第48話 ハンター試験は実射がある?
べるでが竹を囲炉裏で炙っていた。
前に罠のスプリングに使えないか、と切って来た奴だ。
他にも長めに切ったものが囲炉裏の上や軒下に保管されていた。
じわじわと遠火で炙る。
時折、熱が当たるトコロの位置を変えたり、
クルクルと回して、一部分だけ焦げないように気を使っている。
「べるで、今度は何をやってるの?」
「マイロード、な・い・しょデス。」
言い回しに愛嬌があるが、無表情の上、目が真剣である。
おまけに竹から視線も外さない。
一体何を作っているのだろう?
そう思いつつ、八尾とアンは見回りに出かけた。
「もう二月だよねぇ、タケル。
ロハスさん?だっけ?こないねぇ?」
「そうだね、でも手仕事の籠を仕入れに来るって話だから、
もうそろそろなんじゃないかな?」
罠場を見回る二人。
与作は見回りにちょくちょく参加してくる、が今日は来ていない。
たぶん手仕事の材料を届けているのだろうと思われる。
与作は罠を覚えたいと言っていた。
自分でも村を守りたい・・・と。
頼もしい話である。と八尾は思った。
罠の見回りは、掛かってるか?掛かって無いか?だけではない。
足跡を探し、都度獲物の行動を把握しておく必要がある。
つまり、罠を掛けたところだけでなく、猟場全体を見ていくのだ。
ふとアンの視界に薄い緑色の点が見えた。
近づいてみる。
茶色い落ち葉の中から、まるで蕾のような小さな葉っぱだ。
「ねータケル。これなに?なんか生えてる」
「どれどれ、おーこれはフキノトウじゃないか。
もう生えてきたんだ。これ天ぷらにしたり、刻んで味噌と混ぜて食べると旨いんだ。」
八尾が知る数少ない山菜である。
先輩猟師と罠の見回りをしていると、これは喰える、こっちは毒草、似てるから気を付けろ。
と言われたもんだが、なかなか見分けが付かない。
群生しているなかに混ざってたりすると、余計に判らない。
八尾は本で勉強をしていたが、実際に生えているものと比べるのは難しかった。
しかしフキノトウである。
こいつは恐らく素人100人集めても間違う奴は居ない。
似ている毒草もない。
八尾とアンは足跡を見る傍ら、ひょいひょいと拾い上げていった。
もちろん、採り尽くすような真似はしない。
間引くように拾い上げる。・・・大きいものからだが。
帰る頃には両手の平いっぱいのフキノトウが収穫できた。
獲物? 獲物は
三段角になるような大物は、縄張りが奥山なのか、なかなか降りてこない。
奥山に餌がなくなるか、繁殖期になればまた別なのであろうが・・・
だが、中っパのサイズが一番良い。
肉の量も多いし、まだ柔らかい。
先日から八尾はまた、ジャーキを作り出したので、鹿肉が取れるのは有難かった。
猪は・・・猪はまた、罠を避けて通ったみたいだ。
昨日アンがアイデアを出したので、裏をかいて罠を仕掛けてみた。
これで捕れると良いのだが・・・
「ただいまー。帰ったわよっ べるでっ!
