第52話 シヤルスクのハンター試験は年3回?

熊の買い取りは出来なかった。

何でも物と交渉次第と言う事で、町に行き、幾つかの店を回って交渉した方が良い、との事だった。

ロハスは物々交換用として大量に仕入れた穀物のおかげで、買取資金が無かったのかもしれない。


村人によって冬の間に作られた籠等は、小さな荷馬車に山ほど積まれた穀類と交換された。


「やれやれ、やっとロバ共も楽になるわい」

スタン爺さんは独り言をこぼす。

何でも、荷物を積み過ぎてえらい苦労だったと言う。

泥濘に車輪を取られる、車軸は折れる、ロバは休みたがる、と散々だったようだ。

普段は、籠や毛皮のように嵩張つた物が多いのだが、不作の話しを聞いて穀物を仕入れて来たらしい。


「大体ロハスは老人の使い方が荒いんじゃ

自分は何にも出来ん癖に、あれやれ、これやれとな

おいロハス、聞こえてるか?」


「全くじいさんには敵わねぇなぁ。

あぁ言って置きながら、労ると「年寄り扱いするな」って怒るんだぜ」


ロハスが八尾に言う。昨日の宴会でかなり打ち解けたらしい。


「当たり前じゃ。ワシを年寄り扱いするなんぞ10年早いわ、

この、ひよっこめ ヒャッヒャッヒャ」

さっきまで何か言ってたが・・・


「しかし、ヤオ君はその年でハンター試験か、若いのに凄いな。

そう言えば申し込みが多くて、今年も夏前にも試験が有るんだよな」


「えっ年2回じゃ無いんですか?」


「確か春の種まき後位に一回増やして、それでも申し込みが多くて締め切りも早くなったと聞いてるぞ」


ダルが聞いて来た話は、ハンターギルドの偉いさんに聞いたので、情報が古かったのだ。

役場で聞けば最新の情報が入手出来たと言うのに・・・

・・・ありがちな話なので注意したいところだ。


なんでも、申し込みが3月から、試験は5月の頭にあると言う。

申し込みには役場に本人が行かねばならず、その場で目と耳の検査があると言うのだ。

まさかの端末情報まで古いとは・・・

申し込みが3月頭だともう準備しなくてはならない。


その後、肉の類を買い取ってもらった。


猪がキロ3銀(3千)、鹿がキロ2銀、干し肉はキロ5銀だが干した分だけ軽くなるので結構安い。

ジャーキーはコショウが振ってあったため、高くて買い取れないとの事だった。

町で売れば良い値がつくかもしれないと・・・

全部で1両と1クオタ金、1分金(13万5千)になった。

合わせると6両と1クオタ金、1分金、4分(63万9千)だ。


そして、町で着られているような春物の服をそれぞれ二着、それと小物、

雑穀に豆と味噌を購入すると、差し引き5両と2クオタが手元に残った。

豆と味噌はほぼ無理やり売りつけられた。

欲しかったんだろ・・と。夕べの宴会で八尾がこぼしたのだ。

どうやらロハスの手持ち現金は、それしか無かったようである。

じゃぁと八尾はちょっと交渉して、おまけで醤油を貰った。

・・・交渉にもならない交渉である。


ロハスは、あと数日間は村に滞在する、との事だった。

足りないものがあれば何時でも声をかけてくれ・・と商売っ気たっぷりである。

ちょっとでも現金を取り戻したい感じだ。


異世界での初めての稼ぎを現金で貰って家に帰る八尾であった。


「ただいま。買取してもらったよ はい、コレお土産」

二人に服を渡す八尾。

「結局、差額は5両ちょっとになったよ」


「マイロード、ありがとうございマス。町ではこんなオシャレな服を着てるんデスね」

べるでは、黒いローブを着の身着のままにしていたので、嬉しそうに言った。

黒いローブも割と気に入ってはいるのだが・・・


「タケルありがとう。わぁ可愛いわねっ」

アンは今まで旧アンの古い服を着ていた。自分から自分へのお下がりである。

それはこの村では割とオシャレさんなミラと比べると見劣りがするもので、

ちょっと気にしていたのであった。


二人に選んだのはロングのスカートと襟付きシャツ、それにベストがセットになったもの。

それと同じようなズボンのセットだ。これはこの後、町まで移動することも考えてだった。

色違いで4着。もちろん色違いと言っても草木染らしく、淡い感じのパステルっぽい色合いだ。

そして、自分にはロハスが履いていたのと同じようなジーンズ、それとシャツを買った。


気を良くした二人がファッションショーを始まる前に、八尾は今後の話をする事にした。


「と、言うわけで、どうやら直ぐに町に行って申し込みを出さなければならないのと、

その後、5月の頭には試験があるらしいんだ。

試験は3人で受けよう、誰でも撃てるようにしておきたいんだ。」


「じゃぁ、一度町に行って、戻って、それでまた行って試験なの?タケル?」


「町での宿泊費って結構高いみたいなんだよね。

ダルさんも町の外で野宿してたって話だし

とりあえず、試験の申込に一度行くとして、

・・・後の試験前は何時から行くか考えないと・・な」


「そうね、種まきもやるって話だものね。」

アンは目覚めた時に抱えていた種籾を思い出した。

そう、これは蒔いて育てなければならない。旧アンの為にも


「マイロード、私も受けるんデスか?」


「うん、なにか合った時に仕留められないと危ないしな。

試験代も講習費もそんなにしないみたいだし」

と言っても試験代が5銀(5千)。講習題は1分金(1万)である。

3人分だと結構な額だ。


価格と言えば・・・借金だ。借金返さないと・・・

「そうそう、例の残金のマイナスなんだけど、コレを入金すれば良いの?」

一両金貨を出してアンに聞く八尾。


「そう、ストレージに入れた後、入金を選択すれば大丈夫なハズよっ

一両がちょうど10万になるわっ」


「マイロード、ちょっとお待ちくだサイ。」

べるでは一両金貨を持って眺める。そして、手の中で転がして重さを見ている。

そして・・・手に持った一両金貨を曲げた。


「ちょ、べるで、あんた、なにしてんのよっ!」

慌てるアン。


「オネェサマ、これ純金で重さが一オンスですから、地金で入金した方がお得デス。」

金一オンス、金はトロイオンスなので31.1035gだ。

現在の価値でざっと13.8万になる。 ・・・・高くなったなぁ・・・


この世界に貨幣損傷等取締法などない。いや、あるかもしれないが、誰も見ていない。

証拠も残らない。 ・・・やっておしまい べるでっ。


べるでは、金貨を土間の石に置いて、玄翁げんのうで叩き潰す。

そして、四角くなった金をストレージに放り込むと「換金」そして「入金」を行った。


「マイロード、換金手間賃が引かれて13.5万入金出来マシた。」


「ちょっと待って、べるで、あんた「換金」ってなによ「換金」って」


「マニュアルに書きませんでシタっけ?オネェサマ?

貴金属類は換金対象デスよ」


裏技だったらしい・・・


ま、とりあえずこれで残高はプラスになった。

ホッとする八尾であった。 ・・・残高マイナスは精神的にキツイのである。

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