第68話 ロハスの帰還祝い?

「いらっしゃいませ。ご予約のロハス様ですね」


奥の個室に通される。

テーブルには既にスタンじいさんと・・・見知らぬおっちゃんが・・居た。


「遅いぞ ヤオ、もう待ちくたびれたわい」


「おぅ、ロハス、先にちょいっとやってるぞ」


見知らぬおっちゃん・・・ってお奉行じゃないか?

風体は町の人と変わらない格好をしている。

が、かなりイナセな感じである。

そう言えば聞こえは良いが、チャラい遊び人のようだ。

そして、二人共すでに赤ら顔だ。


「お奉・・・」

八尾が言いかけるとお奉行が割り込む。


「おっと、ヤオ、おいらの事は近さんと呼んでくれ、なっ?」


「こんさん・・・ですか・・・」

お忍びらしい。

無用な詮索をするなと、遠回しに言われた気がする。


お店のスタッフが

「そろそろ、初めてもよろしいでしょうか?」

と言ってる側から食事が運ばれてくる。

テーブルにはナイフとフォークが数種類並べられ、フレンチのコース料理の様である。


食前酒が出され、皆の前に行き渡るとお奉行・・・じゃなくて近さんが立ち上がり


「それでは、ロハスの帰還とヤオ等一行との出会いに、乾杯」

「「「乾杯」」」


「それにしても、ロハスが無事で良かったなぁ」


「まったくですわ、熊の話が飛び込んだときにはうちの人かと夜も寝られませんでしたもの」


「もうそんなに話が回ってるんですか?」

八尾が尋ねると、キャロの代わりにバレッタが返す。


「そうよ、行方不明者の問い合わせが町の入り口にも散々来てるもの。

朝、あなたが父さんと一緒に来たって聞いて、ホットして泣いちゃったわよ

もう、心配ばかり掛けるんだから」


「いやぁ、熊には驚いたねぇ ヤオ君。あれ、べるでちゃんの弓が無かったらホントに危なかったよね」


「そうじゃなぁ あの熊じゃ全員倒されてても、おかしかないぜ 

まったく、ロハスも悪運だけは強いの ヒャッヒャッヒャ」


「でもタケルなら仕留められたんじゃないっ? 一頭はもう留めたんだし」


「村の側に居た奴デスね?オネェサマ」

べるでがフォローする。ハンターの資格が無いのに勝手に取れないのだ。

村の側と言うことなら有害駆除の範疇である。


「あれはタマタマ運が良かったんだよ」

八尾が謙遜する。


「なに?ヤオは熊を獲ったのか?」


「えぇ、村の森に出たので駆除と言うことで」


前菜を食べながら喋る。

前菜は大きな皿にちんまりと盛られている。

小さいボール状に作られたゼリー寄せ、中には色とりどりに小さく刻まれた野菜と、鶏肉?いや、ウサギだろうか?

茹で野菜に飾り切りが入ったもの、小さい小さいタルト生地のような物にこんもりと盛られた塩漬けの魚卵?

