町に向けて

第51話 商人ロハスとスタン爺さん

二月も末に近い、昼さ・・

「ヤオにぃちゃー、ロハスのおっちゃんが来ただよー」

引き戸を思いっきり開けるミラ。


・・・相変わらずのミラである。

・・・せめて最後まで書かせてほしい。

・・・ええと


二月も末に近い昼下がりだった。


先日、ついに資金が底を着いて米が取り出せなくなった。

米がもう残り少ないことは話していたので、米だけでなく、肉、トウモロコシを

ギリギリまで節約して食いつないでいた。

八尾も最近は、肉とトウモロコシがメイン、それとチョットの山菜を食べていた。

しかし、もう少しすれば春の山菜も芽吹く。

元に気の早い山菜類は、ほんの少しであるが生え始めていた。

なんとかこれ以上の飢え死には出さずにすむかもしれないと言う状況だった。


そして、ミラが飛び込んで来た。・・のであった。



「やっと来たか」


待ちに待った行商人である。

これで毛皮等が売れれば、残高も回復する。

ミラの身請け代・・・忘れているかも知れないが、春にはドナドナなのだ。

・・・本来そっちが目的だったのだが。

・・・残高がマイナスだと気が気でない八尾である。


「うちに居るだで、おどがはよ呼んで来いってー」


売れそうな物のサンプルをかき集める八尾。

べるでのアドバイスにより、念の為、よくある竹の背負い籠に入れて持っていく事にした。


「こんにち・・・」

「ヤオにぃちゃ、来っ・たっ・でーっ」

八尾もミラに負ける。


「おぉ、ヤオどん、ささ、こっちさ上がってけれ」


囲炉裏端に上がると、白髪の小柄な良い老人が喋りだす。

「ヒャッヒャッヒャッ、おまいさんがヤオさんか。

なるほど、人の良さそうな面構えじゃの

ヒャッヒャッヒャッ」

赤い顔をくしゃくしゃにし、目を細めて笑う。


「いや、これは失礼。私はロハス。ロハス ロドリゲスと申します。

シヤルスクの町で雑貨屋を営んでおります。

こちらの者はスタンと申します。」

まだ30代だろうか?

癖のある茶色の髪をオールバックにして、ちょっとタレ目の二重は眼光鋭く、したたかさを感じる。

襟付きの赤っぽいシャツ、革のベストを着ている、下はジーンズ・・・だろうか?いや、ジーンズそのものに見える。


「あ、お・・私は八尾 猛と申します。ヤオと呼んでください。

この村で有害駆除をしています。」

自己紹介にうっかり名刺をまさぐる八尾。


「ルドヴィックさんから話は伺いましたが、なんでも売りたいものがあるとか」


「そうなんです。見て貰えますか?」


「ヒャッヒャッヒャッ、こぞう、慌てるとロハスに足元見られるぞ」


「じいさん、商売の邪魔は止めてくれないかな。

いや、すまない、このじいさん口が悪くてな

この村じゃ長く商売したいから、あくどい真似をする気は無いよ」


「・・・ロハスさんは毛皮の買取はされてますか?」


「毛皮・・ですか。えぇやってます。今年の相場ですとこんなものですかね」


ロハスはリストを取り出す。

猪が8銀(8千)

鹿が5銀(5千)

狸は1分金(1万)

他にも ヤマドリが2クオタ金(5万)

だそうだ。


八尾は毛皮を取り出す。


「ええと、猪が4つ、鹿が13、狸が1、ヤマドリも一羽分あります」


「おぉ大量ですなぁ。」


「ヒャッヒャッヒャッ、こぞう、こういうのは買いたたかれないように

一枚一枚出して行くんじゃよ。ほれみぃ、ロハスの目の色が変わりよった

ヒャッヒャッヒャッ」


「じいさん、ちょっとは黙っててくれないかな、俺はちゃんと真面目に計算してるよ

ふんふん、ちゃんと塩漬けにしてますね。うん?この猪ですが、ちょっと荒れてますね。

この毛皮は・・半額で良いですか?、お?こちらの鹿は鞣しが施されてますね。

これは良い出来だ、5割増し・・・いや倍出しましょう・・・

おぉヤマドリも丁寧に剥いてますね、これなら剥製になります。

後の物は大体基準通りですね。

ええと、全部で・・・1両と2クオタ金、8銀ですね。(15万8千)」


「はい、判りました。他に干し肉とかも在りますので見ていただけますか?」


「ヒャッヒャッヒャッ、ロハス、もう掛値無しの値段表をだしたれ。

お前さんも面倒じゃろ ヒャッヒャッヒャッ」


「ヤオさん、あなたこの辺りの商売はお詳しく無いのですね。

先程お出ししたリストは交渉前のリストです。本来であれば

ここから交渉して、調整するのですが・・・もう掛値なしで行きましょう

先程の毛皮は全部で2両、2クオタ金、3分金と4銀、4分(28万4千4百)で良いですね?」


「えぇ?そんなに変わる物なんですか?」


ロハスはこめかみを押さえながら言う


「大体、売り手が倍掛けて、こちらが5割から、大体落としどころは半分なのですが、

交渉なしで手間が要りませんから、あと5分おまけした・・・と言う所です」


「ヒャッヒャッヒャッ、だから言ったろう、小僧。ヒャッヒャッヒャッ」


意外と良い爺さんである。


「では、物は家にあるのですが、こちらがサンプルです」


軒先で凍らせた生肉、干し肉、ジャーキ、膠、

あとは猪の胆嚢を干し固めたもの3つ。サイズはビワの実位である。


「これは・・・」


猪の胆嚢を手に取ると窓辺まで出て光にかざす。

よく眺めたあと、ナイフを取り出すとちょっとだけ、ほんの米粒位を切り取った。

そして、湯呑に熱いお湯をはり、破片を落とした。

破片はクルクルと回りながら落ちて行き、徐々に黄色い色がお湯に溶けてゆく。


「混ぜ物無しの猪ですな。これは結構良い値段になります。」


帳面を調べてロハスが言う。


「これなら一つ3クオタ金で買います。あ、一つは乾燥が甘いので2クオタ金にさせて下さい。(20万)」

「あとの肉類ですが、ちょっと味見させてもらっても良いですか?」


大体売りたいものは価格が付いたので、試食してもらうことにした。


尚、値段は異世界価格であり、現世日本における価値で言うと中々暮らしていけるほどと言うのは難しい。

というか無理だ。ジビエブームと言うのもあるが、金になると採り尽くす日本人である。

世間に出回ってしまえば、たやすく絶滅危惧種になるのではないだろうか?


「べるでちゃんか?こりゃ大したもんだな、これだけ薄切りだとわしも喰えるわい

いや、肉なんて久しぶりじゃわい。ヒャッヒャッヒャッ」


「じいさんが飯を作ると何時も豆だけなんだ、肉を食べるのも久しぶりだ」


「なにを贅沢言うとる。人間、豆を喰っとったら死なんわ ヒャッヒャッヒャッ

いやいや、べるでちゃん、このソーセージってのも柔らくて旨いなぁ ヒャッヒャッヒャッ」


「喜んで頂けてなによりデス」


試食のつもりが早めの晩御飯となり、宴会となり、皆腹いっぱい喰った。

八尾はスタン爺さんの作った豆の煮込みが喰えて幸せだった。


実は本気で交渉すれば、基準額が一般的な獲物の価値なので、もっと上乗せが利いたハズである。

八尾は交渉が楽で得した気でいるが、商人と言うものはそうそう甘くないのである。

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