第65話 町の外で
町に向けて出発した。
ここからは、湿地帯の中の木道を行く。
意外と木道は辛い。真っ平では無い。
所々段差と、木材が朽ちて穴に成っている所、登り、下りと様々だ。
高い所では2メートル位の高度があり、荷馬車が落ちたら大事である。
もちろん手すりやガードレール等無い。
道は所々ですれ違い様にふくらみがある。
つまり、そこが荷馬車のすれ違い場所であるのだ。
5台まではすれ違える。
じいさんが先頭を歩き、すれ違い場所の間で馬車が詰まらないよう見張りをする。
慎重に荷馬車を進める。
「まぁ、そう言っても、向こうから荷馬車が出るのは朝だからな、
すれ違いは殆ど昼飯の場所じゃから 楽なもんじゃ ヒャッヒャッヒャ」
葦の葉っぱをクルクルと回しながら、じいさんは気楽に歩く。
ロバも真っすぐ歩かないと落ちると言う事を判っているのか、
木道の中央をぽくぽくと歩く。 のんびりとしたもんだ。
昼近くになると、荷物を積んだロバを連れた人たちがすれ違っていった。
荷馬車が優先であるらしいが、行き違い場所が近い場合は、こちらがそこで待つ。
そして広場が見えてきた。昼の休憩所である。
木道の分岐を抜けて、休憩所に入る。
まるで高速道路のようである。
一台、一台とぞろぞろ集まって来た。
各方面に行く荷馬車隊の休憩地だそうだ。
休憩所は湿地を埋め立ててあるらしく、湿った場所は無い。
火気は厳禁なので、みな弁当で済ます。
八尾一行も同様に握り飯等で済ます。
「ロハースっ、やっぱ車軸がダメじゃ このままじゃ町まで持たんぞ」
じいさんが荷馬車の横で叫ぶ。
「なにー2号車かぁ? じいさん、なんとかならないかー」
米粒を飛ばしながらロハスが答える。
「ほれ、見てみぃ、車軸がすり減ってガタガタじゃ。」
「じいさん、何とか持たせられねぇか?」
「いやぁこれじゃあ水掛けて滑り良くしても無理じゃろ。
ほれ、これみりゃお前さんでも判るじゃろ」
「仕方ねぇ交換するか じいさん、荷物下すぞ」
「ほれ、ヤオ、荷物下すぞ 若けぇもんが働かんでどうする」
荷物を全て降ろして、荷馬車をひっくり返して車軸を変える。
「この予備もいい加減くたびれちょるのぉ。
ロハス、けちらんと新しいの用意しておけばよかったの」
「仕方ねぇだろ、じいさん
こんなに・・荷物が・・重くなるとは・・思わなかった・・ぜっ」
車軸は意外と重い。荷馬車の荷重が全部掛かるのだ。
留め金を外すのに真っ赤な顔をして作業する。
やっと外して新しいのを付けて荷物を積みなおす。
辺りに一杯いた荷馬車は、もう一台も姿が無い。
出発は3時を過ぎてしまった。
「こりゃぁ、到着前に門がしまっちまうかな ヒャッヒャッヒャ」
辺りは赤い夕日に包まれつつある。
そして太陽が森の山に沈み、星が見え始める。
東の空が徐々に青くなり、暗くなった。
提灯の明かりを頼りに木道を進む。
木道のおかげで、道に迷う事は無い。
遠くに光が見えてきた。
町の明かりである。車軸よあれがシヤルスクの灯だ。
・・・車軸ではあまり締まらない。
そして、それから一時間、やっと町の入り口に立った。
門は既に閉鎖されていた。
高さが2メートル位の塀が町の周囲を取り囲んでいる。
緊急時は出ることが出来るそうだが、逆は捕まれば死罪だ。
塀には軒が付けられ、その下で夜が越せるように一定の区画が作られている。
表には入りそびれた人たちが野営の場所について役人から指示されている。
ロハスも役人に人数を告げ、場所を確保してきた。
「ヤオ君、ここも火が使えないんだが、外で待つ人のために炊き出しがあるんだ。」
「あんまり旨くはねぇがな ヒャッヒャッヒャ」
夜営の準備が終わり、寝床の用意が出来たころ、一台の荷馬車が回って来た。
「お食事ですよー お待たせしましたー」
食事は野菜が入ったスープと固く焼かれたパンであった。
パンは兎も角、スープは暖かく有難かった。
パンをスープに浸して食べる。
ほんわか柔らかくなったパンを齧る。
スープが浸みて無いところは、パサパサだが、粉が良いのか、味わい深い。
八尾は素焼きにしていたウグイを配る。
焼干しの後、風に晒してあったので冷たいが、こちらも噛みしめると旨い。
車軸の交換と夜道で疲れた一行は朝までぐっすりと眠ることが出来た。
そう、もう熊の心配は無いのだ。
八尾は夢も見ずに寝た。
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