第56話 車軸の下で(野宿)

山間の日暮れは早い。

陽が陰りだすとあっという間に暮れていく。


一行は河原に焚き火を熾し、馬車3台で取り囲んだ。

ロバはハーネスを外されて、自由にしている。

朝になったらじいさんが口笛を吹くだけで呼び寄せられるらしい。


べるではトウモロコシの粉と小麦粉を半々に混ぜ、トルティーヤを焼く

小麦粉が入ると少し柔らかく、粉っぽさが減る。


じいさんは豆を煮る。

八尾が取り出した猪のベーコンを加えているので、鼻歌混じりに上機嫌で混ぜている。


「ロハスさんは、何時もこうやって野宿するんですか?」


「荷馬車があるとね。

普通はあいつ等の背中に荷物を積むんだ。

今年は穀物を大量に仕入れたから、荷馬車を使ってるんだが

荷馬車が無いと少し足が速いから、中継地にある小屋に泊まれるんだけどね。」


小屋と言っても屋根があるだけ、壁は腰壁で、そう、丁度東屋のような趣である。

町から村への道には、一日行程分の要所にそのような小屋があると言う。



「冬場は良いんだけどね、暖かくなると流れ者が居たりして、

酷いやつは小屋の修繕費の募金とかしてやがるんだ。

もちろんそんな金を取る権利は誰にもないけどな」


「へぇ それは大変ねぇ 5月にも来るんだから気を付けなきゃね タケル」


「ほれ、くっちゃべってる間に飯が出来たぞぉ

まったく 老人ばかり働かせおって」


「さぁご飯デスよ。」


べるでが作った、フキノトウを刻んで炒めたものに、鹿のコンミートを混ぜ、

唐辛子で風味付けをしたものをトルティーヤで巻いたもの。

それと、じいさんが作った、豆の煮込みにベーコンが入ったものが今日の夕食だ。


「おぉ、このトルティーヤ・・・じゃっけ? 中身がぴりっとしてて旨めぇな

こりゃなんじゃ?コショウとも違うようじゃ。 ロハス、お前さんコレ、なんだか判るか?」


「コショウの辛みとは違うな、ふむ。 辛子ともワサビとも違う。

いや、これは初めて食べる味だ ヤオ君、こりゃなんだい?」


「唐辛子って言いますが、この辺にはありませんか?」


八尾の言い回しにアンが肘で脇腹をつついた。


「トウガラシ・・・か、初めて聞くな・・・

じいさん、これ豆に入れても旨いんじゃないか?」


「よかったらドウゾ」

べるでが小さい壺を出した。掌で包めそうな位に小さい素焼きの壺だ。

塩かなにか入れるようなものだろうか?


二人は豆の煮込みに振りかけると口々に辛いと言いながらもスプーンが止まらなかった。


「いや、これは素晴らしい。体が温まる。これは何処で入手したんだい?」

・・・商売人である。


「これはストレ・・・」

八尾が言いかけたところでアンが立ち上がり、よろけて八尾を押しつぶす。


「あたたた、足がしびれちゃった。タケルごめーん」


と大きな声で言った後、八尾の耳元でささやく。

「ちょっとアンタ、余計な事言うんじゃないわよっ」


八尾ははっとして、

「こ・これは、そう前に行き倒れていた流れ者の人を助けた時に、お礼に貰ったんですよ」

とっさに嘘をつく。

人の良い八尾は兎も角、アンはまだ完全にロハスを信用していないのだ。


「そうか、これが入手出来れば、高値で売れそうなんだがな」

ロハスは残念そうにつぶやく。


食後に番茶を淹れて飲む。


アンはロハスの家族について色々聞いていた。

「えぇ、上のお子さん私と同い年なの?」


「嬢ちゃんも15・・・なのか?まじで」

驚いたロハス。そうひいき目に見ても12,3歳ちょっとだ。

・・・アンはちょっと育ってる。


「オネェサマ、お茶お代わりいかがですか?」

べるではじいさんとの料理話にちょっと疲れて、話題を変えてきた。

・・・横でずーっと調味料や味付けの話で二人盛り上がっていたのだ。 


「お義姉さんって、べるでちゃん、君は八尾の妹なの?」

ロハスは誤解する。


「いえ、血の繋がりはありまセンが」


「ヒャッヒャッヒャ ヤオ、お主なかなか、やりおるな。

その年で第二夫人たぁ大したもんだ。

ワシも若いころは既定の三人まで娶ったもんじゃがな ヒャッヒャッヒャ」


この世界では一夫多妻制があり、三人まで正式に婚姻出来るらしい。


「なんだ、てっきり3人は兄妹かと思ってたよ」


うまい事勘違いしてくれて胸をなでおろす八尾とアン。

その横で、べるでは嬉しそうに顔を赤くしていた。


その夜は、荷馬車を屋根にして寝た。

焚火を取り囲んでいるのと、屋根があると言うのが相当違い、少し暖かい。

暖かいと言っても冬の野宿である。多少暖かいと言っても凍死しない程度だ。

べるでは何故かストレージに入らなかったので、川の字で寝た。

焚火側にアン、中央に八尾、外側にべるで。

べるでを中央にしようとしたら、外側が良いと譲らなかった。

それでもいつの間にか馬車の脇にロバが戻り、べるでの横になって寝始めたので

寒さはないようだった。

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