シヤルスクの町で

第66話 町の役場は奉行所?

「開門!」

大声で開門の合図があった後、和太鼓っぽい音がドンドンドンと鳴り響き、

重たそうな門がギリギリと開いていく。

2メートル位の棒を持った男らが出てきて門番として立った。

真ん中には受付と思われる机が置かれた。

時刻は日が昇りきった6時半頃である。


受付の順番は昨日閉門した後に並んだ順である。

が、住人と来訪者は別となり、それぞれの順番で呼ばれる事になる。


「参番、南町一条商通り上ガル、ロハス・ロドリゲス、及び他一名、参られーい」


「ヤオ君、呼ばれたから先に行くよ、先に宿の確保をしておくから、

南町の商通りを入った所にある。『ら・えすぺらんさ』 と言う店に来てくれ」


「ヒャッヒャッヒャ じゃぁまた後でな、その他一名も先行くぞ」


「「「ではまた後で」」」


その後が長かった。呼ばれたのは昼前だった。

アンの判断で、ロハスが行った後、握り飯と焼き魚を取り出して食べたのだが、

良い選択であった。


「ゴルノ村、タキュル・ヤオ 及びその一行、参られーい」


受付に並ぶ三人。


「ようこそ、シヤルスクへ。

ご来訪の目的は観光ですか?それともお仕事でしょうか?」

割と可愛いお姉さんが受け付けだった。


「ええと、役場で手続きと、商用です」

言い終わらない内に、お姉さんの顔が険しくなる。

あれこれと話を聞かれた後、


「商用との事でしたが、商いのお相手は、どちらかお分かりですか?」


「はい、『ら・えすぺらんさ』のロハスさんです。」

お姉さんの顔に、安堵感と戸惑いが交互に表れる。

分かりやすいか分かりにくいか分からない感じだ。


「ロハスのお知り合いですか?」


「ええ、さっきまで一緒でした。後でまた一緒に役場に行きます」


お姉さんの目がウルウルしたと思ったら、大粒の涙が零れた。


「失礼しました。・・書類に問題は有りません。

どうぞお通り下さい。 良い1日を」


書類に判を押し、日付を記入したものを手渡された。


「ありがとうっ、あなたもねっ。」

アンが割り込む。

アンは早く中に入りたいのだ。

だから話を中断させるべく、割り込んだ。


そしてやっと北町に入った。

中に入ると待ちくたびれたような顔をしたロハスが立っていた。

待っててもなかなか来ないので、しびれを切らして迎えに来たのだ。


「ヤオ君、昼飯を喰って役所に行こう。もう受け付けは済ませたから

午後一で手続きが出来るはずだよ」


進められるまま、一件の屋台に行く。


「ここはね、汚いが手軽で味が良いんだよ」


「おいロハス、汚くて悪かったな。

おぉ、おまいさん達がロハスが言ってたゴルノ村の人か。

うちは、ここらの中で味自慢で売ってんだ、俺はコミロン、宜しくな」


「ヤオです。こちらこそよろしくお願いします。」


と言うが早いか、コミロンはパンをさっと切ると生野菜を乗せ、炭火で焼いた肉を

薄切りにしたものをドサッと挟み込んだ。


「ほい、ブフェドコミダ特製の肉野菜パンだ 1つ1クオタな」

・・・名前のひねりは無い。

ブフェドコミダこれが屋台の名前らしい。

1銀の大銀貨を払って1クオタのおつりを貰う。1つ250円だ


パンはフランスパンのクッペのような感じだが、もちっとしている。

それに野菜と肉がどっちゃり入っている。

味付けは辛子酢味噌っぽいものだ。


かぶり付くと酸味と辛みが程よく野菜にあっている。

肉も炭火焼で香ばしく、薄切りなので歯切れが良い。

程よい癖があるマトンで、じっくりと炭火で炙ったのであろう、臭みがほどんどない。

パン、野菜、肉が口の中で混然となった所に辛子味噌が味を纏める。

酸味のおかげで食が進む。


「旨いですね。これ。」


「だろう、昼にこの付近に居たら何時もここなんだよ。

オヤジは癖があるけど、喰い物は旨いだろ」


「ロハスこの野郎、黙って喰え、黙って、 おっと、お前も1クオタとっとと払えよ」


・・・

・・・

・・・

食べ終わり、時間が無いのでそのまま役場に向かう。


「受付午後一番、ロハス、ロハス・ロドリゲス 居ないか?ロハス」


「はいはいはいっ 居ます、居ますっ」

アンが大声で叫ぶ。

ギリギリで間に合った。


そのまま白州に回される。

全員ひれ伏している。


ドンドンドンと太鼓が鳴らされる。


「北町奉行、近山右衛門之尉様、ご出座~」


奥から松の廊下みたいな人が出てきた。


「皆の者、面を上げぃ」


「はは~」


「その方、南町に『ら・えすぺらんさ』を構える主人、ロハス・ロドリゲスで相違無いな」


「はっ 相違ございません。」


「その方ら、ゴルノ村 有害鳥獣駆除隊長、タケル、ヤオ その妻、アン ヤオ、並びに べるで ヤオ に相違ないか?」


「「「ははぁっ 相違ございません。」」」


「この度、タケル ヤオの、第二夫人としてべるでの婚姻届願い、およびゴルノ村の有害鳥獣駆除隊に一名追加願いをこの場において受理してつかわす

また、ゴルノ村での有害鳥獣駆除において、功労を認め、褒美を遣わす」


「ははっ、有難き幸せにてございます」

・・・結構時代劇好きなヤオである。


「と、堅っ苦しいやり取りはこの辺にしてよぉ、おぃロハス、熊が出たんだって?どうだったよ?」


豹変する奉行様に動揺する八尾。


「近山様っ、お白州で御座いますよ。もう少し奉行らしく振る舞いなさってください。」

初老のおっちゃんが釘を刺す。


「じぃは固てぇなぁ、良いんだよ、知った面なんだから

おぅ、お前ぇらも足を崩せ、しびれちまうぞ」

と胡坐を掻く。


そして、熊の話が延々と続いた。


「そうかぁ 弓かぁ きっとその熊は前ぇにハンターに追われたことがあるんだろうなぁ」

奉行だけあって、理解が早い。


「おしっ、じゃぁ一筆書くから、ハンターギルドに使いを頼むぜ、タケル」


お奉行直々のお使いである。どのみちハンターギルドには行くのである。


「はい、畏まりました。」


「よしっ、これにて手続きは終わりじゃ、 じぃ、書類は滞りないか?」


「もうとっくに出来上がって居ります。」


「おぅ、ロハス 後でな」

奉行がにやっと笑う。


「お奉行っ、抜けだしは禁物ですからな」


一行は役場を後にした。

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