第44話 けっこうリアルな猪の解体
畑に行くと既に村人で溢れていた。
溢れていたと言ってもゴルノ村である。たかが知れている。
長、ルイが出てきて礼を述べる。
「やぁやぁ、ヤオ殿よぉやってくれた、よぉやってくれたのぉ
これで亡くのうた村の衆たちも浮かばれるじゃろうて」
「いや、まだ後これと同じ大きさが2頭、もうちょっと大きいのが1頭いるみたいです。
そいつらもこのまま捕まえちゃいましょう。」
「そうじゃ、奴らは沢山おったでな、よろしゅうおたのみもうすぞ。
あとでな、捕獲確認書を書くで、夜にでも家さ寄って茶にでもすべ。
それを町の役場さ持っていけば報奨金が降りるでな。」
「報奨金が出るんですか!?」
「そうじゃ、猪なら中金貨2枚じゃ、年間5頭までじゃがな。
その後は小金貨1枚になるじゃ。その尻尾を確認書につけて出すんじゃ」
中金貨2枚で約5万である。 最初の5頭までである。・・・異世界の話だが生々しい話である。
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まず畑の木から下し、川まで引きずっていく。何人もの村人が手伝ってくれる。
川に沈めて洗う。水は冷たい。手を切るような冷たさだ。
何人かが意を決して膝まで浸かって洗う。
泥が毛の間から川に溶けて下流側が濁る。
特に足回りと腹を丹念に洗う。
密集した毛からは枯葉なども出てくる。
その間にたき火を焚いてお湯を沸かしておく。
箱を二つ置いて、戸板を乗せ簡易解体台を作る。
「ヤオどん、この上で捌くんだか?
戸板つかうなら、おらのとこに余ってる雨戸があるだよ
これより頑丈だて、今ひとっ走り持ってくるだでな。
そじゃ、この戸板はおめさ家に戻しとくでな」
ヤハチだ、面倒見が良いおっちゃんである。
興奮しているのか、まくし立てるとそのまま戸板を担いで坂を上っていった。
狭い村である。すぐに戻って来る。与作が雨戸の後ろを担いできた。
「ヤオにぃーちゃ、ありがとうございます。
これで春の種まきさ安心して出来るべ。」
「いやまだまだ残ってるからな。安心するのは早いよ」
喋りながら雨戸をセットして解体台が完成する。
水から引き上げられた猪が台の下に置かれて、解体の開始である。
やり方は色々ある。各地で異なる作法がある。
八尾はビニール手袋をはめて、モ〇ラナイフの刃をお湯にくぐらせて消毒した。
先ずは尻尾を掴み持ち上げてもらう。
指で肛門を掴んで心持ち引く。
刃の先端を粘膜と皮の間に入れて、括約筋を切っていく。
直腸を切らないように慎重に刃先を進め、全ての筋肉を切る。
そうすると直腸は少し引き出せるようになる。
ちょっと引き出したところで結ぶ。
インシュロック等があればそれで縛っても良い。
タコ糸でも輪ゴムでも構わない。
次に腹を割る。
仰向けにして下腹部に真っすぐ、刃のカーブをあて、腹膜を切らないよう、
尿管を切らないよう、注意しながら皮を割く。10センチ位の長さで良い。
次に腹膜を切るのだが、ここで絶対に腸に瑕を付けてはいけない。
腹膜を切ったら指で腸を押し手は先が当たらないようにしつつ、刃を上に向けて腹膜を切り裂いていく。
肋骨まで行ったら刃をぐっと押し込み斜め上に引き上げるような感じで胸骨を割っていく。
真ん中に当てて行けばモ〇ラナイフでも切れる。このモ〇ラはフルタングでないので、無理は出来ない。
まぁ解体ナイフなど、元々無理をするものではない。
のど元まで裂いたら、そのまま顎の下まで皮に切れ目を入れておく。
肋骨を広げて気管と食道を切る。まるで洗濯機の排水パイプだ。
心臓の裏手に神経やら血管があるので、ナイフをあてて剥がす。
そのまま下に引き、横隔膜を切る。この時も内臓が傷つかないように注意する。
横隔膜が切れたら胃の裏側にも神経やらがあるので、ナイフをあてて切る。
そのままずるっと内臓を引き出す。
この時、膀胱は出来れば縛ってしまいたい。
だめなら尿管をつまんで先に出す。
漏れるとものもの凄く臭い。
血はあまり出ない。横隔膜の上は血が溜まってどす黒いが
胃や腸の色は灰色で、新しいうちは嫌悪感も少ない。
外した内臓からレバーとハツを外す。レバーからは胆嚢も外す。
レバーとハツはそのまま切れ目を入れて水を張った桶に沈める。
胃の内容物を確認する。
何を喰っていたか?それは次の獲物に繋がる情報となる。
ドングリ、藤の実が少々、後は良くかみ砕かれた笹だろうか?
