第54話 ヒヨドリは旨い
狩猟用の矢じりが出来上がってきた。
ゴンの会心の作だ。
狩猟用の矢じりは凶悪である。
銃と違い、衝撃波で組織を壊すことは出来ないので、周囲を切り裂くような形となる。
つまり刃物なのだ。
戦闘用では無いので返しを付けて抜けないようにする必要は無い。
刺さったときに周囲を切り裂いて血管を傷付けるような形だ。
矢じりは中央に鉄の心棒、それを取り囲むように3本の刃があり、
横から見ると紡錘形をしている。
べるでが試しに米俵を射る。
深々と刺さった矢を抜くと矢本体の中心として直径5センチ程の切れ目が入った。
「完璧デス。ごんサン」
べるでは満足そうだ。
「べるでちゃんよぉ、練習が出来なきゃ話になんねぇべ?
重さをそっちと合わせた練習用も作っといたで、うんと練習さするが良いさ。」
練習用の矢じりはちょっと太目だ。先端はとがっているものの刃はついていない。
これでも、もし刺されば大けがをするだろう。
「ありがとうございマス。ごんサン」
「凄いわねぇ、ゴンさんっ なんでも作れるのねっ」
「ありがとう、ゴンさん これで罠の獲物も遠くから止められるから安心だよ」
「なんのなんの。こっちこそ、おめさが駆除ばしたけ、安心して種まき出来るだよ」
さっそく畑に出て練習を始める八尾達。
与作もべるでから作り方を教わったらしく、結構良い弓を持ってきた。
一体型だが、ハンドルは木、リムは竹と木のハイブリッドだ。
アーチェリーっぽく出来ている。
「ヤオにぃーちゃ、おらもこれでやるだ」
ちなみに矢は、八尾達のを含めて、シノ竹で作られている。
流石にカーボンシャフトやアルミシャフトは、人目にさらすのが躊躇われる。
よって練習もそれで行う。
「ねぇタケルっ、クロスボウは作らないの?」
「トリガ周りがなぁ・・・結構難しいんだよ。
ちゃんとロック出来なきゃ危ないし、キツイと撃ちにくいし」
「ふーん なんか面倒くさそうね
でもハンター試験の時は中てないとダメなのよね?」
アンは既定の距離にある的を射るのはかなり難しかった。
弓が弱いのである。 だからと言って強い弓は体力的に引けない。
「まだ試験には時間がありマスので、何か考えまショウ
兎に角練習あるのみデス オネェサマ」
一行は昼まで練習をした。
なんやかんや言ってもアンは米俵に収まるよう射れるようになってきた。
多分右手の放し具合が判って来たのだろうか?
ふと森を見ると、一本の木にヒヨドリがやって来ては他の木に渡って行くのが見えた。
暫く眺めていると、その一本の木は中継地のようで、次々に飛んで来て留まっては
他に飛んで行くのを繰り返していた。
「なぁ、あのヒヨドリは難しいかな?」
「随分小さいわねっ それに速いわよ?」
「ちょっと狙ってみないか?」
いい加減、同じ的を射るのに飽きてきた一行は畑の端に陣取る。
ヒヨドリは無言で飛んでくる。
そして「ピーヨ、ピーヨ」と鳴きながら飛んでいく。
枝に止まっているのは、ほんの10秒足らずだ。
枝までは15メートルぐらいだろうか?
