第60話 冬の夜の夢
夜番のロハス
交代して入口の前に陣取る。
朝までなので、もうロウソクは要らない。
篝火に薪を足す。
そして、光が届かない森の奥に目を凝らす。
もし何か来たら、まず森の暗がりでこちらの様子を見るはずである。
そうすれば篝火の明かりに目が光るはずだ。
だが・・・判って・・・どうする?
ロハスが護身用に持っているのは刃渡り30センチの刃物のみ。
山賊ならこれを持っていれば、おいそれと手出しはしてこない。
だが、熊相手なら・・・死ぬ前に一矢報いるのが関の山である。
・・・何も無いよりは幾分マシかもしれないが。
聞くところによると、こちらをヤルつもりが無い熊、
つまり人間を餌として見てない個体であれば、
ササ等でワサワサと鼻先をさすって嫌がらせすれば、
怒らずに退散すると言う噂もあるが・・・
こちらを喰う気でいる熊なら、何やっても無駄だ。
生きるか死ぬか。デッドオアアライブ。死なば諸共・・・
無抵抗で殺られると見せかけて・・・
一矢報いれば熊も驚いて怯むとか言う話もある。
逆に何だこの野郎、とばかりに散々痛めつけられた挙句、
両手両足の動きを奪われてから喰われると言う話もある。
せめて附子があれば・・・
トリカブトの根を煎じた毒薬である。
フシ、ブシ、ブスと色々呼び名があるが・・・
所説あるので現在の漢方薬の名称ブシで・・・
太郎冠者と次郎冠者のあれだ、あれは確かブスだ。
熊だと毒の強さと量、刺さりどころで効き目が違うが、
酔ったようになると言う噂だ。
そこを槍等で止める・・・怖い話である。
鉄砲が無い時代では矢毒を塗った矢を使い、槍でとどめを刺したと言う。
しかし、行商人がそんな毒薬を常備している訳が無い。
闇商人では無いのだ。
もしやる気のある熊が出て来たら・・・
全員叩き起こしてバラバラに逃げるぐらいだ。
固まれば全員やられる。
一人でも多く助かるように、早く見つけて早く叩き起こす。
全員が助かると言うことは到底無理な話だ。
誰が助かるかは・・・運次第だ。
夜更け、夜が明ける寸前は風が吹かない。
深々と冷える。体の熱はすべて放射冷却で持っていかれる。
ロハスは瞬きも忘れて森の奥を見つめていた。
星の数が段々と減っていく。
夜明けは近い。
ロバたちは小屋の側で横になり、篝火に照らされた鼻息が白く出るのが見える。
小屋の中でも床は寒い。
藁を敷いているとは言え寒い。
いつの間にかアンは八尾の上に居た。
胸の下、鳩尾に頭を横に置いて丸まっている。
猫のようだ。・・・でかい・・けど。
アンが退いた所にべるでが隙間を埋める。
そして、少しでも暖を求めて八尾の腕を抱え込む。
八尾は夢を見ていた。
熊と出会った。
距離は離れているが此方にやって来る。
逃げなくては・・・足が動かない。
腰が抜けたと言う状態だろうか
転がって逃げる。
銃を取り出そうにも右手が動かない。
奴が来る・・・
とうとう伸し掛かられた・・・苦しい・・・
胸元にかかる熊の吐息が熱い。
助けてくれ・・・
喰われるのは嫌だ。
夢中で藻掻く・・・
押しのける・・・
もにょ・・・?
もにょもにょ・・・??
もにょもにょもにょ・・???
どすっ・・・
アンは渾身の力で至近距離からの腹パンを繰り出す。
そして、その反動で寝返りを打って八尾を乗り越えた。
乗り越えると背中が暖かくなったのが判ったのか、にこやかな顔で寝息を立てる。
べるではいつの間にか腕を八尾に回していた。
八尾はそのまま朝まで気がつくこと無く、ぐっすり。
悪夢にうなされること無く・・・気絶するように眠った。
・・・
・・・
・・・
「ごはんデスよー」
・・・ピーチショップでは無い。
朝ご飯だ。
べるでが、八尾を起こす。
なんかよく寝た気がする八尾であった。
今朝は朝から握り飯だ。
そして、また空になった飯盒で飯が炊かれている。
これは昼飯分だろうか?
黙々と食べる。
食べたら直ぐに出発である。
ロバたちは既にやる気満々である。
八尾は昨日の筋肉痛と、筋肉痛とはちょっと違う脇腹の痛みをこらえて出発した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます