第38話 有害鳥獣捕獲従事者証

その夜、長の家に集まるよう知らせが来た。

知らせと言ってもミラとポチのセットだ。


「米の事かな・・・」


既に八尾の端末は残高がマイナスになっている。

どこまで引き出せるか、そもそも残高がマイナスと言うのは気になって仕方ない。


「ヤオにぃちゃ、ダルのおっちゃんが帰って来ただ~」


土間に上がって囲炉裏に手をかざしながらミラが息を弾ませて喋る。

急いできたのだろう、寝間着の上に綿入りの袢纏を着ただけである。


「おぉ、ダルさんが帰って来たか~」


駆除の許可が下りれば、獣を捕まえる事が出来る。

とりあえず毛皮も売れるかもしれない。


二人と一匹は長の家に向かう。月は出て無く、星明りだけの夜だ。

ミラの提灯が急ぎ足に合わせて揺れ、後ろでは二人と一匹の影がゆらゆらと舞っていた。



長の家ではダルが疲れ果てたように囲炉裏端で寝転がっていた。

急いだのであろう、山道を歩かず、尾根をショートカットしたのかもしれない。

着物が所々破け、露出している肌にはひっかき傷が多い。



「おぉヤオ殿、今日はミラも与作も面倒見てもろうて、ほんにありがてぇこってす。

村のもんも久々の魚だで、ほんに皆喜んでおりやした。

そじゃ、駆除の許可が下りたでな、まんず見てやって下され

これが町からの許可ですじゃ」



有害鳥獣捕獲従事者証

法人の名称 ゴルノ村有害鳥獣捕獲隊

住所    シャルスク町ゴルノ村大字ゴルノ字川上1番地

隊長    タキュル ヤオ

隊員    タキュル ヤオ

責任者   タキュル ヤオ 

鳥獣の種類 熊、猪、鹿、狸、アナグマ、カラス、鳩、他田畑を荒らす小動物類、鳥類

目的    管理捕獲(被害防止)

区域    ゴルノ村全域、および周辺の森を含む

方法    箱罠、くくり罠、囲い罠、網

条件    猪、鹿について、第一種の用具使用は止めさしに限る。

      また、村民に危害を及ぼす大型獣に関してはその限りでない。

期間    発効後一年間有効


猪だけでなく他も許可が下りた。

これはダルがハンターギルドと町の役場に掛け合った結果だそうだ。

村の窮状を訴え、年貢まで話を絡めたおかげでトップダウンで降りたそうだ。

お手柄である。ダル。

他にもハンター試験の要項、試験の予備講習等さまざまな情報を持ち帰って来た。

ダル・・・使える男である。



「ありがとう、ダルさん。これで何とかなるかもしれない。」


そう、捕獲した獲物を行商人に売るのだ。 ・・・既に捕獲済みだが・・・


「いやいや、なんのなんの、ヤオ殿の為ならこのダル、町の往復なんぞ屁でもねぇですだ。」


・・・がばっと起きるなり胸を叩いて大口も叩くダル。


「おぉダル、そうだか。ではもいっぺん、今すぐさ、町さ行ってくれるだな」


ダルはえぇ~っとばかりに顎を開いて嫌そうな顔をした。

が、ルイの冗談である。   ・・・そう、冗談が出るほど余裕が出来たのである。


・・・


後はハンター試験である。

予備講習は技能なので、筆記は覚えておく必要がある。

冊子を貰ったので後でよく読もう。まだ時間はたっぷりある。



「そうだ、ルイさん、近々行商人が来ると伺ったのですが」


「おぉそうじゃ、もうじきロハスが来る頃じゃの。今年は少し遅いようじゃがもうじきじゃ」


・・・行商人はロハスさんというのか

「駆除で取った獲物の毛皮とか売れるんですかね?」


「そうじゃの、隣の、また隣の村にはハンターが居ってな、買取をしとると聞いてはおるな

奴はちょっと当りはキツいがの、若いのに中々手広く商売しとるようじゃ」


・・・

・・・

・・・


八尾はスキップして帰った。やろうと思ったのではない。ナチュラルスキップだった。

地に足が付かない状態と言うのが正しいだろうか?

何といっても許可書が下りたのである。待つだけの問題が解決したのだ。

行商人も近く来るという。

・・・途中、足がもつれてこけたのは内緒にしておこう。 暗かったし・・・


家に帰るとアンが待ち構えていた。

「で?、でっ?、どーだったのっ?許可は下りたのっ?」


「下りた下りた、これが許可書 ほら」


「どれどれっ? ほーこれが許可書?」


アンの横からべるでも覗き込む。


「マイロード、おめでとうございマス。これで晴れて罠がかけられマスね」


「タキュルだって~あははは あ、隊の拠点はこの家なんだっ、ほら住所ここだっ

あら?隊員一名?責任者もタケルなのっ? 村長も中々のタヌキなのかしらねぇ?べるで・・」


べるでがピクっと反応したようなしないような・・・


「あぁ、もう夜だけど、掛けてしまおう」 


既に見回りはしている。罠を掛ける場所の算段も出来ている。

罠は買うと高い。

弁当箱形式のくくり罠を八尾は3つ持っている。

実際にくくり罠部分として働くワイヤーは別に購入し、塩ビの水道管とバネ、カシメ器具を

使って使っているが、弁当箱部分は高い。今の八尾には出すのが怖い金額である。

とりあえずストックの3つ、それと別に自作のトリガで2つ。

それを今夜掛けてしまおうというのだ。


八尾は折り畳みスコップを出した。やる気満々だ。


「あたしも行くっ」 

当然、面白そうな事には首を突っ込むアン。


「暗いデスから・・・」 

べるではそう言うと呪文を唱え始めた。


「この世を司る万物の精霊タチよ、仰ぎ乞い願わくは夜を照らし出す一筋の光明なり、

そのお力を持って夜道を明るく照らし導き賜わん 生活魔法::マジックライト~」


「えいっ! これをお持ちください、マイロード」


・・・いや、べるで、それマグライトだから。 単一のでっかい奴にLED仕込んだ・・・

八尾は心の中で叫ぶ。


「あはは、雰囲気あるっ。ぐっじょぶ、べるでっ!」


「ありがとうございマス、オネェサマ。練習した甲斐がありまシタ。」


べるで・・・練習までしてたのか・・・

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