第59話 夜番
「ほれ 交代じゃぞ、ヤオ。 もう寒くてかなわんわ」
じいさんが赤ら顔で交代を告げる。
八尾も赤ら顔で立ち上がる。
振り返ると、べるでとアンは、もぞもぞと間を詰めていった。
外は月明かりも無く真っ暗である。
篝火だけがめらめらと燃えている。
小屋の前の切り開かれたほんの30メートル四方だけが視界である。
一歩森に入った所は真っ暗で何も見えない。
篝火の裏は死角だ。もしそこから出て来たら後は10メートルも無い。
八尾は出て来たら直ぐに撃てるようにと思い、弾倉に弾を詰めようとしてふと思った。
ココは日本では無い。銃刀法は無いのだ。
八尾はマガジンキャップを外すと、ちょいとやって、中の緑色のプラスチックを取り出した。
そしてまた、ちょいとやって、マガジンキャップを締める。
そして、弾倉に4発詰めた。機関部を開放状態にすると、ポケットに一発、スラッグを入れて
870をストレージに仕舞った。
そして外に出ると、篝火台に薪を追加した。
パチパチと燃える篝火。
その火の粉は舞い上がると、星に吸い込まれるように消えていった。
見張りの交代時間はロウソクで測る。
1本あたり1時間半位であろうか、2本燃えた所で交代である。
ぼやっとして燃え尽きたままにすると交代時間が伸びる。
小屋の中央では火が焚かれているが、暖かいと言うほどではない
それでも皆が寝ている所は遠赤外線で外よりは随分とましだ。
外をボーっとみていると、一頭鹿が飛び出してきた。
突然の来訪者に870を慌てて取り出す八尾。
しかし、獲物はそいつではない。
鹿は暫く篝火を見ていたが、のそのそと森に消えていった。
八尾は鹿が出て来たことでホッとする。
鹿が出てくると言うことは熊は居ないのであろう。
追われてた様子もない。
胸をなでおろして870を仕舞う。
遠くでオオカミの遠吠えが聞こえる。
村で聞いた話ではこの辺りの群れは4つ、この辺りにもひと群れ居るはずである。
オオカミは用心深く、単独で歩かない限りは姿を見せないらしい。
だが、それは賢いと言う事である。
つまり、狡猾である。
危険が無い、狩りがやりやすい相手であれば容赦無い。
逃げ足の速い鹿だろうが、牙を持った猪だろうが、取り囲んで群れで攻撃する。
人などは武器を持ってなければ良いおやつだ。
皮は柔らかいし、脂はのっている、逃げ足は遅いし、牙も爪も無い。
日本に未だオオカミが居たころ、人を襲わなかったのは、鉄砲が在ったからである。
猟師が未だ居た。農村にも銃があった。
銃が無くなったのは刀狩りではない。
日本が敗戦したときにGHQが行った政策の一つと言われている。
つまり、オオカミが居なくなってからだ。
もし、今、オオカミを害獣対策として海外から入れたら・・・
登山客なんかおやつにちょうど良いだろう。
今は幸い、日本で狂犬病は出ていない。
逆に、オオカミを入れたら滅びる理由が無いのだ。
熊にオオカミ、ここでの脅威は二倍である。
八尾は篝火と篝火の間に米俵・・・中は木くずだが を置いて弓を出し練習を始めた。
べるでが作った矢は優秀である。
矢立てには6本の矢が立てられている。
矢尻は全てゴンが作った練習用の真っすぐな矢尻が付けられている。
ほぼ、同じ長さ、同じ重さ、同じ太さだ。
しかも節は綺麗に整えられ、火が入れられ、和竿のような風格すらある。
矢は音もなく米俵に刺さる。
いや、ある程度音は出るのだが、気にならない程度だ。
5本射っては矢を抜きに行く。
何回繰り返しただろうか。
2本目のロウソクは、やっと燃え尽きた。
時間で言うと午前3時 丑三つ時である。
だが、まだ冬だ。 幽霊の出番は無い。
八尾はロハスに交代を告げると、アンの横に潜り込んだ。
二人は寒いのだろう密着して寝ている。
間には入れない。
火側に入るのも憚られたが、ベルデ側に入るのはもっと憚られた。
と、言うわけでアンの横に入った。
八尾は仰向けになって天井を見つめた。
太い梁が渡っており、小屋自体は頑丈そうである。
そこから中心の火を熾す場所に向けて一本の紐が垂らされ、自在鉤を吊っている。
ウトウトしだすと、アンが寝返りをうった。
背中側にあった火からの熱を探すように八尾の腕に巻き付いてくる。
頬が肩に当たる。足先が脛を掻く。
アンが動いて隙間が空いてしまったので、べるでもジワジワ寄って来る。
アンを挟むように・・・
まるで通勤電車で寝てしまった女子高校生に寄りかかられたオヤジみたいな状態である。
八尾は身動きが取れなかった。
なにか肘の上に当たる。え?横に寝てるのはアンだ。
べるでの手?いや、ちがう・・・
え?・・・やっぱ隣はアンだ、あり得ない。
あぁ、そうか、夢か・・・
八尾は深い眠りに落ちて行った。
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