第55話 いざ町へ

夜、熊脂の仕込みを行った。


昨日、スタンじいさんが言っていた薬として売るためだ。


脂身を鍋で煮溶かしながら八尾は考える。


「小分けにする入れ物が無いんだよなぁ なんか良いアイデア無いかな?」


「そうデスねぇ・・・貝殻とか竹の節とかが定番では無いでショウか?」


「そんなの町で売ってるんじゃ無いの?」


「それもそうか・・・あと何か忘れてなかったっけ?

なんか重要な事を忘れているような気がするんだけど・・・」


「重要な事なら忘れないでしょっ ほら、脂身だいぶ溶けたわよっ」

いや、明日出発と言うことをすっかり忘れていた八尾だ、何を忘れているか分ったものではない。


脂カスを掬って鍋を土間の竈に置いた。

暫くすると透明だった脂は白く固まっていった。


・・・

・・・

・・・


そして翌朝である。


早朝から八尾は罠の見回りと回収に行った。

居ない間、獲物が掛からないようにするためである。


そして、いよいよ出発である。


長ルイの家の前に行くと、見送りの人たちが集まっていた。


「ヤオどん、今年与作が15だで、駆除隊に加えて貰おとも思っちょるんじゃが、

どうじゃろ? 奴もハンターに成りたいっちゃ言うとるが、ハンターも銭が掛かるでな

暫く駆除で見習いばすりゃよかろうと言ってやったんじゃが」


「与作は熱心ですからね。良いんじゃないでしょうか?」


「だば、これさ申請書になるだでな、よろしゅうお願げぇするで」


「ヤオにぃちゃ、気ぃつけてな。べるでねーちゃもアンねーちゃも」

ミラの中でもアンの順位が下がっていた・・・



そして一行が手を振りながら村を出ようとしたとき、息を切らせて与作が走ってきた。


「おーい、まってけれー」


一行が立ち止まると、与作は手にぶら下げていたヤマメを差し出すと


「釣ってきただ、今日の昼に喰うてけれ」


どうやら朝早くから釣りに行っていたらしい。全員分の数を釣るのに手間取ってしまったらしい。


「ありがとう、町でお土産買ってくるからな」


「ヒャッヒャッヒャ 小僧、おめえも行きたそうな顔しとるな、

じゃが、まだお前さんは町に行くにゃ早えぇな なぁヤオ ヒャッヒャッヒャ」

八尾は小僧から昇格したらしい。



村を出ると細い道が続く。

ロバに引かせた小さい荷馬車

・・・大八車をもっと細くしたような感じと言えば想像つくだろうか・・・

それがやっと通れる細さである。

道は悪く、デコボコなため、速度も上げられない。

一行はゆっくりと散歩するような速度で移動した。


八尾は大した荷物を持っていない。

ストレージがあるからと言ってしまえば、手ぶらでも構わないのだが、それは内緒だ。

数日間町に行って帰って来るだけである。大した荷物は要らない。・・と思っていた。

竹の背負い籠に軽く着替え等を詰め、腰から剣鉈をぶら下げただけ。

まるで山菜でも取りに行くようなスタイルだ。


だが、この速度では町まで一週間はかかりそうな感じである。


すでに焦り気味の八尾をしり目に

「まぁのんびり行きましょっ」

と散策気分満々のアンが言う。


時折見せる春の山菜を摘まみながら一行は歩く。

と言っても未だフキノトウ位しか見られないが・・・


「ロハスさんは何時からこの商売をやってるんですか?」


「う~ん シヤルスクに越して来てからだから、ざっと15年位かな」


「町の生まれじゃないんですか?」


「俺はもっと東の町の生まれなんだ、15の時に家を飛び出してあっちこっち放浪してさ、

ちょうどハタチの時にシヤルスクで商売を始めることにしたんだ」


「ヒャッヒャッヒャ ヤオ、こいつは自分の店を構えたくて働いてたんじゃがな

シヤルスクで今の奥さん見つけてな 大変だったんじゃぞ ヒャッヒャッヒャ」


「じいさん、余計な口きかないでロバを見てろ ほら後ろの奴が道草喰ってるぞ」


「ヒャッヒャッヒャ 身売りされてきた娘見てな、一目ぼれしおってな。

大騒動の上に有り金はたいて借金までして身請けしおったんじゃよ ヒャッヒャッヒャ」


「じいさん・・・」

ロハスはこめかみを押さえてしかめっ面をする。


「おかげで、ようやく店を持てたのは・・・ええと4年?5年?前じゃったかなぁ」


「へぇ~ 情熱家だったのねっ」

「すごいデスわ。ロハスさん」

・・・こーゆー話になるとアンもべるでも割り込んでくる。


ロハスはしかめっ面をしたまま、一言も口を利かないで黙々と歩いた。

・・・照れ隠しであろう。


その後もじいさんの話は続いていった。

話の主役のロハスを置いて・・・



昼頃、河原で小休憩をした。


ロバに水を飲ませるのと、餌を食べさせるためだ。


流木を集めて火を付ける。

与作の釣ってきたヤマメを串に刺して火にかざす。


八尾は鉄鍋を取り出し、さっとフキノトウを湯通しする。

鮮やかな緑色になったフキノトウを熱いうちに刻んで

熊脂で炒める、そこに味噌と砂糖を少々入れて混ぜる。


砂糖はスティックシュガーである。八尾はコーヒーに砂糖を入れない。

が、コンビニで100円コーヒーを買う際に何時も1つ2つ貰ったものを部屋に置いてあったのだ。


フキノトウ味噌である。


水で晒す時間が取れなかったので苦味がほんの少し強いが、採れたてだけに余り気にならない。


これを朝握ってきたオニギリに付けて食べる。

冷えたオニギリに熱々の味噌が合う。

ヤマメも旨い。流石にサビが出て痩せているが新鮮なヤマメである。

心なしか味が深い気がする。


さっと食事を済ませると、一行は再び山道を歩きだした。

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