ほら、フキノトウがこんなにっ!」
「おかえりなさいマセ」
べるでは、フキノトウを見ると目を輝かせた。
すっと立ち上がるとフキノトウを貰って、洗い場に向かった。
珍しく囲炉裏端を散らかしたままだ。
夕食はハンバーグ定食だ。
ソーセージを作った残りのひき肉を練り直して、猪のベーコンが巻かれている。
付け合わせはフキノトウを刻んで脂で炒めたものと、形そのままに脂で素揚げしたもの。
竹で作ったナイフとフォークで頂く。 ・・・いつの間に作ったんだろう
フキノトウはほろ苦い。 春の味だ。
それに脂の甘みと塩味・・・塩味? 塩味に旨みが・・・
「ヤマメのウルカを隠し味につかいまシタ」
なるほど、味に深みがある。
アンは苦味が苦手らしく顔を顰めている。
それでも後ろに隠れている味を確かめるように、チョビチョビと箸を・・・いやナイフとフォークを進める。
それにしても不思議だ。ハンバーグはハンバーグだ。
ソーセージは同じネタを使っているのにソーセージである。
本来、調味料が違うのだが、まったく同じネタを使っていて違いがでる。
ハンバーグにナイフを入れると、一瞬遅れて中から脂が染み出る。
これは猪の脂だ。
肉汁と言う名の、氷が解けた水や、予めゼリーとして混ぜられてたスープとは訳が違う。
ミンサーでひき肉にした肉に比べ、包丁で叩いたミンチは粒が一定でない。
塩を入れて練ると粘りはでる。余計なものを入れないので固くなる。
だが、風味、噛みごたえは確実に上だ。
口に入れたときも、脂を感じるのは一瞬遅れる。
表面にまぶされた塩と胡椒、このスパイスが舌を刺激した後にくる脂の甘み。
追って来る肉の旨み。 鼻に抜ける鹿の香りを猪が丸めこんで旨くいなす。
肉の旨みは強烈である。
少々焦げ目が付く位に表面が焼かれているので、香りも申し分無い。
噛みごたえ。これもひき肉とは思えない旨さがある。
売られている牛肉で良い。安い輸入の落とし肉でも良い。
一度包丁で叩いてハンバーグを作ってほしい。
端からひき肉だったものより味は数段上だ。
旨い・・・
お皿に残った肉汁はごはんに掛けて喰った。 ・・・・行儀が悪いっ・・がそれもうまい。
「マイロード、ハンター試験についてなのデスが、
第一種については実技試験に実射がありマス。
練習された方がよろしいかと」
「実射?パーンって?」
「いえ、弓デス。 石弓、もしくは弓矢で30メートル先の的に中てるそうデス」
「弓か、アーチェリーでも良いのかな?」
「アーチェリーと言いマスと?」
「洋弓と呼ばれている弓。確か部屋に置いてあったはず」
「え?念の為、部屋で「弓」を探したのデスが・・・」
「あぁ、バラしてあるからハンドルとかリムとかの名前になってるかも」
無表情で愕然とするべるで。
「ほら、これと、これ、 わぁ懐かしいな 18ポンドから40ポンドまで色々買ったんだっけ」
思い出の品をだして喜ぶ八尾と、それを見て顔が微妙にひきつってる・・べるで。
「えーなに?これっ、これ弓なの?ずいぶんとコンパクトね」
ハンドルとリムにばらすと割と小さい。
「こうやって組み立てると。ほら弓でしょ?」
「やーね、タケル。それ反対じゃないの?」
「これは、ストリング・・・弦だね、でこいつを張ると・・えいっっと ほら弓でしょ?」
リカーブボウと言うものである。20ポンド位の強さなら手で簡単に張れる。
「ま、マイロード、実は・・・リールにあった糸を使ってしまいまシタ。」
「え?リールって海釣りの?」
「はい、これデス」
べるでが出したもの、それは弓だった。 そう、朝から作っていたのは和弓だったのだ。
それも八尾に合わせた二寸伸の大弓。
リールに巻いてあったウルトラダイニーマの4号を束ねて弦にしてある。
それに火を入れて固くしたシノ竹の矢。
矢羽はキジが使われていて美しい。
まだ、矢じりは付いていない。きっと酒が無くなったゴンが、今頃必死で注文をこなしているはずだ。
膠が乾いてないので、まだ弦は張っていないが揃えてあった。
真竹を割って乾燥させ。何層にも重ね合わせ作った美しい弓であった。
「え?べるで、これ、俺用に作ったの?」
べるでは、頷く。
言葉が出ない、間の悪い八尾 なにも食事中にアーチェリーなど、取り出す必要は無かったのだ。
「も、貰っても良いの?」
「そのつもりで作りまシタので。」
「ありがとう。大事にするよ」
貧乏性の八尾である。貰っても多分使わない。いや、使えない。
たまに取り出してニマニマ見るぐらいがせいぜいだろう。
べるでは諦めたように言った。
「では、仕上げがおわりマシタら・・・」
翌日から3人でアーチェリーの特訓が始まった。
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