第53話 シヤルスクの町って・・・

「シヤルスクの町・・・ですか」


夕食にロハスたちを誘った。

ちょうど昼前に行った見回りで雌鹿が一頭取れたので、食べようと。

長、ルイの所にもシンタマを一つ、お土産で持って行った。

ひょっとするとミラに聞かせたくない話が出るかもしれなかったので、気を使った八尾だった。

だが、そこはミラである。

八尾がうっかり漏らした「コンソメスープ」と言う響きに惹かれてついてきてしまった。

・・・今更帰れとも言えない八尾であった。


夕食のメニューは

背ロースのステーキ、トルティーヤにソーセージとインゲン豆のリフライドビーンズ、それと、鹿のコンソメスープこんそめ ど じびえだ。


鹿のコンソメスープ これは鹿肉を塊のままシチュー用に茹でる。

火を通すのが目的なので、なるべく大きい塊のまま、鍋にぎっちり入れて茹でる。

部位は筋っぽいところが良い。すね肉が大量にあれば一番良い。

もったいないが猟期中は背ロースだろうがシンタマだろうが冷凍庫を空けるために何でも片っ端から入れる。

お湯が沸き火が通って来ると、鹿肉はだんだんと小さくなっていく。

そして盛大に灰汁が出る。 それを放置してどんどんと沸かす。

鹿肉は2/3程度になる。 

肉は取り出した後、一度水で洗って少々付いている毛などを洗い落とす。


肝心なのはゆで汁である。

塩を一つまみ入れて、ちょっと時間を置くと灰汁は底に溜まりだす。

上澄みをお玉で掬って別に取る。 残りは綺麗な布巾で濾す。

すると綺麗な琥珀色の液体が残る。

これに醤油を少し入れて味を調節すれば完成である。


玉ねぎは要らない。ニンジンも要らない。甘みは鹿が出す。

コショウは黒コショウを少々。

これだけで十分である。 コツはガッチリ肉を使ってしまう事だ。


前にセロリを少々入れたが、これは結構いけるかもしれない。

コンソメとしてでなく、豆や雑穀やパスタなんかを入れて煮込んでも旨い。

もちろんその時は玉ねぎも人参も、あればジャガイモも入れても旨い。


残った肉は薄切りにして、辛子醤油で食べても旨い。

もちろんサイコロに切ってカレーやシチューも旨い。

コンソメの出し殻だが、固まりで茹でる為、味がちゃんと残るのである。


と、言うことで、食事を済ませた八尾は本題に入った。


「シヤルスクの町について教えてください。たしかロハスさんは町にお店を構えているんですよね?」


「シヤルスクの町・・・ですか」

ロハスはちょっと考えて話を続ける。


「ここから東に行くと、広い草原地帯に入ります。その中にシヤルスクの町があります。

町は北と南で分けられて、北が行政地区、南に・・・歓楽街が広がっています」


「か、歓楽街ですか」

と思わず訊いてしまう八尾。

・・・八尾、そこは突っ込むところじゃない。軽く流せ。


「まぁ歓楽街と言っても、居酒屋からお茶屋、奥まで行くとお風呂屋さんなどが立ち並んで居るぐらいで。」

ロハスは大人なのでミラに判らないように説明する。


「北と南は大きな塀で分けられてまして、行き来には真ん中にある大きな門を通る必要があります

行政関係は全て北にありますが、北の宿代はみな高いです。その代りいい宿ばかりです。

南は安いのですが、まぁピンキリ・・・ですかね」


「治安なんかはどうなんでしょう?」


「概ね・・良いかな。北は番所があちこちにあるし、南は・・けっこう地回りが居まして・・・」

南でトラブルを起こすとガラを押さえられたリ、解決料を取られたり・・と・・・


「結構大変なのねぇ。で、お勧めの宿とかはあるのかしら?」

観光する気満々のアンが口をはさむ。


「お勧めの宿ですか・・・南の大門のそばに観光用の宿がいくつかありますよ。

食事はついてませんが、部屋単位の宿泊料で場所から言うと格安で泊まれます。

もしよかったら紹介しますから、町までご一緒しませんか?」

八尾に取っては願ったり叶ったりである。

また、ロハスにしてみれば、道中の野宿で獣から身を守れるということでお互い利益があるのだ。


「それは有難いです。ではお願いします。」


「ヒャッヒャッヒャッ そいじゃ道中はべるでちゃんの旨い飯が喰えるみたいじゃな」

じいさんは目を細めて笑う。


「ロハスのおっちゃん。おらさ働くとこはどんなだべか?」

話がひと段落した所でミラがいらんことを訊く。


「え・え・ええとね。ミラちゃんが働くところね・・

ええっと・・そう、おっちゃんな、詳しくは聞いてないんだ。

たしかお花がいっぱい飾ってあって綺麗なところって聞いたっけ・か?

なぁヤオ君」


「え?えっと、うんそうそう、お花が飾ってあるって聞いたな、

うん、そうでしたよね。ロハスさん」


必死で誤魔化す二人・・・


「そうかぁ おらが働くとこば、お花いっぱいかぁ~ 綺麗なんだべなぁ」

夢見る少女と、誤魔化して視線の行き先がなく、見つめあう おっさんと元おっさん。


「お茶がはいりまシタよ。」

べるでは食事の後片付けを終えて、お茶を入れてきた。


お茶請けはトルティーヤチップだ。


「ヤオ君、この揚げ脂は・・猪・・・じゃないね?

なんだろう、木の実の風味が凄いじゃないか」

意外と口が肥えているロハス。


「あぁそれは熊の脂の残りを使ってます。」


「熊の脂! それは贅沢な」


「ヒャッヒャッヒャッ 小僧、知らんか?熊の脂ちゅーたら薬じゃからな

ほんの指先程度で一銀位で売れるんだぞ あればあっただけ飛ぶように売れるわい

お主、町で売りゃ宿屋なんぞ選び放題じゃわ ヒャッヒャッヒャッ」


熊脂は高いものだったらしい・・・

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