矢先を確認する八尾。このまま撃つと矢は森の中に飛び込む。
下手をして木に刺さると回収が難しい・・・
八尾は空気銃を取り出した。例のエ〇スハンターである。
この時点で、弓の練習などと言うことは、皆すっかり忘れ去っている。
15メートルだ、さしてポンプは必要ない。
スコープを6倍、フロントリングを回して15メートルにピントを合わせる。
5回ポンプして、弾を込めると木の根元にある落ち葉を狙って撃った。
弾は目盛り2つ程上に着弾した。
・・・異世界だから出来る確認方法である。
・・・もう一度言っておこう、日本じゃ無いから出来るのである。
そしてまたポンプして弾を込めた。
15メートルとは言え、相手も小さい。
またじっと止まっているわけでもない。
タイミングが重要である。
暫く待つとヒヨドリが枝に止まる。
枝は上下に揺れる。
キョロキョロと辺りを見回すヒヨドリ。
スコープの中でクロスから二つ上の目盛りに頭を捕らえる・・・
その瞬間、八尾の空気銃が・・・空気を吐いた。
バシッー
弾はヒヨドリの頭に吸い込まれていく。
ポトッ
力なく落ちたヒヨドリ。
頭に中ったヒヨドリは即死して落ちる。
外してしまえば、無傷で飛んでいく。
下に外せば体に中るので、大体捕れる。
肉に傷が付いたり、半矢の回収が大変だったりするが・・・
「あたしもやるっ」
横からアンが銃を奪い取る。
キュゥッ、キュゥッ、キュゥッ、キュゥッ、キュゥッ・・・カタン
5回ポンプしてレバーを閉じる。
アンの力でもなんとか5回ならポンプ出来るみたいだ。
「重いわねっ これ」
意外と重い。約4キロほどになる。
構えようとして気が付く。
体が小さいのだ。
スコープを適正位置から覗こうとすると、銃床を肩に付けられない。
アンは銃を米俵の上に置くと肩付けしないでスコープを覗く。
ヒヨドリが来る。
今だっ が発砲しない・・・
「タケル、これセーフティ掛かって無い?」
そう、セットトリガはセットしないと引き金を引けない。
それ自身がセーフティなのだ。
トリガ前の小さなレバーを前に倒すことを教えると、再びヒヨドリを待つ。
直ぐに飛んできた。
バシッー
そのまま、何の抵抗もなく自由落下するヒヨドリ。
落下を始めた瞬間、すでにそこに命は無い。
「あたったっ!タケル、あたった!」
・・・宝くじではない。
落ちたヒヨドリを拾い上げると、その小さな体に蓄えられた暖かさが手に染みる。
小さな体だが、鹿や猪と同じ命を頂いたという実感が伝わって来る。
そう、命の重さは一緒なのだ。
考えて欲しい、「お腹一杯だから、もう要らなーいご馳走様」 と残された食材も
元は生きていたのである。この一羽のヒヨドリを殺して大事に頂く事と、買ってきた
肉を残して捨てるのと・・どちらが残酷な話なのだろうか?
その後、べるでと与作もやってみたいとの事だったので、撃たせてみることにした。
後半は撃ち方が雑になったのか、外したり、半矢にしてしまい、森を走って逃げ回る
ヒヨドリを追いかけまわしたり・・と大変であった。
日暮れまでに40羽程捕れた。
与作に10羽、ついでにゴンにも5羽持って行ってもらうことにした。
もちろん丸のままである。皆それぐらい捌けるのである。
家に帰り捌く。
先ずは羽を毟る。
ヒヨドリの皮は薄い。 無理して羽を毟ると皮が破けてしまう。
丁寧に羽が生えている方向に、根元を押さえながら抜いていく。
羽の下の羽毛も丹念に毟る。 脇の裏とかもちゃんと抜く。
無駄毛は忘れがちなので綺麗にしておく。
囲炉裏の火でさらっと炙れば残った細い産毛は綺麗に燃える。
かなりな手間なので、みんなでやる。
続いて、足、首、を切る。包丁で簡単に切れる。
お尻の辺りに切れ込みを入れたら指で内臓を掻きだす。
小さな小さな心臓と砂肝、レバーは別に集めて置く。
内臓を取った後、水で良く洗っておく。
ハツやレバーは水に漬けて血抜きをする。
砂肝も面倒くさいが・・半分に割って内側の分厚い膜を取り除いておく。
そして、数羽ほど、背中から開きにして串に刺す。
また、数羽は包丁で叩いて骨ごとミンチを作る。
ミンチに成ったら少量の塩とつなぎの小麦粉を入れて練る。そう、つくねだ。
残りは一度お湯で湯がいたあと、再度水から煮ていく。
途中で米を入れて鳥粥にする。小さいが非常に良い出汁がでる。
鳥粥が出来あがるころ、丸で入れたヒヨドリを取り出し、ナイフで肉をほぐす。
そして、肉だけ粥に戻すのである。
もし数が少なかったら、冷凍庫に入れて貯めるのも良いが
スープにすると良い。非常に良い出汁がでる。
そして、出汁を取った後、身をほぐしてサラダに乗せて鳥サラダとすると
一羽二羽でも結構家族で楽しめる。
大量に取れてヒヨドリ祭りとなるのも良いが、狩猟に行った土曜日の夜に
捕れた獲物を家族で分け合って食べるのも、また良いものである。
「タケル?なんか忘れてない?」
「?」
「マイロード、明日は町に向けて出発デスよ」
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