第69話 煎じ薬?般若湯?きちがい水?

ティノは見ていた。

大人たちの乱痴気騒ぎを・・・


いつの間にか呑み始めていた、べるで・・・

 一升瓶から手酌でコップに注いで飲んでいる

スタンじいさんに勧められるまま呑みだした八尾・・・

 呑み比べと称したチャンポンであれこれ呑まされている。

私たちも大人なんだから、と呑み出すアンとバレッタ。

 「「かんぱーい」」・・・何度目の乾杯だ・・・

それを見て自棄になってデカいジョッキで煽り出すキャロ・・・

 「もう、知らないわよ」・・・


途中で「小煩い爺や」が訪れ、八尾に「特別有害駆除許可書」を渡した。

なんでもゴルノ周辺の村からシヤルスクに向かう道での大型獣捕獲許可だった。

熊対策と言う事であろう・・・

爺やは田之倉六十朗と名乗った。


そして、近さんに金子きんすを渡していた。

多分飲食代が熊の胆に化けたからだろう・・・


その後は田野倉じいさんはスタンじいさんに無理矢理呑まされ、意気投合して管を巻いていた。


そして修羅場が過ぎ、やっとお開きである。


「良いのよ、今夜はロハスがお世話になったお礼だし」


とキャロが言う。

素直な八尾は


「ありがとうございます。ごちそうになります。」


と一発で支払いを任す。


「ヒャッヒャッヒャッ、カロリーナ、ごちそうさんじゃった。

こりゃ良い冥土の土産になったわい。」


「スタンじいさんも、お酒程々にしなさいよ。死ぬわよ」


「ヒャッヒャッヒャッ、カロリーナも言うようになったなぁ 

 ヒャッヒャッヒャ」



「おぅ、ごち」


近さんが言うとすかさず


「あんたたちは別会計よ。収賄になっちゃうじゃない」


きっぱりと言い切り、ロハスとバレッタを担ぎながら会計を済ませる姿は圧巻であった。

横で一人、素面のティノはおつりと領収書を受け取りながら、

大人になっても酒だけは飲むまいと固く誓うのであった。


「じゃぁねーまた明日」

キャロの小脇に担がれたバレッタが手を振りながら運ばれていく。

肩に掛けられたロハスは力なくだらりとしたままだ。大丈夫か?


キャロはロハスを担いで居る側の手を上に上げ、指を二本たて、さっと振って行った。

振り返りもしないで・・・男前だ。


近さん、スタンじいさん、田之倉は、肩を組んだまま南の町に消えていった。


八尾もアンを肩に担いだ。

べるでは、八尾の肘に掴まった。

・・・流石に真っ直ぐ歩けないらしい。

・・・呑みすぎである。


ホテルは一筋通りを離れたところにあった。


フロントで予約がある事と名前を告げ、キーを貰う。

部屋は二階であった。

お荷物をお運び致しましょうか?と訊かれたが、抱えているはアン位である。

チップを渡して飲み水を運んできて貰うことにした。


部屋の鍵は木の板に溝が掘ってあるもので、それをドアの金具に入れると鍵が開く。

まるで風呂屋の下駄箱みたいな構造であった。


ベッドが置かれた部屋が一つ、そこにリビングセットとカウンターキッチンが置いてある。

ダブルベッドは二つ。スィートルームだ。


スイートと言っても1LDK、一部屋の宿代が一日5銀(5千円)である。

アメリカ辺りの中級モーテルとほぼ変わらない。


一つのベッドにどさっとアンを投げる。

アンはもぞもぞと布団の中に入り、枕を抱きしめて寝息をたてた。


ドアがノックされる。


「お水をお持ちしました。」


再びチップを渡す八尾。さっきの人かどうかの判断も付いていないようだ。


水をコップに注いで飲む。

お酒の後の冷たい水は格別である。


べるでもその後、コップに水を注いで飲む。


突然べるでが「うふふふふ」と笑い出した。壊れたか?


「タケルさ・ん・」とコップを八尾の目の前に差し出す。


お水のおかわり?


