンはずっしり重かった。袋を通して熱が伝わって来る。
店を閉めようと言う時間なのに作り置きではない。
屋台とはいえ真面目な商売なのだ、いや、屋台だからこそ真面目でないと・・なのか?
「ありがとうっ じゃまたねっ」
・・・
「タケルー、戻ったわよっ調子はどぉっ?」
ドアを開けて開口一番、アンは調子を訊く。
「うん、だいぶ良くなってきた。腹筋は未だ痛いけどね。」
腹をさすりながら八尾が言う。
が、顔色はまだ白っぽい。
一日水飲んで寝ていただけなので無理もない。
「食事は食べられマスか?コミダさんの所でテイクアウェイしてきまシタ。」
「ありがとう。丁度お腹がすいて来た感じ・・かな。
コミダさんとこテイクアウト出来たんだ」
・・・余談だが、アメリカでテイクウェイ言うと一部の方は「ケッ」と言う表情になるので注意だ
・・・さらに蛇足だが、テイクアウトと言って相手がニコっとしたら日本好きな人だ
・・・色々試すと面白い
カウンターキッチンに並んでブフェドコミダ特製肉野菜パン(大盛)を頂く。
肉と野菜がこれでもか!と詰められ、収まりきらなかった分は袋にはみ出ている。
べるでは皿を出して綺麗に盛り付けなおす。
「そうそう、例の熊脂だけどねっ、良い器見つかったの。ほらこれ」
と言って、アンはハマグリの貝殻を一つ取り出す。
「これに熊脂を入れて、リボンで結べば結構見られるんじゃないっ?
ほかもアレコレ見たんだけど、高いのよねっ
これならタダみたいなもんだしっ、どうっ?」
良い考えだ。
ハマグリのサイズは小ぶりで500円玉より一回り大きいと言ったところだ。
上手く
・・・良い考えだが、ガマの油でも入ってそうな雰囲気だ。
「良いんじゃないこれ。効き目ありそうな雰囲気だし」
「じゃ食べたら早速仕込んでみましょっ」
食後、やっと顔色が戻って来た八尾はカウンターキッチンに付いている湯沸かし用の
コンロに火を入れる。コンロと言っても燃料に炭が一つ二つ置ける金属製の枠で
見た目、囲われた小さな囲炉裏みたいな感じである。
そこでお湯を沸かし、ハマグリの貝殻を湯通しした。
そして、べるでがその後、熊脂が入った鍋を出し温める。
八尾は貝殻を擦り洗いして汚れを取る。
一部、若干であるが貝柱が薄ら残っておりそれを擦り落とすのだ。
べるでは洗われた貝殻の水分をふき取り、温まって溶けた脂をスプーンで入れていく。
そして、窓辺に置くとみるみると白く固まっていく。
アンは貝の蓋を閉じ、リボンで結んでいく。
そして、ちっちゃくて綺麗な紙袋に入れて閉じる。
寝るまでに相当な数の熊脂軟膏が出来上がった。
軟膏を仕舞いながらアンは、
「タケル・・・そういえばさっ、熊の胆ってさ・・二日酔いにも効くんじゃなかった?」
「アン・・・それは・・・朝一に言って欲しかった」
貴重なシヤルスクの一日を無駄にした八尾はそう呟いた。
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