第49話 矢でも鉄砲でも・・撃つわよっ

アーチェリーは物凄くおおざっぱに分けるとリカーブボウとコンパウンドボウの二種類に分類できる。

リカーブボウは普通の弓。

弦を張って無いときには、前方に弓がカーブしていることからリカーブと名前が付いている。

・・・確かそう聞いた記憶が・・・

コンパウンドボウは滑車が付いており、矢をつがえた時に、軽い力で保持が出来るように設計されている。

・・・と言ってもリカーブに比べれば・・であるが。

ハンティング用の強力な弓矢は主にこちらである。

獲物に向けて射るまで、保持する時間が長いのだ。

なお、日本では狩猟法で弓矢による狩猟は禁止されている。


八尾が持っているのはリカーブボウだけだ。

何故か18~40だか50ポンドだかを複数持っている。1ポンドは約450グラムだ。

安いときに輸入したのだ。

ちなみにクロスボウは撃つところもないので興味がなかった。

前側にリムが曲がる奴がカッコいいのだが、見ていただけだ。



先ず的を用意する。

そう、的だ。的がなければ弓を用意しても始まらない。


矢は意外と強い。狩猟用のエアライフルなど目じゃない位に強い。

ちなみに強さで言うと確か和弓の方が強いとか言う話もあったが・・・

比較対象の弓が何だったか判らないので話半分に聞いている。 ・・・調べる気もない。


なので、的は意外と難しい。柔らかければ矢が貫通する、貫通すると矢羽が痛む。固ければ矢が痛む。

古畳などがつかわれているが、ここに不要な古畳などない。

冬の手仕事に使われてしまったので藁すらない。


八尾は考えた。何かよい手は無いだろうか?


「マイロード、昨年使わなかった米俵がありマスが、そこに落ち葉を積めてはいかがでショウ?

他に薪の切り出しで出た切り屑も薫製用に残してありマス。」


直径にして約50センチ、小さいといえば小さいが何とかなりそうだ。


「使わなかった米俵か・・・よしそれで行こう」

用意されていた、が、使われなかった・・のだ。


早速、薪をチェーンソーで切り出した時の切り子を積める。

細長い糸状となっており、ぬいぐるみ用の詰め物みたいだ。

それをみっちりと詰め込んでいく。

重さもそれなりになり、使い勝手は良さそうである。


的が出来上がったら、いよいよ訓練である。


次は弓の組立方だ。


アンは20ポンド、べるでは30ポンド、八尾は40ポンドの弓を持った。

それぞれ体格と体力にあわせている。

最初は基本姿勢を学ぶために、弱い弓で型の練習をした方が良いといわれたのだ。

そんな訳で何セットも買ってしまっていた。


ハンドルにリムを固定する。これは手で締められるネジで行う。

注意点はリムの向きぐらいか?

締め具合でどうのこうの話があるが、初心者なので外れないようにしっかり締める


続いて弦を張る。弦の長さは弓より短い。

弓にストリンガーと呼ばれるロープ状のツールを掛けてテンションを掛け

弓を曲げる。そして弦の上下を間違えないように取り付ける。


そしてサイトの取り付け。これも初心者用なのでざっくりネジを締めて終わり。


いよいよ構えで・・・あ、いや、先に?あぁ装備品を付けなきゃ


まず、腕にガードを付ける。これは射った時に弦で腕が弾かれるのを防ぐためだ。

弦で弾かれると紫色に内出血してしまう。見た目にも痛々しいので必須だ。

あと、女性だとブレストガード、無いと死ぬほど痛いらしい。

もちろん八尾は、そんな物を持ってるはずも無く、べるではサラシを巻いた・・らしい。

残念ながら黒いローブの上からでは違いが判らない。

アン?アンは・・・まぁそういう事だ。


そしてタブ。糸を引く際に指で直接引くと痛いので、革で作られたタブという物を着ける。


あとは・・そう、スリングである。

弓(ボウ・・・弓なのに棒)は基本的に力を入れずに持つ。

初心者は余計な力が入らないように、手を開くのだが、そのまま射ると弓が落ちる。

それを防ぐための紐系な物である。用意が無かったので細引きを輪にして使う。



そして実射。


先ずは矢を付けずに引く。

左手を肩と肩の延長線に真っ直ぐ出す。

左手の肘が外側を向くようにねじる。(腕を反すと言う)