見ていて飽きない美しさである。

茹で野菜?いや茹で野菜である。

だが、茹でただけではない。

野菜自体の味が強い。冬野菜としても異常な程である。

給仕係に話を訊くと、単一の野菜で取った出汁で蒸し煮にしているとの事だった。

手が込んでいる。またすらっと躊躇いも無く給仕係が答えられるスタッフへの教育、調理法をばらしても問題無い程の、手間と技術が惜しげもなく盛り込まれている。

たかが前菜の飾り野菜一つに。

隣ではべるでが、目を瞑って無言で味わっている。


「ほぉ、そりゃ大したもんじゃねぇか ハンターの資格取ったら怖いものなしだな」

近さんが褒める。


「いやぁ、できれば熊は止めておきたいですね」

・・・怖いのだ、冗談抜きで


「そういえば、ヤオ君、あの晩も熊を睨んだだけで森に返したよね」

逃げたのは、べるでの弓のおかげなのだが・・・


「そうじゃそうじゃ、あの晩は誰も逃げんかったな 

皆、腰を抜かして動けんのかと思ったわい ヒャッヒャッヒャ」


「アンは怖くなかったのぉ?一緒に立ち向かったんでしょ?」


「そうね、バレッタ。 だってタケルが居たもの、そんなに怖くは無かったわよ」

アンも全てこの話はヤオに振る気である。

そもそもアンがその時手に持っていたのはフライパンである。


「すごいわねぇ、ねぇ母さん、二人ともタキュルさんと一緒にハンター試験受けるんだってぇ~」


「すごいわねぇ。私の若い頃みたいだわぁ、ねぇ貴方」


「母さんはハンターの資格を持ってるのよ。昔、父さんと一緒に行商行くときに用心棒してたって言うのよ~」


「バレッタ、その話は内緒よぅ~」


「そうじゃったなぁキャロは、バレッタが生まれるまで、よく一緒に行商行っとったなぁ

あれって用心棒だったのかい 流石じゃなぁ ヒャッヒャッヒャ」


・・・丁度、旅人が帯刀を許されていたため、ヤクザ者が旅装束を纏っていたような感じなのか?



前菜に引き続いてスープが運ばれる。

ポタージュだが・・・うっすら粘りがある。

味はどこかで食べた?・・山芋?に味噌?

非常に口当たりよく、口の中にぱぁっと弾ける、そして、さっと消えて行く。

粉っぽさや粒状感は微塵も感じさせない。

後に残るのは山芋の風味だけ、それが消えると旨味が支配し、そして消えていく。

強烈であり、鮮烈であり、潔き良い。

斯くも夏の夜空を彩る一尺玉の花火のようなスープが有っただろうか?



「ヤオよぉ?おめぇ熊獲ったんなら熊の胆はどうした?

もしあったら譲っちゃくんねぇか? いやな、白州に居た煩せぇジジィが居たろう?

煩せぇってもスタンじぃじゃねぇがな。 

あいつが最近胃の腑の具合が悪いってんでよぉ あったら助かるんだがな。」

近さんが熊の胆を欲しがる。


「言うに事欠いて、人のこと煩いじゃと? 

全く、年寄りに向かってなんちゅう口のきき方をしやがる。」



八尾は懐から取り出すように見せかけて、ストレージから熊の胆を取り出す。


「こんなのですが・・・」


「おぉっ、こいつは・・・でかいな、いや、これ一個は到底俺の小遣いじゃ買えねぇなぁ

どうだろう、半分、いや四分の一程どうだろう、今手持ちに豆金が8つあるんだ。

四分の一を豆金8つで譲っちゃくんねぇか?」


八尾はあまりの高値に驚く、そして、べるでを横目でみると、微かに頷いた。

つか、近さん小遣い多過ぎ・・・


「良いですよ」

と言って八尾はいきなり熊の胆をナイフで割る。真ん中から四つに割って、一つを近さんに渡す。


「ありがてぇ、これでじぃさんも、もう少し長生き出来るだろう」


と言って、懐から出した手ぬぐいに大事そうにしまいこむ。

そして、紙に包まれた小金貨8つを八尾に渡した。


スープの次は・・刺身?が出てきた。

丸い磁器の皿にうっすらとツマが敷かれ、その上に平たく並べられている。

そこに醤油ベースだろうか?ソースで滑らかに絵が描かれている。

絵は富士山だろうか?


内陸だからと穿ってみたが、中々どうして、刺身は新鮮だった。

鯛にヒラメ、こっちのピンク色は恐らくウマズラにホウボウ・・か?

まるで人を試すように数種類の魚が盛られている。

切り口も鮮やかである。 刺身の角が立っている。身割れなどみじんも無い。

全てシャキっとした食感を保ちつつ、旨味が出ている。

神経締めしてから6時間・・・いや7時間と言った所か?


刺身を一切れ食べたところで給仕から声が掛かる。


「シヤルスクの地酒はいかがでしょうか?」


「おぉ良いねぇ、おらっちは冷やで、じいさんはどうする?冷やか?」


「どうせ年寄りの冷や酒とか言うんじゃろ ヤオはどうする?呑めるじゃろ」


横を見ると、べるでがキューッとグラスを空けていた。


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