第37話 魚は貴重な蛋白源であり、資源でもある。
午後からは釣りである。
「まずは、竿の振り方から教えるね。」
「「「はーい」」」
まるで子供フィッシングスクールである。
フライはフライラインと言う太い糸の重さを使い、鞭のように振って
飛ばしていくのだ。
竿の振り方は前後に、バスのワイパーのように動かす。手首で竿を振ると竿の先端が自分より
低い位置まで来てしまい、フライで自分を釣ってしまったりするので危険だ。
また、慌てて振ると、先端の細い糸がパチンと音を立てて切れたりする。
八尾は針を付けずに竿を振って、危険な方法を実演する。
皆、熱心に聞き入っている。
「よし、それじゃ針無しで振ってみよう」
振り方を練習する3人、10分もすると何とかサマになってくる。
後は最後の力の抜き加減も重要なのだが、これはフライが付いた重さも関係してくるので
実践あるのみである。
スレていない魚や、常設マス釣り場の初心者向けはこれで十分である。
まぁ常設マス釣り場は最近キャッチアンドリリースする人が増えて結構スレていたりするが。
とりあえず釣らせてみる。色々あるだろうが実践は大事だ。
先ずミラが後方の枯草を釣る。 ありがちである。
それを見ていたアンの振りが早くなって パチン と音と共にフライが消え去る。
与作は何とか無事着水させたが、水面を盛大に糸で叩いた。 まぁ仕方ない。
フライを付け直し、練習すること30分。 その時は訪れた。
「きゃー なんか掛かった。ヤオにぃちゃ助けてー」
・・・助けて欲しいのは魚の方である。
糸は太い、針も返しが付いている。弛ませようが強く引こうが高々20センチ程度のヤマメである。
難しいといえば、手元のフライラインの手繰り方とその処理だ。
適当にしておくと絡まって後が面倒なことになる。
ミラは糸を手繰って近くまで寄せると、魚をごぼう抜きに上げた。
ビチビチビチっ 魚は手繰った糸の上で踊った。
ミラは竿を置くと魚をギューっと握り
「釣れたー」
大喜びである。 魚はすでにキューっとなっている。
魚をオケに入れたら次である。 漁は厳しいのである・・・
八尾も教えながら釣る。
「こうやって、ふわっと落として、流れに任せて流して・・・ほら喰った、そっと合わせて、
こうやって糸を大きく手繰って、魚が寄ったら岸辺から滑らすように抜き上げる。」
釣り方を凝視する未だ釣れていない二人、真剣そのものである。
要領を得た与作はそれから釣りまくる。
アンも数匹釣って、しばし考えた後、淵を狙いだした。大物狙いか!?
いや、なんか竿を振っては考え、振っては考えしている。
ひょっとして美しい投げ方とか考えているのかもしれない。
「タケルーっ、なんかでっかいの掛かった~」
見に行くと竿が引き絞られている。糸は出した分は全部引かれ、リールからダイレクトに
滑りだしていく。
「竿立てて、魚が強く引いたらリールの外側に手を掛けてゆっくり糸出してっ!」
暴れ方が緩くなったらリールを巻く。大物と対峙して、手繰ってある糸が出きったときは
リールを巻いた方が確実だ。素人が手繰って出した糸は魚が走ったときに絡まって切れたりする。
魚は魚体をくねらせて抵抗した。そのつど、魚は淵の奥まで走ってしまう。
長く思えたが15分位だろうか、やっと魚が見えた。デカい。
もう走る元気は無いように見えた。
岸まで寄せられると、もう観念したかのように抵抗を止めた。
アンが足首まで冷たい水に浸かる。 そして・・・魚から針を外した。
「え~っ、アンねぇーちゃ、どうして逃がしちゃうだ?」
「この子はねぇっ、この淵の主なのよ。だから逃がしてやるのっ。」
サイズが大きすぎて調理が大変そうだったからと言う理由は言わない・・・
生存競争に勝って大きくなった個体を残すと種族保護につながると言う話もあるが・・・
アンがそこまで考えてリリースしたかどうかは定かでない。
ファイトして、何か魚と通じるものがあったのかもしれない。
ミラは納得したような納得できないような、不思議そうな顔で去りゆく魚を見ていた。
淵の主はゆっくりと奥に消えていった。
入れ替わりに?べるでがやってきた。
手に大きな荷物を持って。
「マイロード、ちょっと遅くなりましたが、昼ごはんをお持ちしました。」
お昼は握り飯だ。河原の流木を燃やして暖をとりつつ、釣りたてのヤマメを焼く。
暖を取るための焚火は魚を焼くには大きい。焦げ目が付きつつ、焼けていく。
だが、またそれも野趣溢るるものである。
右手に魚、左手に握り飯。行儀悪いが交互にかぶりつく。
ミラが派手にお弁当を付けつつ握り飯を食べる。
与作がそれをつまんで食べる。微笑ましい光景である。
それを見ていたアンも
「タケルにも付いてるっ」
と米粒をつまむつもりがホッペの皮をほんのちょっと。
僅かほんのちょっとだがコレは逆に痛い。
「もー、ちょっとぉっ 動かないでよっ」 ・・・逆切れである。
そんなこんなで食後の休憩をしていると、べるではおもむろに竿を取る。
フライを付け替えているようだ。
投げ始める。フライラインはまるで意思を持ったように宙を舞う。
前後にキャストを繰り返し、軌跡は綺麗な八の字を描いている。
そしてフィニッシュ。糸は音もたてずにフワっと水面に降りる。
先端に付いているのはドライフライと言う羽虫に似せたもののようだ。
水面をゆっくり流れていく。
気が付くと、僅かだが冬の冷たい川面に他の羽虫も流れている。
日陰は凍る程冷たいが、陽が射す一部はほんの少しだけ温度が高いようだ。
水面の流れは均一ではない。
浮いたフライラインは流れの早い所から先に引っ張られる。
そして、フライまで動きが伝わると、フライは引きずられてしまう。
これをドラッグが掛かるという。
水面のフライが流れに沿わず、動き出してしまうのだ。
魚は怪しいと感じて喰わない。
フライを投げる際に糸に弛みを作ったり、S字にしたりとテクニックがある。
何投かすると水面に一つの波紋が生まれた。
魚がフライの下から水ごと飲み込むように喰った。
冬場でも条件さえ合えばドライに喰ってくる。
べるでが動く。針が確実に刺さるよう、必要以上にテンションが掛かって糸が切れないよう
また、魚が餌じゃ無いことに気が付いて吐き出す前に素早く、合わせを入れる。
動作に無駄が無い。
そのまま、魚を暴れさせず、岸まで寄せて抜く。
一連の動作が美しくも思える。
「マイロード、私にも釣れましたデス。」
べるではパーフェクトである。
釣った魚は与作が村に配りたいと言うので配ってもらうことにした。
ミラと与作は竹籠に魚をいれて意気揚々と帰っていった。
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