第62話 ヤークトガルデン家

「私の実の名は、

アンジェラ ヤオ フォン ヤークトガルデン

ヤークトガルデン血筋の者よっ」


アンは高らかに言う。


「そして、この者は 

タケル ヤオ フォン ヤークトガルデン 私の夫

そして・・・

べるで ヤオ フォン ヤークトガルデン 

タケルの・・元従者で・・第2夫人よっ」


「あ、あのヤークトガルデン家!?」

・・・けっこう有名な家みたいだ。


「そうっ、そして、これは決して口外しないで頂きたいのですがっ。

祖父は、跡取りを決める決闘の際、兄弟で争うことに憤りを覚え、決闘を避け、家を捨て、森の村に生きることを決めたのです。

そして、ゴルノ村で農夫を営み、父上が生まれ、私が生まれ、平穏に暮らしてきました。

今は、もうそう言った決闘の風習は廃れたみたいですが、祖父の頃は絶対だったのです。」


「なるほど、それで家名を捨てることなく今まで・・・」

家名離脱宣言、及び一族同意書を出さない限り、家名は残るのである。


「祖父は捨てたがってたみたいですが・・・

捨てると言う事も出来ず、隠れるように暮らしていたみたいです。」


「そして、父上が昨年お隠れになり、母上も年を越すこと無くその後を追いました。

私だけとなった家を守るため、タケルと籍を併せる事となり、

また、タケルの従者、べるでも身寄りが無いため、その後直ぐ第2夫人に収まりました。

婚姻が決まった際に、祖父の種子島をタケルが受け継いだのですが・・・


ある日、村の近くの泉で練習をしていた時の事です。

詰めた火薬の量が多かったのか、反動で種子島を泉に落としてしまいました。

すると、泉から女神が現れ、お前が落としたのは金の種子島か?銀の種子島か?と問われました。

タケルは素直に「落としたのは鉄の古い種子島だ」と答えると、

女神は正直者には870を授けましょう・・とその銃を差し出しました。

余りに目立つのでタケルが戸惑っていると、

ならばお前がピンチの時に出せるようにしてあげましょう・・

と必要な時だけ出せるようにして下さったのです。」


アンは、どこかで聞いたような話を混ぜて、嘘八百まくし立てた。

裏では、べるでが、第2夫人の響きに頬を赤くしながら、ピリっピリっと暗躍していた。


「なんじゃい。結局、お前さん方はヤンゴトナイ方所縁の者じゃったのかい?

こりゃぶっ魂消た話じゃのう ヒャッヒャッヒャ」


「じいさん、笑い事かよ、ヤークトガルデン家様だぜ、失礼な事を言うと無礼討ちにされるぞ」


「いいじゃぁねぇか、今は平民として暮らしてるんじゃろ。ヒャッヒャッヒャ」


「・・・それもそうだな・・・それにしても女神からの授かり物だったか、

それはそれで大したもんだな、流石、ヤークトガルデン家所縁だけはあるな」


・・・誤魔化せる物である。

まぁ後ろからべるでがピリっとしていたのが、結構効いていたのだろう・・・


「ヤオ、そいつは熊にも効くんか?」


散弾銃である。スラッグを入れて至近距離から撃てば、その力はライフルを上回る。

「至近距離なら」である。

至近距離と言うのは0から15メートル位だろうか?

ライフルならば100メートル位離れて撃てば、万一半矢でも何とかなる。

しかし、至近距離だと話は別だ。

急所に中らなければ反撃される。

反撃されれば命は無い。


しかも、慌てると結構外すのだ・・・・ホントに5メートルを外すときは外す。

もちろん相手は動いている事も要因であるが・・・


「まぁ、最終手段って所ですかね?」

・・・曖昧に答える八尾であった。


「なんじゃ、やっぱそうか・・そりゃそうだわな ヒャッヒャッヒャ

そりゃ、夜明けまで後ロウソク一本分ぐらいあるじゃろ、寝直しじゃ

がんばれよロハス、油断せんようにな ヒャッヒャッヒャ」


じいさんは小屋に入って寝直した。


八尾たちも横になった。


じいさんが高らかにイビキをかき出すと、八尾はアンに小声で聞いた。


「なぁ、さっきの話って何処まで本当なんだ?」


「・・・嘘は泉のとこだけよっ。あの家に火縄銃もあったわ

流石にもう火薬は無かったみたいだけど」

・・・銃マニアでは無いが、見てみたかった

・・・チョット悔しい八尾であった。



「で、ヤークトガルデン家ってなんなんだ?」


「この辺り・・・タケルに判りやすく言うと、関東平野ね。

そこの領主。 

と言ってももう残っているのはアンの祖父の弟だけよ」


「え?じゃぁ名乗り出てしまえば、あれもこれも問題解決するんじゃ無いの?」


「イヤよっ、あたしはもう書類見て判子押すだけの生活は絶対イヤ。お断りよっ」

アンは目に涙を浮かべた。


・・・八尾は想像し、納得した。

確かに自由は大事だ。

何処に行くにも護衛が付き、一日ずーっと書類をみて判子を押すだけの生活なんて・・・

つか、こいつ似たような事をやってたのか?


ふと、アンの頭を撫でた。

アンは一瞬、八尾を見上げると八尾の胸に顔を突っ伏せた。


べるでは・・八尾がアンを構いっきりなので・・・

後ろから着かず離れずの距離を保っていた。

・・・・八尾が気がつくまで・・・・

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