第34話 ヤマメ山菜定食

漁・・・もはや漁と言っても良い位の釣れっぷりだった。

から帰った八尾は魚を裁いていた。

軽く塩をして、囲炉裏で焼いた後、囲炉裏の上に吊るして

燻製っぽくするつもりだった。

井戸は家の裏にある。水を汲んで、ちょっと離れた所で裁いていた。

20匹もいると少々面倒臭いのである。



「や・お・にぃーちゃ、おぃーっす」

けたたましく一気に引き戸を開くミラ。

足元からポチが様子を伺う。


「いらっしゃいマセ、ミラさん」

いきなりで面食らうミラ。


「す・す・スミマセン。間違えましたぁっ」

扉を閉めようとして気がつく、僅か十軒足らずの村である。

間違えようがないのである。


再度閉めかけていた戸を開くと

「えと、えーと・・・ヤオにぃちゃ?居る?」

土間の上がり縁に座っている人誰だろう?

アンはもとよりヤオにぃちゃより年上・・かな?

美人さんだぁ・・・

不思議な黒い服に白い肌が際立っている。

濃い緑色の髪はきっちり真ん中で分けられて・・・後ろでまとめているんだろうか?

まゆも細くて長い。目は一重だが、切れ長で知性的だ。

垢抜けた町っぽい感じに凛としている・・・

私も後何年か経てば・・・成れるかな?


劣等感に似た感じを持って、ちょっとだけ目が下がる。

さらに目が下がる。視線は足元を見ている。

ジャマに成る物はない。アン程では無いが・・・

・・・いいもん、私だって私だって・・・

私も後何年か経てば・・・きっと成れるわよおぉっ


何がどうなのか、は謎である。


「ミラさんデスね。はじめまして、べるでと申しマス。」

「ヤオは今、裏で魚を裁いてマス」        ・・・ヤマメだが


「お魚っ!?」


村の下手に一本の沢が流れている。

村人はたまに網で漁を行うのだが、そこは昨年取り尽くしてしまっている。

春になって新しい魚が本流から遡上するのを待つしかないはずである。


「はい、ご主人様は見回りのついでに釣ったとの事デス

宜しければ見に行かれますか?」


「あっ、はい、み、見に行かれますデス。」

・・・ミラである。


見に行くと言っても裏である。

狭い土間を過ぎれば裏である。

やり取りは全て聞こえている。

手が離せないだけなのだ。


「ヤオにぃちゃー、お魚捕ったんだってー? 見せて、見せてー」


「おぉミラ、コレコレ」


自慢気に一番大きいのを見せる八尾。釣り人のサガだ仕方無い。


「タケルはね捕ったんじゃなくて、釣ったのよっ。」


一緒に捌いていたアンが訂正する。


「あ、アンねーちゃ、アンねーちゃも魚捌けるの?」


「と、当然よっ、なんたって若奥様ですもの」

そのまま高笑いしそうな勢いである。


・・・


わぁ~コレが生の魚?え?ヤマメ?魚じゃないの?

ほう、魚のカテゴリで種族名がヤマメなのね。

で、どうやって食べるの?ウロコ取ってハラワタ出す?

面白そうー、やるやる、やらいでか!

ふんふん、ナイフでこそぐとウロコが取れるのね、

こそぐと銀色が取れて、でもまた銀色になる~。

面白ーい。で?ナイフを?え?そんなとこに刺すの?

きゃーホントに?よし分かった、えいっ

アッー・・・で?ハラワタを?引っ張って?千切る?

う、うにょーん?、グ、グロイわ・・・

よし私がウロコを取るから、ハラワタ宜しくー


・・・


などという話が有ったのは内緒であるが。


ミラはちょっとだけ頬を膨らましたような感じだが、すぐに

「お魚を?釣る?」


「そうそう、何だ?知らないのか?じゃあ今度一緒に釣るか?」

釣り人のサガである。


「ハイハイ、こっちは全部終わったわよっ」


アンから入るジャブ。ジャブでありジョブである。


魚を捌く時、ハラワタ出しよりウロコ取りの方が面倒だと言うことは、暫く黙っていようと思う八尾であった。

残りのヤマメを捌き終わると、八尾はハラワタを洗った。

そして切り刻んだ。刻むとそのままもみ洗い。

最後にザルに上げられ、塩が振られた。


「タケルっ、ナニコレ?悪魔払いっ?」


「アンねーちゃ、悪魔払いって何?」


話しが進まないので、魚とザルを持って家に入る八尾。


釣った魚に釣られて家に入るミラ。


八尾は、中に入ると竈の上にザルを置いた。


家の中では、べるでがポチのトレーニングをしていた。

鹿ジャーキで釣っていたらしい。

ポチは視線をべるでから離さず、じっと次の命令コマンド待ちだ。


が、八尾と魚を見た途端、尻尾を振って八尾の周りを廻った。

ポチも釣った魚に釣られた。


「ヤオにぃちゃ、お魚は今日食べるの?」

目を輝かせて言う。ミラの見えない尾っぽも左右に大きく動いている。


「おぉ喰っていくか?」

釣り人のサガである。・・・


囲炉裏に柴をくべ、火を強めに熾す。火の上では粥にべるでが用意した山菜が入れられた。

何時の間に採ってきたのだろうか?セリ、ナズナ、ハコベ、まだどれも小さく、陽の当たるトコロに

ほんの少しだけ生えていたのだろうと思われる。七草粥のような風体である。


ヤマメを串に刺し、その串を囲炉裏の灰に立てていく。

ゆっくりと湯気を上げはじめるヤマメ。ヒレだけきつめに塩をしてあるので

乾くにつれ結晶を作りつつ白くピンと張って来るヒレ。

目が白くなり、背側に半ば火が通った所で向きを変える。それとともに若干火側に傾ける。

腹から落ちる脂が落ちて灰に吸い込まれていく。炭火の上で焼くわけではない。

あくまでも周辺で炙るのだ。そこに団扇という商業的な存在は無い。


程よく焼けてきた所で粥も仕上がった。

粥には山菜の浅漬けが付けられた。

それにヤマメの塩焼きだ。見た目にすら、ご馳走である。


「べるで、凄いね。どこで採ったの?」


「はい、ご主人サマ。それは・・」


「あぁ、そのご主人様ってむず痒いから止めて。」


「はい、わかりました マスター」


「いや、あのね・・・」


「了解です。サー」


「あんたら何遊んでるのよっ」


「アンねーちゃ、べるでさんって・・」


「あぁミラさん、ちょっとお手ヲ・・・」・・・ピリッ・・・


「凄いねーべるでさん、この浅漬け美味しそー」


「ささ、皆さん、焼けすぎないうちに頂きまショウ」


「ヤマメ美味しー」

「浅漬け旨いなー、お粥に合う。」

「ちょっと、そこっ、浅漬けばっかり食べないっ」

「サー、肉も焼きますか?」

ガツガツ・モグモグ・・・


夕餉を堪能したミラは、陽がすっかり暮れた中を帰ると言う。

危ないから送ろうか?と言ったところ、

すぐだから良いと・・・ポチも付いているから大丈夫・・・

いやいや、これってリアル送りオオカミじゃ・・・


「ポチ、VIPエスコート カピー?」


ウォンっ。


「ポチは大丈夫だそうデス、サー」


べ・・べるで、一体何をどこまで躾けたんだ・・・

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