第35話 あら? べるで?
八尾は座卓だった。
その座卓にはアンが座っている。
やはり広い画面は作業効率が良い。
ただそれだけの理由で在るのだろうか?
まぁいい。兎も角、アンは座って作業していた。
「やっぱり名前は変えられないのねっ。」
べるで、の事である。
「オネェサマ、私は
べるではそう言う。
むしろ、それを気に入ったような雰囲気である。
自分が名前を付けられなかったのが悔しいのか、アンはいろいろと試し続ける。
「あ~やっぱり駄目ねっ。しかた・・ない・・か」
・・・アンは作業が早いが、諦めも早い。
アンは投げ出して、次の作業に取り掛かる。
「お茶でもいかがですか?マイロード?」
私の道路ではなく八尾だ。八尾の事だ。
私道はお茶など飲まない。
「べるで、私にも・・ね」
アンは初めて端末を名前で呼ぶ。
端末に名前を付けようという発想すらなかった。
いや、自分に名前が無かったことすら疑問に思わなかった。
名前を呼ばれて頬を赤らめるべるで、顔はあくまでも無表情だが。
お茶、そのルーツはインドやら中国、ベトナムとされている。
インドにまだ原木があると言う話を聞いた気がするのだが、異世界の事だったかもしれない。
が、既に村には在るらしい。
べるで曰わく、垣根は山茶花ではなくチャノキであるそうだ。
今は冬だが花のシーズンでもある。白く可憐な花が咲くのだ。
まぁ新芽が有るはずもない今は、摘んだ葉をそのまま焙じた京番茶のような物で、癖は有るが馴れると旨いのだ。
むしろ、番茶と言えばこれだろう、位に思う。
番茶は旨い。熱くても冷めても旨い、夏の盛りに飲む常温の番茶も、冬の寒さ厳しい中飲む熱々の番茶も旨い。
キンキンに冷えたのが良ければ麦茶が良かろう。
番茶にべるでの浅漬け、それは最強、至上、極上な取り合わせである。
「べるで、ありがとう。このお茶旨いよ」
嘘だと思うなら、デパートの地下街で、寺町のい〇ぽーどーの京番茶を試して欲しい。
デカい袋でも千円でお釣りが結構返ってくる。
缶入りは高いが。それは缶代だ、通は袋で買おう。
何回か試せば慣れる。そのうち癖になる。
とくに井戸水で冷やした番茶。それを冷や飯に掛けて食べるお茶漬けは癖になる。
そのうちアメリカ等から依存性があるとか難癖付けられないかと心配するぐらいである。
話しが長くなったが浅漬けが・・・も旨い。
材料は冬の寒い時期ではあるが、日向に僅かに生えていた山菜をべるでが探し出してきたものだ。
程良い塩加減と漬け加減は、今まさに食べるであろうことを予測して漬けたの如し、である。
その薄い酸味と塩味の加減は、お茶で流すことを前提としており、口に入れたときの力強さ、
お茶で流された後、ごくわずかに残る香りが計算高く設計されている。
その瞬間、人は陶然となるのである。
漬物と番茶。
緑茶でもほうじ茶でも紅茶でも、況やコーヒーで在ろうはずもない。
番茶、それは人類に与えられた宝である。 ・・・あれ?浅漬けの話じゃ?
八尾は番茶を頂きながら長々を思いに耽った後、ふと、目の前にあるアンの頭をマジマジとみた。
濃い紫色は既に5センチに達している。
遺伝子が替わったからなのか、魂のなせる業なのか、八尾には判らない。
長さも伸びている。新陳代謝が激しいのであろうか?
つい匂いを嗅いだ、嗅いでしまった。
出来心だ目の前に有ったのだ。嗅ぐつもりはなかった。
風呂を、風呂を作らねば。そう強く思う八尾だつた。
「あ~やっぱりこれも駄目ね~」
ぐいっと振り返ったアンと目があった気まずさに、八尾は思わず視線を外す。
「さっきから何をやってるの?」
「体よ、体。この体が元のサイズに戻せないか調べてたのよっ
本来のサイズは今のべるでなのよっ、でこのサイズは本来べるでのサイズなのよっ」
「はぁ、そういえばアンは縮んだんだよな」
アンとべるでを見比べる八尾。
なんかフォローを・・・・
なんかフォローを・・・・
なんかフォローを・・・・
「あ、ほら、でも、どこかにきっと需要が・・・」
ゴンっ 目の前で火花が散ったとこまで覚えてる。
朝、布団で寝ている所をべるでに起こされた。
「マイロード、朝ごはんにしマスか?それとも・・・朝風呂デスか?」
べるでは得意気に言った。
風呂が出来ている・・・
囲炉裏には良く洗われたと思われるアンの姿も・・・。
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