その形で弦が右目の前、手があごの下に来るように引き絞る。

これで右手を斜め上に引き抜くようにして射るのだが、

矢が付いていない状態で空うちすると弦に悪いので、そっと戻す。


さて、型が判ったら実射だ。


まずは5メートルから。

5本ほど射ってサイト(照準器)との差を見る。

このとき5本程度射ってから行う。

5本の真ん中にサイトを合わせていく。


大体合ったら10メートル、15メートルと距離を伸ばして練習していく。

20メートル位になると矢が落ちていくのが判る。

特に弱い弓では矢の速度も遅いのでよく落ちる。

サイトのメモリを覚えておき、どの程度落ちるか実感しておく。


この辺はエアライフルも同じ事をやりたいのだが、国内の法規制はそれを許さない。


後は、距離に応じて練習あるのみである。

特に右手を放す行為は、ライフルで言うトリガを引く行為と同じである。

微妙な放し具合がばらつきを生む。


一回上手く出来れば免許皆伝の少年漫画とは違い、練習は積み重ねである。

それはそれは地味な地味な時間である。

但し、向上心がある奴は、自己分析をし、研究し、次の一発に重ねていく。

それは自分との闘いである。


「もー 疲れたっ。 手に力が入らないわっ」

アンが音を上げる。20ポンドとは言え、小さい体に負担は大きい。


初心者は力を抜けない。余計な力を抜くと言うのは能力なのである。

訓練をしないと身につかない。

何事も基本は同じなので、力を抜く事を覚えれば、何にでも応用が利く。

後は場数だ、場数を踏めばパニック時にも行動できる。 これが経験値だ。

アクセル踏んじゃって、驚いて踏みっぱなしで暴走するようなみっともない真似をせずに済む。


力が入らない状態で続けるのも、力を抜く訓練にはなる。

・・・が飽きっぽいアンである。


「ねーねータケル。銃、撃ってみたい。」


・・・日本では無理である。許可が下りた自分の銃しか撃てない

・・・一部例外があるが、許可が無いとそれも無理、詳しくはWebで。


アンは小さい。最近ちょっと伸びてきたようにも思えるが、小さい。


「撃てるかなぁ・・・」

八尾が心配する。


「大丈夫。大丈夫。誰も居ないし」

・・・いや、そういう問題じゃ・・・

「一回パーンって撃ってみたいのよ。ねっねっ 良いでしょ?」


八尾はちょっと考えて、レバーアクションの410番を取り出した。

べるでがガンロッカーを使うまで、木ねじの壁固定と鍵のおかげで取り出せなかったのだ。

え?なんで弾と空気銃は取り出せたかって?・・・そいつは秘密だ。

取り出すとき以外は鍵は掛けてなきゃいけない。 開けっ放しではいけないのだ。

八尾も、猟に行くときに寝坊して慌てても絶対鍵だけは掛けているはずなのだ。 よね?


まぁそんなこんなで410番が出る。

こいつは12番と比べて弾が細い。薬莢も小指ぐらいの太さである。

その分撃った反動は少ない。

だが、スラッグはスラッグである。普通の散弾よりはよっぽど痛い。


米俵の所から森に向かって撃つことにする。

そっち方向には誰もいない、だから安心・安全である。


畑の縁に薪を立てていく。


米俵・・中身は木くずだが。に銃を乗せ、座った状態で構える。

念のため、肩にタオルを挟んでやる。

レバーを前に倒し、上から一発、スラッグを装填する。

そのままレバーを手前に引き、握りしめる。


レバーが浮いた状態だとセーフティがかかり引き金は落ちない。


狙いを定め、引き金をそっと引く


「バンっ」  「バシッ」


410独特の音がして薪が倒れる。中ったのだ。

20メートル程度の距離であるが・・・


「簡単じゃないの」


続けて撃つ。 次々と倒れる薪。


一度並べ直すと、今度は薬室に一発、弾倉に装填に二発入れて立ったまま連射する。


「バンっ、カシャッ、バンっ、カシャッ、バンーっ、カシャッ」

「バシッ」   「バシッ」   「バシッ」


飛び出した薬莢が落ちる前に次の弾が発射された。

薪は弾かれたように倒れた。

そして最後に、上方に廃夾されて飛んでいる空薬莢を右手で受け取った。


「やっぱ、簡単じゃないの。」


「アン・・・おまえ・・・実の名は・・のび〇って言うんだろう?」


「失礼ねっ。私は丸めがねなんて掛けてないわよっ」

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