「うふふふふ、このコップ、さっきタケルさんが水を飲んだコップ・・・」


なんか聞き取れなかったが・・・

コップを置くと、八尾の手を持って、くるくる回り出した。

そして目が回ったのかベッドに倒れ込むとしゃべり出した。


「私にはデスね。双子の妹分が居るのデスよ。最近頓に帰れと煩くて困っているのデス。」


「へぇ妹分?」

八尾も相当酔いが回り、ソファーに倒れこむ。


「そうデス。そうデスね・・・。見たこと無いデスよね?ちょっと出してご紹介しマスね。」


ベッドから立ち上がると八尾の端末に手を突っ込んだ。


「えぃっ」


首筋を掴んで一本釣りである。


「わぁ。なんだ?なんだ?なんだ? お前は誰だ?」


ちんまいのが出てきた。真っ赤な髪の毛に真っ赤な目。

白いローブと相まって何かおめでたい感じすらする。

小学生の低学年位に見える 7、8才と言うところだろうか?


「久しぶりデス。改めて見るとちっちゃいデスね」


と言って、べるでは、むぎゅーっと抱きしめる。


「なんだ?お前・・ボクをどうやってここに出した? ・・・出した?

お前・・・お前か?」


「お前ではありまセンっ。私の名前はべるで。マイロードに付けてもらった名前デス」


「べるで?マイロード?・・ろぉど?・・・これが? ぶふっ・」

八尾を見てケタケタ笑い出す妹分


「あなたマイロードに失礼デスっ」


「ぶふっ、だってまいろぉどだよ? 流石のボクも・・ぶふっ だめ、お腹痛い」


ゲラゲラ笑う端末2号


酔っ払っている八尾も面白くない。

後ろから端末を操作した。

酔っ払いは怖いもの無しだ。

「ロードがそんなに面白いかっ。じゃお前の名前は・・・ろーど・・・ろーど・・どーろ

よし、ドーロで決定」

ぽちっ


軽い気持ちだったのだ。酔っ払ってたのだ。あまりせめないで欲しい。


「お前、そろそろ帰れよ、ボク一人で作業してるんだぞ。もう充分堪能したろ。

ほれ、さっさとボクと帰って仕事をするんだぞ」


べるでの手を取って説得?する・・・

べるでは振りほどこうとブンブン手を振る。

それに合わせてブンブンと振られるドーロ。


馬鹿騒ぎに酔ったアンも起きる。


「あれっ?なんでべるでが二人?・・・

あら?べるで? そっちは端末2号なの?・・あら?ドーロって名前付けてもらったの?

良かったわねぇ、運動性能の高そうな名前れ・・

良かった良かった、ちょっとそこの水ちょうらい・・・」


起き上がって水をピッチャーからダイレクトにごくごく飲む。

そして再び横になるとくーくー寝息をたてて寝入った。


「えぇぇ?いつの間にボクに名前が・・・しかもドーロって何よ?ドーロって

え?ちょっと運動性能が良くってレース向き? そんな事聞いてるんじゃナイよ

なんで勝手に断りもせずにボクに名前をつけたのさ ってこれダレよ

管理官?えぇ?元管理官? これアンなのか!」


「よかったデスね。ドーロちゃん」


「煩い、ほら、べるで、ボクと一緒に帰って仕事仕事」


「い・や・デスよー 私はか・え・り・ま・セーン」


そして呆然と見ていた八尾に近づくと、八尾の顔を押さえつけて無理やりキスをした。


「あぁーっ!お前それはダメ。ダメだったらダメー」


「あれ?おかしいデスね。 では・・・もう一回っ」


今度は舌が入って来て吸われた。するとべるでが一瞬ぽわっと光った。


「あぁぁぁぁ、ダメ・・・これで帰れなくなっちゃったじゃないか。

ボクはなんて言い訳すればいいんだよぉ」


「うふふ、残念でシタ。もう私は帰れまセーン」


「べるで、一体何がどうしてこうなった?の?」


真っ赤な顔をして八尾が聞く。


「オネェサマはマイロードが人工呼吸したので、現地人と深い接触をしたと

言う事になり、防疫上の規程で帰れなくなりまシタ。なので私もそれを・・・」


喋ってて一瞬我に帰ったべるでは顔が真っ赤になる。


「あぁ、もうボクは知らない。帰る」


と言い残すとロードは端末に飛び込んで行った・


「帰れなくなったって・・・べるではそれで良いの?良かったの?」


「はい。マイロード。私は今日から正式にタケルさんの奥さんデスから・・・

私は絶対に帰りません」


そうそう、今日書類だして偽装したんだよね・・・

長い一日だったなぁ・・


「偽装ではありまセンよ」


べるでは見た目に分かるほど、ニコッと笑った。


八尾が硬直して目を瞬いた瞬間、再びべるでが唇を合わせてきた。

こんどは柔らかく柔らかく・・・


さらに長い長い一日であった。

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