第43話 おら、得る でさ言ぅーの 目ひかんの (メキシコ風朝食)

「さて、トウモロコシも粉になりまシタから、焼いちゃいまショウ。」


べるでは、トウモロコシの粉に水を入れて練る。

固さは耳たぶの柔らかさ、釣り餌と同じ・・・である。


これをゴルフボール位のサイズに丸めていく。

次に小麦を脱穀する杵のようなもので丸く伸ばしていく。


直径20センチぐらいに成ったら、熱くしたフライパンに乗せて焼いていく。

脂はほんの少し、焦げ付かない位の量を塗る。


すこし透明感が出た感じのところでフライパンからおろし、ざるにあけていく。

乾かないように、濡らして固く絞った綺麗な布巾が上に乗せられる。


どんどん作る。


別に用意された鍋には鹿肉をじっくりと塩漬けしたものを、塩抜きしてから小分けにしたものが

ふつふつ、と茹でられている。


トウモロコシ粉のボールを3つ残した。

フライパンに脂をたっぷり入れ、集めてきたセリやナズナを入れて炒める。

昨日集めた残りだ、南側の日当たりのよい斜面に、寒さを耐え忍ぶように生えていたのを集めたのだ。

もちろん全部収穫してしまったら後がない。ちゃんと間引くように集めていった。べるでだもの。


ここにチョットだけ鹿肉の塩漬けを入れて混ぜる。


それをトウモロコシ粉ボールで包み込むように丸める。


そしてフライパンで焼いていく。


鹿肉の塩漬けを皿でほぐす。

塩漬け肉は繊維がバラバラになりつつある。

茹でられたから余計にバラバラである。


粉にした鷹の爪が少しだけ混ぜられる。


先程焼いた円形のシートにのせて巻く。


「よし、出来まシタ。」

「マイロードが喜んで下さるといいのデスが。」


「ただいまー、帰ったわよっ 猪一頭取れたわよっ 後で解体よっ!」

「べるで、ただいま。」

興奮が冷めやらぬアンである。

いいタイミングで帰って来たのはご都合主義と言われると致し方ない。


「おめでとうございマス。マイロード

朝食の用意も今出来たところデス。」


手を洗って囲炉裏に座る。


お皿が出される。

皿の上には薄く焼いたトウモロコシの粉にくるまれた鹿肉の塩漬け。

それと丸められたトウモロコシの粉を焼いたもの。

「べるで、これブリトーと・・・オヤキ?」


「正解です。マイロード。 熱いうちにかぶりついて下さいマセ。」


先ずはブリトーを頂く。


端から齧る。 

口の中にはちょっと粉っぽさが残る皮と端まで入った鹿肉に脂?が馴染んだものが入る。

コンビーフのような感じだ。脂がやんわりと塩味を包み込んでいる。

噛むとトウモロコシの粉が甘く感じる。後から心地よい辛みが伝わってくる。


旨い。


「この辛さって唐辛子?有ったの?」


「マイロードの部屋に鷹の爪と表記されているものを見つけまシテ、

チリペッパーから唐辛子=鷹の爪と理解できまシタ。」

表情は変わらないが、得意気である。


そう言えば、ポップコーンて何って聞かれたな。昔のBBQ用ボックスに少し残ってたのか。

部屋リストで見ると細かくフォルダ分けされているのである。

箱の中までよく見てない八尾である。探し物は、ほぼ曖昧な記憶だよりなのである。


次はオヤキだ。長野名物だ。他にもあるかもしれないが、バイク乗りの八尾には長野名物だ。

齧る。少し脂が多い。じわっと染みる。中には風味の良い山菜が炒められている。

噛めば脂の甘さとほろ苦い山菜の風味、噛みしだくにつれ、脂の甘みがトウモロコシの甘みに置き換わる。

それを引き締める絶妙な塩加減。


「このオヤキ?っていうの? おいしーわね。 贅沢言えばもう少し具が欲しい所ね」


「オネェサマ、もうすぐ春になりマス。そうしましたら食べ放題デスよ。」


ブリトーも旨いのである。鹿肉の塩漬けのコンビーフいや、コンミートである。

それをトルティーヤで包んでファヒータにしたのである。不味いわけがない。

八尾が昔メキシコに行ったときは、言葉が全く通じなく、日本語で

「おっちゃん、このフジタのブリトー、ぽるふぁぼーる ドスね」

と言って通じていたのだが、そりゃメニュー指さして指二本立てれば大抵判るのである。


「これで豆を煮たのが付けばパーフェクトなんだが・・・」

つい口に出してしまった八尾。


べるでは、表情が見た目変わらないものの、僅かに、ほんの僅かに悲しそうな顔をした。

「申し訳ありません。マイロード」


「いやいや、べるでが悪いんじゃないよ。これはこれで凄い美味しい。

いやいや、ホント、ほんとに美味しい。

無いものねだりだったよね ごめん。」

慌ててフォローを入れる八尾。


しかし無いものだからこそ欲しいのである。

その希望というか欲望は果てしない。

だからこそ生まれる向上心なのである。

頑張れ八尾、うずら豆を入手するその日まで、そのあとは玉ねぎとニンニクも欲しくなるぞ。

最終目標はアボカドだ。 ・・・まぁちょっと無理だろう・・・


二つ目のブリトーを頬張って満足気にしている八尾を見て、

べるでは、ほんの僅か、気が付かない位であるがほほ笑んだ。


食後に番茶を飲む。

ほんの僅か30分程の食事であるが、旨いものを食べる。食べて喜ぶ姿をみる。

幸せなひと時がそこにはあった。




のである。

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