胃はそれほど膨れていなかった。
腸は膜でつながり塊となっているので、それをナイフでちょいちょいと切っていく。
このままでは洗うに洗えない。
細々した作業をしていると横からヤハチが口を利く。
「ヤオどん、それ、おらがやりやしょか?めぇにやったでやり方はわかるだでよ」
有難い話である。
一人でやるとチマチマした作業は長いのだ。
「ほれ、与作、おめも手伝え」
よく見ると二人とも小刀を手に持っている。やる気満々だ。
腸の処理を任せて本体の処理に入る。
ザバザバと水を掛けて中に溜まった血水を洗う。
そして雨戸に乗せる。
脚の付け根から足首まで4か所、体から足方向に刃を上に向けて皮に切れ目を入れる
切れ目から皮と肉の間を刃のカーブに当てるようにして剥いていく。
脚の皮が剥けたら腹も皮を剥いていく。
皮に刃が入りすぎると穴が開き、盛大に毛が散る。なるべく避ける。
脂はなるべく身に残すよう、チマチマ、チマチマと刃を進める。
それでも子猪だけあって、脂は少ない。
脂が少ないのは残念であるが、皮は剥きやすい。
全面皮を剥いたら枝肉を作る。
身を持ってもらい、皮を下して戸板を良く洗う。
綺麗になったら良く拭いて身を載せる。
水分は厳禁だ。肉の持ちが悪くなる。
先ずはモモ肉だ。
内またを上から骨盤に沿って刃を進める。
股関節の周りの筋を切って関節を外す。
その下はお尻の肉だ。
内側に抉れているので肉の取りこぼしが無いように刃を内側に向けて骨盤に沿って切る。
そのまま筋膜にそって切れば後ろ足が外れる。
脚には一部皮が残っているので身が汚れないように注意して取り分ける。
両足が外れたら今度は前足だ。
こちらは関節でつながっているわけではないので、脇から刃を進めるとあっさり外れる。
サイズにも依るのだが、小さいサイズで脂があまりないのでリブはリブとして切ることにする。
その前に背ロースだ。
身を横にすると余り脂の無い背中に一筋、白い所が見える。
セロースとリブの継ぎ目だ。
そこに刃を進めてリブの上に刃を滑らすように切る。
まるで大型の魚を切っている感覚になる。
前の方に骨があるのでそこをよけつつ、背骨にそって刃を当ててセロースを外す。
反対側も同じだ。
内ロースは腹腔側の背骨に付いている。
これも刃を骨に当てるようにして筋膜を切って取る。
これで残りはリブと背骨だ。
肋骨と背骨のつなぎ目にナイフの刃を当てる。
多少力が必要である。
ガリガリガリっと刃を撫でるように進める。
刃先が痛むのはこの瞬間である。
モ〇ラナイフより硬い刃のナイフを使えばさほどでもないが、
直ぐ砥げるのであまり気にしない。安いし・・・
そして力任せに肋骨を開く。
肋骨の腹側はナイフで切り裂いている。
猪はさほどでもないが、大きい鹿だと手を切りやすいので注意だ。
もちろん猪でも注意したほうが良い。
バリバリと言う音と共に肋骨が開く。
更に刃先でつなぎ目を切っていく。
首の肉はスラッグの破片が回ってしまったので、穴を深く掘って埋める。
ついでに背骨を三分割、骨盤とバラシて同じ穴に埋める。
猟犬を飼ってる人は餌にしてしまうそうだ。
背骨なんか一晩で跡形もなくなるぞ との事。
枝肉にしたら台を一度拭く。
「次は骨抜きねっ、頑張ってねっ」後ろで見ていたアンが言う。
見た目・・・美少女である。それが「頑張ってね」と言うと骨抜きになる。
残念だが小さすぎて一部の方以外に、その魔法の言葉は効かない
モモ肉だ。内側から骨にそって刃を進める。
始めたところで、腸の処理が粗方終わったヤハチが来た。
モ〇ラナイフをもう一本だして骨抜きを手伝ってもらう。
モモ肉を解説付きで捌く。
内側から骨にそって刃を進め、間接の周りの筋を切っていく。
脚のほうまで行くとすね肉をのこして肉が判れる。
これでモモ肉は一つの塊になる。
次は前足である。こちらのほうが大変なのだ。
肩甲骨、こちらは外側を触ると骨が縦に通っているのが判ると思う。
そこに刃を当てて、ヒラメを捌くような感じに、もしくは鳥の胸肉を外す感じで
切り裂いていく。裏は花色木綿・・じゃなくて平であるので、そのまま削ぐように
刃を進める。関節を着れば羽子板と呼ばれる肩甲骨が外れる。
そしてその下の骨も外せば肩肉の塊となる。
すね肉も煮込むと旨いのできっちり外す。
これは綺麗にとるとなると結構難しいのだ。
初心者の練習にはもってこいと言える。
骨にそって刃を当て、筋肉の付け根を外していく。
筋膜の所は刃先で割いていく。
鳥の胸肉状で外れれば一人前である。
最後にリブを2本づつ割いて解体終了である。
大きい盆ざるに置いて、長、ルイの家に運んでもらう。
良く洗われた腸も一緒だ。
初の獲物なので、村人みんなで食べよう。
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